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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意
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緊急会議

「はーい、それじゃあ緊急会議を始めまーす。とりあえずみんな適当に座って」


 常に思考速度も多少加速してるから、動揺したのは実時間でほんの一瞬。次の瞬間にはすぐさま内側の時間の流れを加速させる結界を張って、作戦会議の時間を作り出した。

 加速の度合いは千倍だから、ラツィエルが気づいて戻って来るまでに一秒あったとしても十六分弱ある計算だ。それくらいあれば対策も誤魔化しも言い訳も用意できる……よね?


「ご主人様、酷い! リアとミニスちゃんにあんな酷い事するなんて!」


 開口一番に会議と関係ないことを口にするのは、頬を膨らませてぷりぷりと怒るリア。顔面を石畳に叩きつけられたことを根に持ってるみたいだね。

 でもコイツには僕の防御魔法がかかってるから、多少顔は汚れてても傷は一切無かったよ。たぶんミニスの顔は酷いことになってるだろうけど、アレは真の仲間じゃないから知ったこっちゃない。


「ごめんごめん、あの場ではああするしかなかったんだよ。それに別に痛くなかったでしょ?」

「それは……うん。確かに全然痛くなかったよ? 何だか不思議な感じ……」

「じゃあその話はこれでおしまい。時間は有限だからね。まだ何かあるなら後で聞くから、ちゃっちゃと会議を始めよう」

「はーい……」


 一応は納得してくれたみたいで、リアは僕がその辺にばら撒いた椅子代わりの死体にぽすんと座った。直前にちょっと躊躇ってたけど結局座った辺り、なかなかイカれてるよね。

 えっ、キラ? もちろん躊躇いも見せずどっかりと腰を下ろしてたよ。当たり前じゃないか。 


「その前に私も一つ良いかな? 遺体を椅子にさせようとするのは止めてくれ。君なら椅子だろうとソファーだろうと好きに創り出せるだろう?」


 ただしレーンは嫌そうな目をしてそんなわがままを口にする。

 コイツ結構死体に関しては優しいっていうか、変なところで潔癖だよね。生者にはめっちゃ厳しかったのに。


「レーンはわがままだなぁ。じゃあしょうがない。お前にだけ特別に椅子を創ってやるよ。ほら」

「んー? ご主人様ー、これどうやって座るの? おっきくてトゲトゲした変なのが邪魔で座れないよ?」

「分かった、わがままは言わない。だからこのおぞましい椅子をどこかへやってくれ」


 せっかく要求に応えて椅子を作ってあげたのに、逆にレーンはドン引きしてた。ちょっと座面にデカいゴーヤみたいなのが垂直に二本生えてるだけで、他は普通の椅子なのになぁ。


「はいはい、物分かりが良くて何よりだよ。まあ僕は鬼じゃないから普通の椅子なら用意してあげよう」

「それはありがたいが……本当にこれは普通の椅子なのかい……?」


 今度はお遊びも悪戯も無い普通の椅子を作ってあげたのに、レーンはなかなか座ろうとしなかった。座面を撫でたり、座面の裏を覗き込んでめっちゃ警戒してたよ。

 そんな警戒しなくても、貴重な初めてを大人の玩具なんかで奪うわけないじゃん? ちゃんと僕の手で散らすから大丈夫だよ?


「さて、と。おふざけはここまでにして本題に入ろうか。まずは今さっき何が起きたのかってことだね。どう思う、レーン?」

「直前の大天使の発言から察するに、転移の魔法が行使されたんだろう。だが我々は君の手で他者の魔法の影響を受けなくなる防御魔法をかけられている。そのため我々だけが置いてけぼりを食らったということだね」

「やっぱそうだよねぇ。あー、どうしよこれ……」


 予想通りの答えが返ってきて、僕は頭を悩ませる。

 別に置いてけぼりを食らったこと自体は良いんだよ。重要なのは、何らかの手段で魔法を無効化したのを知られてしまったこと。記憶の改ざんとかは相手が受け入れてくれないと無理だし、これをどう誤魔化すかが問題なんだよね。


「ご主人様、どうしてそんなに困ってるの? ご主人様が凄い魔法を使えるってだけだよね?」

「さすがに他人の、それも大天使の魔法を無効化できるのはヤベーだろ。しかも自分だけならともかく、あたしら三人にまで効果を及ぼしてるからな。下手な誤魔化しは通じねぇだろうなぁ?」

「ちょっとキラさん、何で楽しそうなんです?」


 リアの素朴な疑問に答えたキラは、あろうことか凄い楽しそうにケラケラ笑ってた。危機的状況ってほどでもないとはいえ、人が困ってるのを見て楽しむなんて趣味が悪いなぁ。


「そりゃお前がどうやって切り抜けるのか楽しみだからに決まってんだろ? まあ心配すんなよ。例えお前が邪悪の権化だってバレて国を追われちまっても、あたしはどこまでだってついてってやるからよ?」

「わーい、嬉しいなぁ。この玩具は絶対自分のモノだっていう、捻じ曲がった執着を感じるぞー」

「君も他人のことは言えないだろう。それより、一体どう誤魔化すんだい?」

「うーん、そうだねぇ……」


 問題は二つ。転移魔法の影響を受けなかったこと、そしてそれが僕以外に三人も同じだということ。

 一番簡単なのは僕が防御魔法をかけましたって正直に言うことなんだけど、こんな魔法をかけられるなら魔力がとんでもなく膨大だって気づかれちゃうだろうしなぁ。まあ実際は膨大どころかほぼ無限なんですがね?

 とにかく魔力に関してだけは悟られちゃいけない。これは僕にとっての生命線だし。何か無いかなぁ、魔力に関係なく納得させられる誤魔化しやホラや言い訳は……あっ、そうだ!


「勇者として授かった能力、ってことにするのはどう?」


 考えてみれば、女神様の加護が弾いたせいで僕は勇者としての能力を授かってない。だったらこれを授かった能力にしちゃえばいいんじゃないかな? それなら魔力に話を広げることも無く、納得させられるかもしれない。


「ほぅ? 悪くはないが、さすがに能力としては強力過ぎるね。相応の制限を設けた方が良いだろう。その上で、私たちにも能力が及んでいる理由を考えるべきだ」

「制限に、他の人にも及んでる理由かぁ……」


 難しいなぁ。強すぎず弱すぎず、それでいて他者にも影響を及ぼしている理由かぁ。下手な能力に決めちゃうと、勇者として振舞ってる間はその能力がずっとついて回るし、ここは真剣に考えないとな。

 まあこの街の次に向かう所は国境だから、それほど気にしなくてもいいかもしれないね。でも念には念を入れておこう。


「きゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何やってるのキラちゃん!?」

「いや、死体に目玉があったから抉り出しとこうかなって。お前もやってみるか?」

「やらないやらない気持ち悪い!」


 そうして僕が真剣に思考を巡らせ始めたってのに、リアの悲鳴と何やらグロテスクな水音がすっごい邪魔してくる。見ればキラがいつもの採取行動を取って、リアは顔を手と翼で覆って悲鳴を上げてたよ。

 こっちが真剣に考え事してるってのに、何やってんだアイツら……。

 






 そんなわけで若干二名が役に立たないので、レーンと二人で時間ギリギリまで相談を重ねた結果、これならいけるという確信を得た僕は満を持して結界を解除した。

 あ、もちろん椅子代わりの死体は全部回収したし、誰かさんが採取作業で撒き散らした血もしっかり綺麗にしたよ。気付いたら出した死体の目玉全部持ってかれてたわ。回復魔法かければ元通りになるから良いんだけどさ、後片付けくらいは自分でやって欲しいよね?


「――いや、これは驚いた。どういうわけか君たちは転移させられなかったようだ。ハニエルを始めとして何人かは転移させられたあたり、僕の失敗ではないだろう。君の方に何か心当たりはあるかい?」


 そして驚愕の事態に見舞われたかのように狼狽える演技をしながら、待つことおよそ三秒くらい。突如として目の前に転移して現れたラツィエルが、とても興味深そうな目を向けてきた。

 というかコイツ、相当な魔力を持ってるんじゃない? 他人を転移させられるって時点でかなり膨大のはずだし、その後に自分だけとはいえもう一度転移できるのかよ。魔力を数値化して見られないのが悔やまれるね。


「はい。これは恐らく、私が勇者として授かった力が原因かと思われます」

「ほう。それは興味深いね。発生した事象を考えるに、君の力はさしずめ魔法の無効化……という所かな? 非常に強力な能力だね」

「確かに私の力は魔法の無効化ですが、強力でもなければ使い勝手もよくありません。意思とは無関係に勝手に発動してしまう上、一度発動すると二十四時間は発動しないのです。しかも魔法の種類や効果に関わらず、私に影響が及ぶ場合、私には一切の効力が無くなってしまうのです。例えそれが回復魔法であろうとも……」

「なるほど。なかなかに難儀な力だね……」


 十分くらい必死に練って考えた設定を口にすると、ラツィエルはかなり渋い顔をして頷く。どうやら納得はさせられたみたい。そりゃあこんだけキツイ制限付ければね?

 魔法の影響を無効化ってのは、確かにこの世界じゃ相当な強さだと思う。でも自分の意志でオンオフができない、攻撃も回復も問わず勝手に発動、二十四時間に一回だけ、なんて縛りがあったら戦闘でも日常生活でもほぼ役立たずの能力だし。

 逆に言えばそれくらいの制限をつけないと、魔法の無効化なんてのはチートも良いところだってことだよね。まあどうせただの嘘と誤魔化しだから関係ないがな!  


「だが、その力は君自身にしか及ばないのだろう? 何故彼女たちにまで効果が及んでいるんだい?」


 さて、問題の問いが投げかけられたぞ。でも大丈夫。ここもちゃんと考えてあるからね!

 そういうわけで僕は言いにくそうに眉を顰める演技をした。ついでに後ろに控えてる真の仲間たちに、恥ずかしそうにちらりと視線を向けるのがポイントだぞ。


「それは、その……内容は彼女たちのためにも口には出せませんが、私の力は特定の行動によって他者にも影響を及ぼすことができまして……」


 要するに、僕と肉体関係を持った人にもこの能力が付与される、的な理由を考えました。

 実際にはまだヤってないけど、真の仲間であるこの三人とはその内ヤる予定だしね。そこまで嘘は言ってない。少なくとも種族的な問題で定期的に気持ち良くならないといけないリアに関しては、僕の欲望を抜きにしても絶対いつかヤらないといけないだろうし。


「……ああ、そういうことか。ふふ、君は大人しそうに見えてなかなかお盛んなようだね?」

「も、申し訳ありません……」


 しっかり意図を読み取ってくれたみたいで、ラツィエルは意味深な笑みと突然の下ネタを口走る。

 あーあ、ショタ大天使様がそんなこと言うから、周りで見てるショタコンのお姉さんたちが興奮していらっしゃる。鎮めて差し上げろ。


「いやいや、別に責めているわけじゃないさ。ただ一度でも手を出したからには、ちゃんと幸せにしてやりたまえよ? それが男の甲斐性というものだ。尤もそこのゴミに関しては飽きたら捨てても構わないがね」

「ご忠告痛み入ります、ラツィエル様。ですがしばらくはこのゴミが一番楽しめそうなのです。とても良い悲鳴を聞かせてくれるので」

「ヒッ……!」


 そう言って僕がリアの肩にポンと手を置くと、リアはわりとガチめな悲鳴を上げた。

 うーん、これはさっき顔を地面に叩きつけたことをまだ引きずってるのかな? 好感度がだいぶ下がってしまったみたいだね。後で何か適当にご機嫌取りをしておこう。

 えっ、ミニス? 真の仲間にはなれないからアイツはどうでもいいよ。当たり前でしょ?


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