表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

ヲタサー王と紙装甲 ~OMODARU~

 上空からヤヱガキを見おろし、中心に行けば行くほどに雲が深くなってゆくことに気づく。不意に、

「ヤクモの護りってなにさ?」

 クロは気になる単語についてウカノに問う。

「古参の神々、クシナ叔母さまたちを護るための結界(ケッカイ)です」

 クシナ――この国の長官の奥さんだ。クロの記憶にあるのは、元気一杯の武闘派少女だ。

 あれから三百年が過ぎている。ウカノの言葉に、カクリヨの姿がクロの中で形を持つ。

「この城塞は、神々の御神徳が漏れ出さないようにするための防壁(フタ)ってことか…」

「キャパシティは、百年前からオーバーしていますけどね」

 ウカノは嘆息。その故はひとえに、

「お祭り、好き過ぎだろう?」

 それである。クロにとっては一昨日の出来事だが、あの『()()()』は、確かに楽しかった。その時、クロは祭りの主催者の中にいたので、全体を楽しんではいない。それでも存分に楽しかった。

「ウカノは、まだお祭りに行ったことがありません」

 ここで、ウカノはポツリ。理由はなんとなく察しがつく。

「キャパオーバーしちゃうのね…御神徳が大幅に…」

「はい」

 しょんぼりと答えるウカノに苦笑をひとつ。

「大丈夫。智慧(ちえ)が漏れるなら、外から押し返せばいい――俺に考えがある。だから、楽しみにしていてください。姪っ子殿?」

 腰にしがみついているクロには見えないが、

「クロぉ~、()()なの?」

 ウカノの肩にちょこんと座っているエベっさんには、彼女の喜色が眩しいほどに見えている。ギュッと襟にしがみつき、ウカノの髪でセーフティを確保。

「着いた先が天国だったら起こしてくれ」

 騎兵隊帽子(キルゴアハット)目深(まぶか)にかぶって、(ハラ)を括るとハードボイルド。

「えっ、()()()()()

 クロは肚を括れぬままに、ニゲジョーズは錐揉み(スクリュー)飛行(ドライブ)。そしてウカノは、

「ヒャッッハァ~ッ! 約束ですよ伯父御さまッ!」

 ()()()()()

「や、約束するからッ! ヒャッハーって女の子が(つか)っちゃダメなヤツだからぁ~ッ!」

 クロはギャン泣きだ。伸し掛かるGに脚が生れたての小鹿(バンビ~ナ)状態で機体から離れそうになっているのだからあたりまえだ。

「俺、マグネットコーティングされてないからッ! 生身だから。装甲ヌノノフクですからぁ~!」

 錐揉み(スクリュー)飛行(ドライブ)は加速する。クロの悲鳴は終息する。白目を剥いて気を失ったのだ。


「ウカノさーん。いくら自分らでもね、(かば)えることと、庇え(揉み消せ)ないことがあるんスよ」

 ウカノは仁王立ちするアナムチの前で、ちょこんと正座し、反省(ハンセー)表明(ひょ~めい)

「さーせんッ!」

「謝ってもダメっスから。ルールっスから。はい、免許証出して」

 と、アナムチ、にべもない。

「目ぇ、(つむ)れんのは()()()までッ! 錐揉み(スクリュー)飛行(ドライブ)()()()っス!」

 アナムチは、ウカノの涙目にも譲らない。

 音は聴こえる。視界も良好(クリアー)だ――()は死んでいたが…。

 ここはヤヱガキの中心。イズモ。透明な筒状の幕に覆われた天空にも届きそうな超高層建築のロビー脇にあるヤソ(ファイブ)の詰所である。

 ウカノは恐る恐る免許証をアナムチへと差し出し、それを受け取ったアナムチは免許証を一瞥し嘆息。

「あと2点で免停ッス。忖度(ソンタク)とかしないッスからね。みんなの安全護るの自分らの仕事ッスから」

 無情にも違反切符を切る。

 ペチペチと、誰かがクロの頬を叩く。眦はどことなくアナムチに似ている。知らない女性だ。

「見えるか? これは何本だ?」

()()のこと? それとも()のこと?」

 眼前でペンを振りながら、別の手で指を2本立てていることをクロは尋ねる。すると、

「ちぃッ」

 舌打ち。

「ヤカミ。彼がタカマノハラからの密航者か?」

 クロの問いは()いて、ヤカミに問う。ヤカミ、アナムチはダッシュで、

「いっ()ぁ~ッ!」

 強めのチョップを彼女の頭に叩き込む。

「「()()ちとかすんなやッ! ()()頼むから! お願いですから!」」

 ここでエベっさん。ぬいぐるみチョップを繰り出すが、あいにくの水分(エネルギー)切れだ。

「や、やるな貴様…所属と名前は?」

「ヤソ(シックス)のスセリ」

 痛みから立ち直ったスセリは涙目で答え、

「総隊長を拝命したエベっさんと、総副官を拝命した――」

 ウカノが()()()に紹介するのを手で制し、

「総副官を拝命したクロと申します。ビッグボアの懐柔には開発部隊の御助力が不可欠だ。さしあたってブリーフィングを開きたい。主だった者たちの召集をお願いしますスセリ。ヤソ(エイト)は会場の設営を」

 ようやく立ち直ったクロは、全権委任状を翳し下知。

 当然、ここで、

「ポッと出のあんたに仕切られる理由はなによ?」

「ブリーフィングルームの設営(せつえ~)って自分らの仕事じゃないっしょ?」

「だいたい、あんた()れんの? 見目麗しい()()()()()()がさぁ~?」

 反発と侮り。あまりのテンプレ展開にクロはニヤリ。ウカノとエベっさんを、

「まぁまぁ。ふたりともぉ~」

 満面の笑みで抑えてなだめ。クルリと振り返ろうとして、

「いよぉ~ゲン坊。楽しげなことやってんじゃねぇか?」

 届いた声と姿に転瞬に固まる。引き攣る。表情が。故は、

「ダルジイにコネバア…」

 そのふたりが居るからだ。矍鑠(カクシャク)獰猛(どうもう)な笑みを浮かべる小柄な老爺の名をコロク。転瞬に消えるや、クロの肝臓目掛けて、鋭く見えない肝臓突き(リバーブロウ)

大六天(ビッグロック)って呼べって言ったよなぁ~? えぇ?」

「背ぇ抜いたんだから、小六天(ちっさロック)じゃねぇか?」

 獰猛(どうもう)(ワラ)うクロは、それを辛うじて左手の掌に受け、

「クマノ小母(オバ)ちゃまって、言ったのよね? そうよねゲン坊?」

 かたやアイアンクローを繰り出す貴婦人の名をクマノ。神世七代(ナナヨ)の二人がかりには、どうにもクロも()なせない。

「そうです。小母(オバ)ちゃまの聞き間違えです。だから、放してくださいお願いします。いま喝入(カツイ)れとかそう言う()()()()()だから」

 徐々に吊し上げられるクロは懇願。

「もう(わらわ)、次は赦しませんからね」

「背ぇばっかりでかくなりやがって。まぁ、研鑽を怠らなかったことは褒めてやる。これまで通りに大六天(ビッグロック)呼びでいいぜ」

 クマノはクロを解き放つ。解き放たれたクロの姿にふたりはホンの少しだけ鼻声。

「久しぶり。コロク小父(オジ)さん。クマノ小母(オバ)さん」

 こうして顕現した状態で会うのは初めてだ。互いに感極まるものがある。

「喝入れなんざ()()()()()()()。お(ジョー)()りてぇやつら全員連れてきな。ハンデつけて相手してやらぁ」

 コロクは鼻汁をズビリ、

「ハンディはそうね。()()()()()かしら」

 クマノもグスリ――(たちま)ちクロの身体(からだ)が重くなる。顔が引き()るのを感ずる。話の流れからビッグネームふたりが喝入れを代行する流れじゃ、

「お嬢。()()()()()も交ざんな。なぁ~に、こいつはぁ~」

「妾たちの最高傑作よ。みんなが束になっても勝てないわ。ね。()()()?」

 ないらしい。思わずに、

「そんなわけねぇだろ? えっ、()()なの? ()()()()()()()()

 素。迂闊(ウカツ)な口を呪ったところで、

「嬉しいぜぇ(わし)らも交ざっていいたぁ」

「まぁ(うれ)しい。ゲン坊と()()()の組手は初めてね」

 もう遅い。ふたりの先達は矍鑠(カクシャク)獰猛(ドウモウ)(ワラ)う。

(タッ)する。これより長官代行の就任式を行う。各位(オノオノ)、得意な得物を持って大練兵場に集合。作戦コードはガンガンイコーゼ。繰り返す。作戦コードはガンガンイコーゼ」

「せめて無手(ムテ)でッ! もしくはジジババはギャラリーで見学しててください。お願いしますッ!」

 クロの魂の叫びは、

伯父御(オジゴ)さま。ウカノの得手は無手です」

 天使な笑顔に無効化(キャンセル)され、ふたりの先達はパチンと指をひと鳴らし。

「お、おてやわらかに…」

 大練兵場の真ん中に、ヤソな神々に囲まれポツリとクロ。


 結果として、

「紙だね神だけに…」

 紙装甲だった。腹部を押えて両膝をつくヤチホコにエベっさんは嘆息。

「クマノの小母(オバ)ちゃま。()()とか言ってごめんなさい。ハンデ追加()()()()で」

 テンプレな反発は掌打(ショーテイ)一発で鎮まった。紙装甲(かみそうこう)もいいところだ。

「世代が進むほど、神から人に近づきます。それにしても――」

 ウカノも嘆息。

「俺、神の爪(ツメ)を封じられてるから()だよ。空から落ちれば死ぬからね」

 クロは、ここぞとばかりに()()目を()ウカノに貼りつける。

「「「いやいや、()じゃねぇだろ?」」」

 反発なヤソ8は、テンプレな反論。

「相手を観察すれば、どこが悪いかなんてわかるだろう? 君は脂を摂りすぎだし、そこの君は――」

 推定()()のモノモチは、手にしたナイフをクロに向けて投げつけるが、

「暗いところで眼を酷使し過ぎだ」

 ナイフの柄を掴んだクロは、柄頭(ツカガシラ)で頭のツボと指のツボを素早く突く。

「め、眼がぁ~。()()()()()がぁ~!」

 モノモチは目を諸手で覆ってのた打ち回り(ムスカシャウト)

「あとジャンクフードばかり摂りすぎだ」

 クロはモノモチの膝裏のツボを爪先で軽く突く。これでは、

「組手じゃなくて」

「診療だわね」

 ふたりの先達は呆れて()()

「んで君は…」

 残る反発者のイワノは、

「う、うわぁーッ!」

 目を瞑って、デタラメにウォーハンマーを振り回す。

無理な食事制限(ダイエット)は、血流を著しく低下させる。そうすりゃ肌荒れや…」

 デタラメな()()()()を、クロは器用に掻い潜り、

「……」

 イワノの耳もとで()()()

「しっかり食べなさい」

 臍下(せいか)にあるツボを突き、

「ひゃんッ?」

 少しばかり艶かしい(エロい)悲鳴(こえ)を漏らしたイワノの、膝裏のツボを爪先で軽く突く。

 イワノはゆっくりと膝をつき、

()()()。言いたいことがあるなら言いたまえよ」

 クロはジト目を貼りつけてくるウカノに抗議(コーギ)の声を張り上げる。

 またズシリと身体が重くなる。

「これって、俺の研鑽(ケンサン)にはならないんだよなぁ~」

 緩急(カンキュー)を絶妙に変え、歩幅を小刻みに踏み変える歩法(ほほう)の名を禹歩(ウホ)と言う。クロが踏んでいるのが、まさにそれだが、これを組手に加えることで相手は、

「な、なんか()()い」

 酔い。また、相手によっては、

「い、いつの間に?」

 視覚情報の認識を錯覚する。クロの体内では練られた()が増幅し、

「ウカノも交ざっていいですよ」

 群がるヤソ隊を、次々に()いでいく。全体的に(まと)まりがない。連携(レンケー)もない。

 時おりウカノの突きや蹴りが飛んでくるが、それらをクロは有効利用(リサイクル)

「ちょぉ、ウカノさん?」

「あ、ごめんヤカミ」

 往なした攻撃を有効利用する事で喝入れの時間を大幅に短縮することにクロは成功。()()が悪いのは、コロク、クマノの横槍だ。往なして有効利用すれば、

「ちょっとぉ~、()()あたると死ぬやつじゃん」

 それとなる。

「あらあら、(アダナエ)は泣き言を聞いてくれるのかしら?」

「これ組手ですからね?」

「下の(もん)を護るのは上の(もん)(ツト)めだぜ?」

 もっともタチが悪いのは、ふたりの連携だ。避ければ犠牲が出て、無手(ムテ)で受ければ、

「いっ()ぇ~ッ!」

 すごく痛い。

「クロ~、()()を忘れてない?」

 エベっさんは()()()抗議(コーギ)

「エベっさん。草薙剣(クサナギ)を盾に変型させて」

「ハイなッ! 背中(こっち)は任されたぜ!」

反撃(これ)も任せたいけどね」

 もっとも、それは適わない。

「フッ、こっちはとっくに水分切(タマギ)れだぜ」

 エベっさん、無駄にダンディー(ハードボイルド)

 クロは踏み留まり練られた()解放(リリース)し、

「ちぇ~。OK反撃(こっち)は任されたッ!」

 先達の攻撃に合わせて掌打(ショーテイ)を打ち放つ。コロクとクマノは受けた衝撃に思わずニヤリ。

喝入(かつい)れは、これくらいでいいんじゃない?」

「ゲン坊。ついでだから着任の挨拶(あいさつ)しちまえ」

 死屍累々(ししるいるい)としている大練兵場を()めつけ軽く提案。

 この場で動ける者は、ウカノくらいだが、彼女もノーダメージではない。仕掛けたすべてが躱され、ムキになって仕掛けたので疲労困憊(おつかれ)気味(ギミ)である。

 クロは嘆息。

長官代行(だいこう)を委任された――」

 少し躊躇(ためら)いがちに、

()()()()()()()です」

 名乗る。両親から貰った名を。すぐに、

「ウツシを音読みするとゲンだから、七代(セブン)からは()()()だなんて呼ばれてます」

 早口で有耶無耶(うやむや)に隠し、

「みなさんは、クロと呼んでください」

 改めて大練兵場に目を向けキャパオーバー。これだけの数の衆目に晒されたことは初めてだ。こんな時、

「聞けぇぃッ! 今日から貴様らを預かることになった()()()()()だ。全体管理の面倒事(メンドー)は、そこの()()()()()()が、実行部隊の総隊長がエベっさんだ。()()()なクロは総副官だ。好きなお菓子はチョコのタケノコだ。貴様らに許された返事はイエスかイエスだ。言葉の始めと終いにエベっさんをつけることを怠るな――」

 頼りになるのが()()()()()。すかさずに()()()()

 (たちま)ち大練兵場に、

「「「「イエスッ! エベっさんッ! イエスッ!」」」」

 が、木霊する。

「いいコンビじゃねぇか」

 コロクは矍鑠(かくしゃく)に笑い、

「そうね。エベっさん、()()()にくれないかしら…」

 (たちま)ちヤソを掌握す(ニギ)るエベっさんに視線を向けて不敵に()()()

「おいおい、まだ盗ってやるなよ」

「あら、カクリヨの長官にしたいだけよ。()()()()し。とってもカワイーし」

 ウサギなぬいぐるみは、それはもちろん愛くるしい。クマノが()()()()()するのも無理はない。コロクは嘆息。

「あげません。エベっさんは()()()のです」

 組手で敗れて、ご機嫌斜めなウカノは釘をさす。

「お(じょう)もこない? エベっさんといっしょにさ」

 クマノは誘惑、ウカノはしばしも思考し、

「その話もっと詳しく」

 誘いに乗る。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ