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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第4章:ジャーニーズエンド
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奴隷たちVS筋肉ダルマ

⋇残酷描写あり

⋇いつものバトル展開



 

 いやぁ、やっぱりネタばらしって楽しいね! 僕が本性を見せた時の、クラウンとハニエルの鳩が豆鉄砲食らったような顔! 今まで勇者らしく振舞った甲斐があるってもんだね!

 しかし脳筋野郎が目くらましからの逃走を選んだのも驚いたけど、ハニエルを連れてったのも驚きだね。僕らに狙われてるのに凌辱だの何だのする余裕は無いだろうし、人質にする気なんだろうか? 僕に人質なんて通じると思ってるんですかね? 僕は凶悪犯が人質を取って逃げようとしていたら、人質を撃てって教わったんだよ。映画で。


「さて。それじゃあ奴隷たちのお手並み拝見と行こうかな。遠見(ディスタント・ビュー)


 追いかけるのが面倒だったから奴隷二人に捕縛を命じた僕は、地面に座り込んで遠見の魔法を使う。イメージ通り、森の中を走るリアとミニスの後ろ姿がリアルタイムで見えた。もちろん視点も自由自在に変更できるよ。何ならリアのスカートの中だって覗けるしね。今日は白とピンクの縞パンか……。


「……私たちにも、君が見ている光景を見えるようにできないかい?」

「そうだね。一人で見てても寂しいし――投影(プロジェクション)


 みんなで観賞して楽しむために、更に魔法で空中に映像を写す。

 もちろんどっかのショタ大天使の奴と違って、角がきっちり九十度になった十六対九のワイド画面――いけね、リアの縞パンがデカデカと映った! 放送事故だ! 一カメに戻して!


「お、映ったな。何か一瞬変なもん見えなかったか?」

「何やら女児用の下着が見えたような……」

「気のせい気のせい。それより二人とも、こっち来て隣で見よ?」


 そろそろバトルが始まりそうだし、僕は二人を隣に招いた。

 二人は普通に僕の隣に腰を下ろしたけど、キラは更にその場で横になって僕の膝を枕にし始めたぞ。どんだけくつろいんでだよ、お前。まあ可愛いから良いけどさ。






 実はリアとミニスはかなり弱い。レーンが言うには魔力も一般人並みかそれ以下で、中程度の魔力消費の外界を対象とした魔法ですら、小規模なものを数回使えるかどうかも怪しいらしい。

 まあ根っからのサイコや絶賛輪廻転生中の奴とは違って、正真正銘の一般人だしね。本来なら戦うことなんて絶対に無かったような奴らだし、戦闘能力が低いのは仕方ない。むしろキラたちを基準に考える方が間違ってるのかもしれないし。


『たーっ! とりゃーっ!』

『くっ……!』


 でも二人は意外とセンスがあって、弱いなりに善戦してた。

 両手の短剣を振るって果敢に攻めるリアの太刀筋は、気が抜けるようなふざけた掛け声に反して一切ブレがない。まるで歴戦の短剣使いが繰り出す一撃のような恐ろしい鋭さに、クラウンは斧の柄やら何やらを使って必死に捌いてる。

 これは僕がリアに短剣の技術を魔法で教え込んだ以外にも、お互いの獲物とリアの身体の小ささも要因になってそうだね。短剣幼女に懐に入られたらクソデカ戦斧じゃどうにもならん。


『クソガキがぁ! 舐めんじゃねぇ!』

『当たんないよー! ほっ、とおっ!』


 だからクラウンは蹴りや拳を使って一撃入れようとするけど、意外とリアはそれを避ける。しかも明らかに無理な体勢であろうと、地面を滑るようにして離れて避ける。

 その秘密はリアの身体には大きめな黒い翼。正直邪魔にしか見えないそれを羽ばたかせて、身体を僅かにスライドさせてるみたい。何が凄いって回避だけじゃなくて、前進しつつ攻撃しながら平行移動するとかいう訳分からん挙動もしてるからね。何そのバグみたいな動き。


「思ったよりやるねぇ。アレはレーンが教えたの?」

「せっかく翼があるのだから、使わなければ損と言うものだろう。それに彼女の翼は身体に対して大きい分、揚力も非常に大きいから使い勝手が良い。サキュバスは翼の大きさは成長してもさほど変わらないらしいからね。身体の小さなリアに相応しい武器だろう?」


 まあせっかくの強みを生かさないのは勿体ないしね。だから僕も同意見だ。

 でも何で近接戦闘は専門外って言ってたレーンが、近接戦闘のための技術を教えてるんですかね? 魔法のこと教えてたんじゃなかったっけ?


『オラァッ!』

『わあっ!? 目がっ、目がぁ~!』


 そんな風に首を傾げてると、映像の中で状況が動く。

 クラウンも脳筋とはいえ戦いには慣れてるみたいで、地面の土を思いっきり蹴り上げてリアの目を潰しに来た。逆に慣れてないリアはこれには堪らず目を閉じて、後ろに下がって目を掻こうとする。


『死にやがれ、クソガキ!』


 もちろんそんなことをすればクラウンの思うつぼ。距離を取れて十全に振るえるようになった斧で、横薙ぎにリアの胴体を刈り取ろうとする。当たっても傷は負わないとはいえ、滅茶苦茶ぶっ飛ぶことになりそうだな、アレ。


『――させない! はあっ!』

『ぐっ!?』

『わーっ!? つ、角! 角に何か掠ったー!?』


 そこで登場するのがミニス。リアの背後から飛び出して、斧の腹を蹴り上げて強引にコースを変える。何かリアが悲鳴を上げたけど直撃してないんだから問題なし。

 ちなみにミニスには魔法で技術を仕込んでやってないし、武器も与えてない。だから素手で戦ってるわけなんだけど、じゃあ役に立たないじゃんって言われると実はそうでもない。


『はっ、ふっ! たあっ!』

『ぐっ、おぉっ……!?』


 獣人は身体能力が人間よりも高い。そしてそれは兎獣人のミニスも例外じゃなくて、特に脚力と瞬発力はピカイチ。だから足の細さに反してその蹴りは、クラウンを呻かせるほど重い一撃だった。

 ピョンピョン周囲を飛び回って駆け回り、凄まじい威力の蹴りを繰り出す。種族の身体能力頼りとはいえ、やられる方は堪んないね。しかもそれをやってくるのが小さな女の子なんだから恐ろしい。

 しかし前にミニスの情報を解析(アナライズ)した時は、確か短剣術師って出たはずなんだけどなぁ。もしかして本人の素養とは関係なく、直近で使った武器が反映されるのかな? 確かにあの時は僕を殺すために短剣を使ってたし。


「相変わらずミニスの蹴りは凄い威力だなぁ。これが獣人の身体能力かぁ」

「クラウンが纏っている筋肉の鎧を容易く打ち抜くとは、恐ろしい脚力だね。彼女も意外と戦いの才能があるのかもしれない」

「ふああぁぁぁ……」


 膝の上のキラの猫耳をフニフニしながら、白熱した戦いのライブ中継を眺める。レーンはわりと興味深げに見てるけど、キラは何か眠そうにしてるよ。猫って夜行性じゃなかったっけ?


『ウロチョロ目障りなんだよ、薄ぎたねぇ畜生が!』

『う、わっ!?』


 さっきからキレっぱなしのクラウンが斧を地面に叩きつけると、地響きと共にその周囲の地面が揺れる。

 さすがに僕らがいる所にまで揺れは来ないけど、あっちはかなり揺れたみたい。ミニスがバランスを崩して転びかけてた。


『臓物撒き散らして死にやがれ!』

『っ!』


 そこを狙って、クラウンの斧が横薙ぎに走る。体勢を崩したミニスはこれを避けられず、できたのは肉厚の刃の前に腕を滑り込ませることだけで――


『――ぬあっ!?』

『ぐうっ……!』


 なのに、ガキィン! 明らかに金属が打ち合うような甲高い音が鳴って、ミニスとクラウンはお互いに弾かれる。しかもミニスは胴を両断されるどころか、掠り傷一つない。ちょっと痛そうに呻いて腕を押さえただけ。


『効か、ないっ……!』

『クソがっ! 何なんだよ、この硬さ!? 鉄板か何か仕込んでやがるのか!?』


 クラウンは弾かれた反動を利用して即座に逆側からもう一撃叩き込んだけど、結果は同じ。刃はミニスのもふもふコートに触れた途端、またしても金属音を発して弾かれる。

 察しの良い人は気付いてるかもしれないね。これはたぶん、ミニスが着てる白コートに僕が破壊不能の魔法をかけたせいだと思う。個人的には破壊できないものって言ったら、ダイヤモンドが頭に浮かぶんだよね。実際には硬いだけで結構脆いらしいけど、イメージ的には破壊できないって感じで。

 そのせいで普通ならコートが破けたり傷つくような攻撃を受けると、一瞬で硬化して防御するっぽい。ただ衝撃は殺せて無いみたいだからちょっと痛そう。


「何かアレだね。意図せずして最強の盾を与えちゃった気がするよ」

「盾などという可愛いものではないだろう。身に付けているものが絶対に壊れない以上、ああして刃物とも問題なく打ち合える。全身に軽く強固な鎧を纏っているようなものだ。そして硬さは武器にもなる」


 種族特有の高い身体能力に加えて、叩き込まれた一撃をダイヤモンドの硬さで受け止める強固な全身鎧。おまけにそれを掻い潜って傷を負わせられたとしても、本人には自動回復と自動蘇生付きとかいう悪夢。自分でやっといてなんだけど、ラスボスだってここまでクソバランスじゃないわ。


『リア、大丈夫!?』

『ううっ、まだ目が痒いけど大丈夫……!』

『じゃあ二人でコイツを打っ倒すわよ! この調子なら私たちでもいけるわ!』

『うん! 早く倒してご主人様の前に引きずり出そー!』


 ちょっと涙目のリアがようやく戦線に復帰する。

 ミニスもだいぶ手ごたえを感じてるみたいで、妙に自信に溢れた晴れやかな顔をしてる。おかしいなぁ、僕といる時はこの世の終わりみたいな絶望に染まった顔をしてること多いのに。


『クソガキどもがぁ……なら、これならどうだ!』

『きゃあっ!』

『なっ……!?』


 並んで突っ込んでくる二人を前にしたクラウンは、大きく飛び退って奥の手を使った。要するに人質。ハニエルの首根っこを引っ掴んで盾みたいに突き出したよ。ていうかいたんだ、お前。完全に忘れてた。

 これには二人とも揃って足を止めて、振り上げた獲物も止めてた。ちなみに驚きの声を零したのはミニスね。お前、確か聖人族にはまだ敵意があったはずじゃない? 何で馬鹿正直に攻撃止めてんの?


「ハニエルを盾にするなんて、何て卑怯な奴だ!」

「君はミニスを盾どころか武器にまでしていたじゃないか。どの口でそれを言うんだい?」


 おっと、レーンさんがジト目を向けてくるぞ。可愛いからナデナデしちゃおうかな。お尻を。

 そんなわけで僕は隣に座るレーンのお尻に手を伸ばそうと思ったんだけど―― 


『あはっ、チャンス! ネイル・ショット!』

『ちょっ!?』

「おっと?」

「おいおい、リア……」


 その手は驚きでピタリと止まった。だって盾にされたハニエルを目にして一瞬は手を止めてたリアが、にやっと笑って容赦なく武装術を繰り出したんだよ? こう、振るった短剣から小さな剣圧を飛ばす感じのやつ。これには隣のミニスも正気を疑うような目をしてたし、僕の隣のレーンも苦い顔をしてたよ。

 もちろんリアの前には盾にされたハニエルと、それを掲げるクラウンがいるわけで……。 

 

『いっ――ああぁぁぁぁっ!?』

『ぐうっ……!?』


 リアの放った一撃はハニエルのお腹を貫通して、後ろのクラウンの腹を貫いた。主にハニエルの血反吐交じりの悲鳴が上がったね。

 ていうかコイツ、マジで人質ごとやりやがった。確かに僕でもやるだろうけど、さすがにもうちょい悩んだと思うよ?


「素晴らしい。人質に惑わされず、むしろ人質ごと攻撃する。その決断力と冷徹さに百点満点」

「へぇ。やるじゃねぇか、アイツ。将来有望だな」


 その場に崩れ落ちるハニエルとクラウンの姿を眺めながら、僕とキラは心からの拍手をリアに送った。

 ちなみにレーンとミニスは完全にドン引きしてたよ。どうせ死んでも蘇生できるし別に良いじゃん?







⋇人質を撃てと教わった映画=高速で走り続けないと爆発する爆弾を仕掛けられたバスが出てくる映画

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