第21話「偽りの再会」
ラインツファルトは言葉を失う。伝説の魔道士からの、事実上の敗北宣言。
「奴は天才だ。加えて、アリオストの下で八十年間、魔術の解析と構築だけに没頭してきた研究の鬼だ。真正面からやり合えば、私の手札は解析され尽くす」
「……じゃあ、どうするんです」
「勝つには、奴の『計算』の外側から、一撃で首を狩るしかない」
彼は鍋のスープを皿に注ぎ、ニヤリと笑った。
「そこで、だ。私に策がある。……『伏兵』を用意する」
シュテュンプケが指差したのは、ラインツファルトだった。
「私、ですか?」
「ああ。私は古代魔術の粋を集めて、お前の存在を完全に『消す』。姿も、匂いも、魔力反応も、因果すらも遮断するステルス迷彩だ。……レギーナの意識が私に釘付けになった瞬間、その背後から魔剣で一閃。これしかない」
あまりに単純で、それゆえに高度な隠密性が求められる作戦。対魔術のエキスパートであるレギーナを欺くなど、針の穴を通すような所業だ。
「やれますか、シュテュンプケさん」
「やるさ。……ところでこの鍋の具材、何だと思う?」
唐突な問いに、ラインツファルトは首を傾げる。
「森の魔獣……ですか?」
「違う。これは迷彩の触媒だ。……この森に溶け込み、気配を殺すための儀式さ。食え。骨の髄まで森と同化しろ」
ラインツファルトは、その不気味な肉を見つめ、覚悟を決めて口に運んだ。
「おええ……」
土と、草と、そして魔力の味がした。
その日は空が重たく曇り、しとしとと静かな雨が森を濡らしていた。だが、それよりも耳に残ったのは――異様なうめき声や、断末魔のような叫びだった。
不穏な胸騒ぎを抱えたまま外へ出ると、同じように様子を見に来ていたハルトマンと鉢合わせた。
「……来たか」
そう言って駆け出した彼だったが――すぐに足を止めた。
目の前に、ありえない存在がいた。
淡いドレスを身に纏い、雨に濡れた金髪を静かに揺らす女。
「……っ」
あり、えない。
だがその姿は、間違いなかった。
レナトゥス王国、最後の王、ラインツファルトの目の前で自害したはずの、レティシア・ノイシュタットだった。
胸の奥が締めつけられる。思考が追いつかない。目に映る現実を、脳が受け入れを拒んでいた。
死んだはずの人間が、目の前に立っている。
守れなかった存在が、もう一度、ここにいる。
――これはマヤカシだ。受け入れてはいけない。
そうわかっているのに、どこかで信じてしまいそうになる。
ほんの一縷でも、あのとき失った現実を、取り戻せるのではないかと。
「ラインツファルト、これは罠だ。真に受けるな」
ハルトマンがいつになく慌てて間に入る。
ほんのわずかな間、彼らの間にしじまが落ちる。
その沈黙は、外からの叫び声によって破られた。
「おい、まずいことになった! 私が殺された! 何者かが侵入して、……」
ラインツファルトたちに緊急事態を知らせに来たシュテュンプケも、ただならぬ雰囲気を感じ取って動きを止めた。
「おい、どうしたんだ?」




