第百三話
「えらいことになった」
俺は、自室で頭を抱えていた。
あの後も、教室中くまなく探してみたけど、俺のノート達は出てこなかった。
ホームルームのときまでは、確かにあったから。なくなったとしたら、二年の校舎に行ってる間ってことになるけども。
「ううむ。一体なんで」
首を捻る。
間違えて持ってくなら、鞄ごと持ってくはずだし。中身だけわざわざ間違えるなんて、奇妙すぎるよな。
「じゃ、誰かに盗まれた、とか?」
とは言え、教科書やノートを盗んで何になるって話なんだよな。学年一の秀才ならともかく、俺のノートなんか持ってっても大したこと書いてねえぞ。
そんでまた、不思議なんだけどさ。
鞄に入れてあった俺の財布と、葛城先生の本は無事に残ってたんだよ。
物盗りの犯行なら、このへん見逃さないと思うんだよなあ。
「なんにせよ、テスト前なのにひでえよ~!」
俺は、わっと机に突っ伏した。
ことの真相はどうあれ、問題はそこだよ。
テストも間近だってのに、教材がほとんど無いなんて辛すぎる。どう考えても、勉強がはかどらなさすぎるじゃん。
百歩譲って、教科書は図書館で借りれるかもしんないけど、ノートはまずすぎる。
だって、ひと月ちょっと分の板書が、全部パアだもん。
他人からは大したことないノートでも、俺にとっては大事な覚え書きなわけで。俺、ちょっと泣きたいよ。
「提出もあんのに~。誰かに借りるったって、テスト期間にそんなん頼めねえよ……。イノリ……に言ったら、何があったか言わなきゃなんねえだろうし」
ああ、どうしてくれよう。
誰もいない部屋で、悶々と考えた。
西浦先輩は、しばらく友だちの部屋に泊まるらしくって。佐賀先輩は、「演習場に行くから先に寝てろ」って出てっちまった。
だから、グネグネしてても心配かけずに済む。――のは良いんだけど、それはそれで心配だったりする。
だって、西浦先輩が部屋を空けるなんて、初めてだ。
先輩たちは良くケンカするけど、今回のケンカはいつもと何か違う気がしてさ。
全部気のせいで、うまく収まるといいんだけど……。
それから俺は、食堂に行ってきつねうどんを食って、風呂へ行った。
片倉先輩いないかなって、期待して行ったのに、どっちも空振り。
その上、駄目押しで訪ねてったお部屋にもいなかった。
「ああ、吉村くん。あいつは、その……呼び出しがあってな。ああ、危ない相手じゃないから、大丈夫。ただ、今夜は帰らないと思う。せっかく来てくれたのに、ごめんな」
「いえ、そんな! わかりました」
「何か、伝言をあずかろうか?」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です」
応対してくれた茶嶋先輩は、申し訳なさそうに頭を掻いていた。
会えない日は、トコトン会えないな……。
でも、仕方ない。明日の朝、補習のときに話したらいいんだもんな。
気を取り直した俺は、茶嶋先輩にお礼を言って、部屋に帰った。
魔力コントロールの練習だけして、ベッドに入る。
とりあえず、明日早めに登校して。もう一回探してみてなかったら、葛城先生に相談してみよう。教科書を借りられるかもしれないし……。
布団の中でそう決意すると、次第に眠気がやってくる。
――失せものは、風紀室に申請を出すといい。完全ではないが、戻ってくることがある。
うとうとしていると、脳裏に葛城先生の声が甦る。
「失せものは、風紀室っすね。行ってみます!」
「うむ。それはそうと、そう失せものがあっては不便だろう。このペンで名を書くと――」
あれ? こんなやり取り、先生としたことあったっけ。でも、なんとなく聞き覚えがある気がする。
俺、前にも物をなくしたのかな。それで、葛城先生に相談した?
いったいどうなってんだ、俺の記憶力。
また、覚えてないや。




