奴隷の扱い方
⋇残酷描写あり
⋇グロ描写あり
「さて、と。それじゃあ夜まで適当に時間を潰すかな。でも何かこの街はあんまり面白くないし、部屋に引きこもってようっと」
レーンからキラの殺人欲求の発散を頼まれた僕は、とりあえず夜になるまで待つことにした。こんな真昼間から殺人だなんていまいち気が乗らないしね。それにこの街はどっちかっていうと兵士たちの街で娯楽も少なそうだし、特に街に繰り出したいとも思わないから、部屋で時間を潰すことにしたんだ。
ちなみに鬱屈した思いを抱えて爆発しそうなキラはお昼寝で、レーンとリアは飽きずに魔法の講義、クラウンは酒場で酒盛りとナンパをしてるみたい。ハニエルは絶賛気絶中ね。
しかしアイツ、なかなか目を覚まさないな……睡姦……いや、何でもない……。
「それで、臨死体験はどうだった? お花畑見えた?」
だから暇つぶしに使うために部屋に残したミニスに対して、死後の世界のことを尋ねてみる。結局さっき尋ねた時には教えてもらえてないからね。
本当はリアがミニスと一緒に魔法の講義を受けたいって言ってたんだけど、僕が使うから駄目って言ったら頬を膨らませながらも素直に従ったよ。アイツ、本当聞き分けが良いっていうか、優先順位がしっかりしてるよなぁ。
「……せて……さい……」
そして肝心のミニスは、僕の質問に対して消え入りそうな声でぽつりと呟く。
何か俯いて生まれたての小鹿みたいに震えてるのは何でだろうね? キラに抉られた目玉だってちゃんと治してあげたのに。
「うん? エッチな事させてください?」
「死なせて、ください……! お願いします……私を、解放してください……!」
ガバっと顔を上げたかと思えば、とんでもないことを言いながら縋りついてきた。その目はもう半分くらいイっちゃってる感じだね。怖っ。
「こらこら、せっかくもう一度掴み取った命なんだから大事にしなきゃ駄目だよ? あっ、そうだ。僕がいないところで死んじゃったら蘇生までに時間かかるよね。じゃあ自動で復活できるように――自動蘇生」
「ひっ……!」
何かこのままだと知らないところで自殺しそうだから、それを防ぐために自動で蘇生する魔法をかけておく。
えっ? 奴隷なんだから自殺をしないように命令すればいいだろって? それじゃあ面白くないでしょ。あんまり行動を制限しすぎたら、救いを求めて右往左往する滑稽な姿が見られないじゃんか。
「――からの心停止」
「あっ……」
そして自動蘇生の効力を確かめるために、強制的に心停止を引き起こす魔法で殺す。
僕の服の裾を握りしめて縋りついてきてたミニスは、くわっと目を見開いたかと思えば、胸を押さえながらずるずると床に崩れ落ちて行ったよ。
「――あっ、はあっ!? ゲホッ! ゴホッ!」
大体十秒後くらいかな? 一瞬身体を震わせたかと思えば、軽く咳き込みながら生き返った。やっぱこの世界の魔法ってクッソ便利だよね。
「よし、自動的な蘇生もばっちり機能したね。ただ肉体が木っ端微塵になったりした場合は蘇生するかどうかわかんないなぁ。あ、じゃあ自動で肉体が再生する魔法もかけとけばいいか――再生」
爆死とかの対策として、自動で身体の損傷が回復する魔法もかけておく。
ちなみにイメージは再生力の向上とかじゃなくて、時間の巻き戻しの方ね。これなら塵になったとしても再生できるはずだし。
しかし真の仲間になれない無価値な奴隷相手に、ここまで魔法を大盤振る舞いするなんて……僕ってとっても優しくない?
「――からの爆発」
「ぎゃあぁぁあぁあぁぁぁぁああぁぁっ!!」
そして、ボカーン! 効果の確認のために、四つん這いで息を切らしてたミニスの右腕を爆発させる。
部屋中に血だの肉だの骨片だの飛び散って凄い光景になったよ。なお、僕も返り血塗れになりました。ちょっとそこまで考えてなかったね。まあ魔法で綺麗にできるし、可愛い女の子の血肉だから別にそこまで汚くは無いかな。
えっ、罪悪感? そんなもんないよ。むしろ耳をつんざく悲鳴が大変心地よかったです。
「あ……ぎ……あ、があぁぁっ……!」
「おっと、爆散した腕がにょきにょきと生えてきてるね。成功だけど……気持ち悪っ」
今度もしっかり魔法は機能してるみたいで、蹲って丸まったミニスの肩からぐじゅぐじゅと肉やら何やらが生えてきて、数秒くらいで白い腕が元通りになった。
さすがに吹き飛んだ袖は戻んないみたいですね。衣服まで戻るとこはイメージしてなかったから仕方ないか。
「はぁ……はぁ……! お願い……もうっ、殺してぇ……!」
「だから命は大事にしなって。さ、次は木っ端微塵になってみようか? 大丈夫、痛みは一瞬だよ。たぶん」
「ひっ!? ま、待って! 待って下さい! お願いします! 何でもしますから、もう痛いことだけはやめてください!」
「ん? 今、何でもするって言ったよね?」
ボロボロ涙をこぼしながら、もう一度必死にすがりついてくるミニス。顔が涙やら何やらでぐちゃぐちゃだから振り払おうと思ったけど、お決まりの言葉を口にされたら仕方ない。
「はい、何でもしますっ! だから、だから……もうっ、苛めないでぇ! 痛いの、やだよぉ……!」
「ふーん……」
そして興奮する泣き言を零しながら、蹲って泣きじゃくり始める。
これはどうも心がへし折れてるみたいだね。特に酷いことをした覚えはないのになぁ? さっきまでのは僕の基準じゃ拷問じゃなくて、ただの人体実験だし。
「まあ、そこまで嫌がるなら考えてあげるよ。でもさ、お前はリアと違って替えが利くどうでもいい存在だってことを忘れないようにね? 僕の役に立てないようなら、拷問用の魔法の練習台にでもするから、そのつもりでね?」
「は、はい……分かり、ました……!」
「よろしい。素直な子は可愛いねぇ?」
「ひっ……!」
聞き分けの良い素直な子を褒めるために優しく頭を撫でてあげたのに、ミニスはまるで蛇に睨まれたカエルみたいに身体を凍り付かせてたよ。自分に触れてる僕の手に対して、まるでムカデか何かが肌を這ってるみたいな反応してるね。さすがの僕もあんなキモイ生命体と同一視されたら傷つくよ?
「そういえば、興味なかったからお前とは最低限のお話しかしてなかったね。せっかくだから色々お話しよっか。何か僕に聞きたい事とかある?」
夜まで暇だからミニスで時間を潰すことにして、とりあえず魔法で返り血とか部屋に飛び散った血肉を綺麗にして、気になる質問タイムに入る。
何だかんだで奴隷にしたって言っても、真の仲間にはなれない奴だから与えた情報も最低限なんだよね。いや、というかレーン印の契約だけして、後は放っておいたような気もするな……。
「あ、あの……ご、ご主人様は一体、何者、なんですか……?」
「そっからかぁ。まあ話してないし仕方ないか。僕は魔王を倒して聖人族に平和をもたらす勇者――の皮を被った、この世界を創り上げた女神様の忠実なる僕だよ。目的は全種族間の恒久平和とかいう難題だね」
「え……?」
びくびくおどおどしながら尋ねてきたかと思えば、僕の答えにぽかんとするミニス。
アッハッハ。何だその『コイツ、何言ってんだ?』みたいな反応は。失礼だな。しばくぞ?
「何かなその反応は? 僕みたいな異常者が世界平和を謳うなんて、ちゃんちゃらおかしいとでも思っちゃったのかな?」
「あ、ち、違います! す、素敵です! 正に心優しくて慈悲深いご主人様に相応しい、崇高な目的だと思います!」
にっこり笑いながら尋ねると、ミニスはがくがく震えながら必死に笑顔を作って僕をよいしょしてくれる。
ちょっとイカれてるとはいえ、僕は紛れも無く人間だ。だから可愛い女の子に褒められるのは嬉しいよ? でもこれは明らかに言わせてる感があって好きじゃない。『褒めなきゃまた痛い事される!』って顔してるもん。まあそういう必死な表情は好きなんだけどね?
「僕、そういう上っ面だけのお世辞とか大嫌いなんだよね。というわけで、嘘を付けなくしよう。名前は、えーっと――虚言罰則」
「――っ!?」
僕が魔法をかけたことで一瞬絶望の面持ちをしたかと思えば、ぎゅっと瞼を瞑って何かに耐えるような顔をするミニス。でも僕が今かけた魔法はそれ単体じゃ痛みも苦しみも無い魔法だから、数秒後には目を開けて不思議そうな顔をしてたよ。
しかしそろそろ魔法のネーミングにも困ってきたぞ。やっぱ常日頃からメモ帳とかノートに向かって、じっくり魔法を作って記録しないと駄目だね。さすがにそろそろ最初の頃に作った魔法の名前とか忘れそう。
「……あ、あれ? い、今、どんな魔法を、私にかけたんですか……?」
「もしも僕に対して嘘をついた場合、とりあえず全身に致死の電流が流れるようにしといたから。まあ嘘をついたら雷に打たれると思っておけばいいよ」
「ひっ……!?」
「お前さっきから『ひっ!』しか言わないね。もっとバリエーション無いの?」
僕がさっきかけた魔法は、まあ今言った通り。嘘を吐くと電気攻めにあう素敵な魔法だよ。
ちなみに相手の同意を得ないとかけられない類の魔法になりそうだったから、魔法のかけ方はちょっと工夫しました。具体的にはこの魔法をかけられた対象が、自分の発言を嘘だと認識することでビリビリする感じ。思考を覗いたり干渉するわけじゃなくて、思考そのものがスイッチになる魔法だね。
ただこれ、真っ赤な嘘でも本人が心の底から真実だと思ってたらたぶん反応しないんだよなぁ。でも即興で作った魔法だから仕方ないか。尋問用とかの魔法は後でまた作っておこう。夜まで暇だし。
「まあいいや。さて、ここで質問です。あなたは僕のことを優しくてカッコいい素敵なご主人様だと思っていますか?」
「え……」
そんなことより重要なのは、魔法の効果を確かめること。
軽い気持ちで尋ねたのに、僕の問いにミニスは一瞬で顔面蒼白になっちゃったよ。嘘をついて僕を持ち上げると身体に電撃走るし、かといって正直に答えたらお仕置きされるって思ってるんだろうなぁ。
前も言ったけど、僕は別に言葉遣いなんて気にしないのに。こんなに優しくて笑顔が似合う顔付きしてるのに、どうしてそんな意地悪に思われてるんだろうね?
「五秒以内に答えような。はい、ごー、よーん、さーん、にー、いーち――」
「お……思って何かない! こんな残酷で頭のおかしい人間は生まれて初めて見たわ! お前なんか苦しんで苦しんで惨めに死ねば良いのに!」
指を折りつつ――あっ、ミニスの指の骨をへし折りながらって意味じゃないよ? ともかく指を折りつつカウントダウンしていくと、ミニスは覚悟の決まった顔で僕へのとんでもない罵倒を口にしてきた。
奴隷の癖に主人にこんな悪態吐くとか、これはもう処刑とか拷問一直線のコースだよね。この世界ならまず間違いなくこのどっちかだし。
「……よしよし、良く正直に言ったね。えらいえらい」
でも僕は別に言葉遣いは気にしない性質だから、正直に答えたミニスの頭を優しく撫でてあげたよ。
というか何も間違ったこと言ってなかったしね。残酷で頭がおかしいのは自分でも分かってるし、一般的にそういう人間は地獄の苦しみを味わいながら死ぬべきだってのも分かるし。いや、分かってるだけでそんな気はさらさらないよ?
それにミニスはもう心へし折れたんじゃないかと思ってたから、まだ反抗的な態度をとれるなら実に喜ばしいことだよ。むしろハニエルよりメンタル強いのでは?
「さ、触んないで! あんたに触られると寒気が走る!」
ウサ耳や尻尾の毛をこれでもかと逆立てながら、僕の手を振り払うミニス。
うんうん。やっぱり奴隷でもそういう口調や反応が無いとつまらないよね。できるだけ壊れずに僕を楽しませてくれると嬉しいなぁ?