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悪逆非道で世界を平和に  作者: ストラテジスト
第3章:白い翼と黒い悪意

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大天使ラツィエル

⋇残酷描写あり

 襲撃とかあって馬車の乗客が何人か死んで、更には僕の奴隷が一人増えたけど、それ以外は特に何も問題なかった次の街への道程。

 魔獣族の夜襲も最初の一回だけで済んだから平和なもんだったよ。たぶん夜営の時に張ってた魔物除けの結界に、魔獣族除けの効果も追加したのが理由だと思う。追加してなかったらどうなったかは分からん。

 あと『すでに内側に魔獣族がいるのにそんなもん張って大丈夫?』って思った人もいると思う。実際僕も一瞬そう思ったしね。だから念のために結界の効力を、侵入のみを阻むものにしといたし。たぶん排除も効力に入れてたら、リアとかキラは結界の外に吹っ飛ばされてたんじゃない? ちょっとそれは見てみたかったかも……。


「これさぁ、街っていうか最早要塞じゃない?」


 そうして辿り着いた街の名前はアリオト。でも外観はまんま巨大要塞って感じだった。高い城壁で周囲を囲んでるのは当然として、よく見れば城壁には等間隔に小さな四角い穴とかが開いてる。たぶんあそこから大砲とか打つんじゃないかな。

 城壁の上にも距離を開けて兵士たちが立ってるし、街の外を巡回してる兵士たちもいるみたいだ。物々しいなぁ。


「あながち間違ってはいないね。ひとたび戦争になれば、この街が前線基地の役割を果たす。兵糧の保管、防衛、作戦基地に兵士の休養……役目が多岐に渡る街だからこそ、街自体の大きさも群を抜いているのさ。大半は兵士たちの住居や訓練施設、食料の倉庫などで占められているがね」

「あたしはこの街嫌いだな。夜の楽しみが難しそうだ」

「よ、夜の、お楽しみ……!」


 ためになりそうでならなさそうなことを口にするレーンと、意味深な事を口走って肩を落とすキラ。そして頬を赤く染めて控えめに食いつくリア。

 しかしレーンはともかく、後の二人は他に何か考えることないんですかね? お前ら最近殺しのことかエロいこと口走ってるだけだぞ。やっぱり長い馬車移動の日々でストレスと欲求が溜まってるんです?


「そういえばこの街には大天使がいるんだっけ。ハニエル、ここの大天使ってどんな奴?」


 とりあえず二人への対応は後回しにして、この街にいるであろう大天使の情報をハニエルに尋ねる。できれば可愛い女の子だと良いんだけどなぁ。


「……あれ? ハニエルは?」


 返事が返ってこないから周りを見渡すと、何故かハニエルの姿が見当たらなかった。

 でも筋肉ダルマは当然のように僕の隣に立ってたよ。リアが微妙に大人しいのはコイツが近くにいるからだね。夜襲の時に死んでくれればよかったのに……いや、それはそれでちょっと困るか……。


「ん? 大天使様ならあそこにいるぜ? あんなゴミにも手を差し伸べるなんて、本当にお優しい方だよなぁ?」


 脳筋で底抜けに明るいクラウンにしては微妙に皮肉っぽい言い方で呟きながら、背後に視線を向ける。たぶん過激派としてはハニエルみたいのは好きになれないんだろうね。

 釣られて僕も後ろを見ると、かなり後ろの方にすっかりボロ雑巾みたいになったミニスと歩調を合わせて、ゆっくりと歩いてくるハニエルの姿があった。

 あー、そういえばミニスの存在すっかり忘れてた。数日に渡って馬車で引き回しされてて、最初はちょっと気になってたけど最終的に僕は飽きちゃったんだよね。最後の方は最早悲鳴も聞こえてこなかったし。あ、何か引きずられる音はずっと聞こえてたよ。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」

「大丈夫ですよ? あなたに酷いことをした人たちは、もうここにはいませんから。ほら、不安なら私と手を繋ぎましょう?」


 見た感じミニスの目がもう完全に死んでたね。おまけに誰に対してのものかも分からない謝罪の言葉を延々と垂れ流してる。やっぱり馬車引き回しの刑で心がぽっきり折れちゃったのかな?

 ハニエルがいたらたぶん止めたんだろうけど、それを見越してか聖人族たちはハニエルを先頭の馬車に乗せてたしなぁ。本当この国の人間って屑だなぁ。


「どうしたんだコイツ? 馬車にでも酔ったのか?」

「ああ、そういえばキラも先頭馬車だったね。彼女はそもそも馬車に乗せてもらえなかったのさ。よくある聖人族たちの惨い仕打ちに、すっかり心が折られてしまったらしい。少々態度に問題があったとはいえ、子供相手にあんな仕打ちをするとはね……」

「おいおい、何言ってんだよ? 生意気な魔獣族のクソガキにこそ必要だろ? 優しい勇者様が命だけは助けてやったんだから、むしろ感謝しろって話だぜ。なぁ?」


 そう同意を求めつつ、僕の肩に手を回してくるクラウン。

 だから何故馴れ馴れしく肩を組む? こういう何もしてないのに馴れ馴れしく接してくる野郎は特に嫌い! あと暑苦しい!


「まあね。他の聖人族の奴隷になるよりは幾分マシだって分かってもらえただろうし、調教の手間が省けたって考えようよ。僕の奴隷の方がまだマシ……だよね?」

「……コメントは控えさせてもらうよ」

「あたしはお前の方がいいぜ? 他の奴じゃつまんねぇしな」

「………………」

「わーい、もうキラだけでも味方ならそれでいいや……」


 ノーコメントが二名、好意的なのが一名の女の子たち。

 近くにクラウンがいるから猫を被ってるリアですら、無言で視線を逸らしてたよ。僕は奴隷にそんな酷い事してないのに、何故だ……。


「遅れてしまってすみません、勇者様。先ほど私を呼びましたか?」


 僕が自問自答してると、小鹿みたいに震えるミニスの手を引いたハニエルが近寄ってくる。

 心なしかデカい翼の片方で包むように抱きしめてあげてるね。そこまで器用に扱えるなら馬車の中でも畳むなり何なりしてほしかった。


「うん。確かここって大天使がいるんだよね? それって一体――」

「――おやおや、誰かと思えばハニエルじゃないか。君が勇者の旅に同行したという情報は真実だったのか。珍しいこともあるものだね」

「ん?」


 僕がハニエルに大天使のことを尋ねようとしたその時、どこからともなく生意気そうな声が割り込んできた。声質は子供っぽかったけど、口調はちょっとレーンに似てたね。

 だから思わずレーンに目を向けると、何故かアイツは空を見上げてたよ。釣られて僕も空を見上げると、そこには何と四枚の翼を広げた小柄な天使が佇んでた。どうも件の大天使が向こうから来ちゃったみたいですね。女の子じゃないみたいだし、帰れお前。


「おおっ、ラツィエル様だ! 何て神々しいお姿……!」

「キャーッ! 見て、ラツィエル様よ!」

「素敵ー! ラツィエル様ぁー!」


 大天使様の降臨に、周りの人たちも心なしか嬉しそうな顔をしてるよ。特に何かこう、二十代くらいのお姉さんたちの黄色い声が一番多い気がするね。

 大天使ことラツィエルさんがちょうど目の前に降りてきたからじっくり観察してみたんだけど、第一印象は生意気系眼鏡ショタって感じかな? 野郎なのに銀髪を首の後ろの辺りで結んで纏めてるし、青緑色の目はキザっぽく細められてて腹が立つ。あとハニエルは青い法衣なのに、コイツは真っ白な法衣を着てるからちょっと目に眩しく映るね。   


「ラツィエルさん! お久しぶりです!」

「ああ。久しぶりだね、ハニエル。前の戦争以来だから数百年ぶりかな? しかし戦いの嫌いな君が、魔王討伐の旅に同行しているとはね。この目で確かめたくて待ち構えていたが、実際に見ても未だに信じられないよ。一体どういう風の吹きまわしだい?」


 そして喋り方も何か腹が立つ! 皮肉っぽい言い方に無駄に長い台詞! これで女の子ならまだ許せたってのに! 僕にショタコンのケは無いぞ!


「はい。私としても、このままではいけないと思いまして……それで、勇者様の旅に同行させていただくことを決めました」

「ふむ、良い心がけだね。それで、彼らが今回の魔王討伐メンバーかい?」


 そう言って、ラツィエルは興味深そうな目を僕らに向けてくる。

 僕とレーン、クラウン、それからキラに関してはそのままの目だったけど、リアとミニスを見た時はすっごい冷たい眼差しに変わってたよ。二人がびくっと震えるくらいにはね。

 解析(アナライズ)使わなくても結果は見えるんだが……まあ一応使って調べておこう。



名前:ラツィエル・コクマー

種族:大天使

職業:魔術師

聖人族への敵意:無し

魔獣族への敵意:極大



 はい、予想通りの過激派ですね。まあコイツは真の仲間になれないってことで、逆に安心だね。レーンとキャラが被ってる上に、性別が野郎だなんてこっちからお断りだよ。可愛い女の子を出せ。


「――お初にお目にかかります、大天使ラツィエル様。私はクルスと申します。後ろの者たちは私の信頼のおける仲間たちです。以後、お見知りおきを」


 だけどもちろんそんな心情はおくびにも出さず、きっちり傀儡勇者の仮面を被って対応する。跪いて頭を下げて、完璧にへりくだった状態でね。初対面の人に気に入られるのはわりと得意なのさ。

 僕に続いて後ろで皆も跪く音が聞こえてきたけど、微妙に動揺したっぽい空気が感じられたのは何でかな? そんなに僕が人に頭を下げてへりくだってるのが意外?

 

「ふむ、クルスくんか。覚えておこう。君は勇者にしてはなかなか礼儀を弁えているようだね」

「ええ、もちろんですとも。憎き怨敵を地上から一掃せんと、数千年の長きに渡り戦い続けている我らが輝ける希望に対して、どうして馴れ馴れしく接することができましょうか。こうして直に言葉を交わすことすら、畏れ多いと感じるほどだというのに」


 そうして適当に相手が喜びそうな美辞麗句を並べ立てる。跪いたまま頭だけ上げて、視線を合わせながらね。あんまり露骨にへりくだりすぎるとレーンみたいに何か見抜いてきそうだし。


「ふふふ。いいね、君は自分の立場を弁えている。気に入ったよ。前の勇者とは大違いだ」


 でも口調がレーンに似てる割には勘は鈍いみたいで、疑うどころかご満悦な表情してたよ。

 しかし前の勇者は一体どんな接し方したんですかね? まさか馴れ馴れしく気安く、対等みたいにタメ口で話したとか……? 


「……ところで、そんな君に一つ尋ねたい。何故君の信頼のおける仲間とやらには、汚らわしいゴミが混ざっているんだい?」


 文字通りゴミを見るような目でコイツが視線を向けたのは、当然ながらリアとミニス。

 ただ一人視線が行かなかったところを見るに、キラは魔獣族だとは思われていないっぽい。どいつもこいつも鈍いというか、何というか……。

 それはともかく、ニヤリと不敵な笑みを浮かべつつ聞いてきたから、これはたぶん僕の反応を見たいんだと思う。さて、どうしようか。まあ向こうがゴミだって言ってるんだから、それにふさわしい扱いをするべきかな。


「きゃっ!?」

「がっ……!?」


 そんなわけで跪いてたリアとミニスの後ろに回り込んで、二人の頭を掴んで顔面から地面にガッと叩きつけた。鼻の骨よ折れろとばかりに、地面にめり込むくらい一切の手加減無く全力でね。

 もちろん多少は可哀そうだとは思うよ? でもコイツらには僕が張った防御魔法があるから――あっ、いけね。ミニスには張ってないじゃん。

 あー、何か地面にめりこんだミニスの顔の下から、じわじわと赤い池が広がっていらっしゃる。心なしかすすり泣く声も聞こえるね。まあ死にはしないから今は放っておこう。


「お目汚し、大変失礼いたしました。ですが、これらは必要なモノなのです。右も左も分からない魔獣族の国に入った後、知識があるのと無いのとではその後の行動が違いますからね。それからお恥ずかしい事ですが、私も男ですので、その……」

「なるほど、道案内と性奴隷か。君はよく考えているし、ゴミの利用方法もしっかり心得ているようだ。近年稀に見る素晴らしい勇者だよ」

「お褒め頂き、光栄の極みでございます」


 濁した感じの答えでも察してくれたみたいで、ラツィエルは周りのお姉さんたちが喜びそうなニコニコとした笑顔で褒めてくれた。やっぱり前の勇者がよっぽど酷かったみたいで、めっちゃご機嫌だよ。

 でも個人的にはショタの笑顔はいらん、ロリの笑顔を寄越せ。そしてその笑顔を僕がこの手で曇らせるから。


「――よし、では特別に僕の屋敷へ招待してあげよう。これは非常に名誉なことだよ? 何せ勇者の中で招待されたのは君が初めてだからね?」


 何だと? コイツ今何て言った? 僕の屋敷?

 マジかよ。一人称が僕と同じじゃないか。僕ともキャラが被るからやめてくれよ。ただでさえ生意気系銀髪眼鏡ショタ大天使とかいう属性てんこもりで、こっちがキャラの濃さで負け気味だってのに……。


「これは……」

「……ん?」


 そんな風に色々と自分のキャラの薄さを嘆いてたら、何やら後ろでレーンが呟く。

 そして気が付いたら僕らの足元に光る魔法陣が浮かんでて、あまりの眩しさに僕が瞼を閉じると――


「……おやぁ?」


 光が過ぎ去った後、この場から何人かの姿が忽然と消えてた。

 消えてたのはラツィエルにハニエルの大天使コンビ、それからクラウンとミニス。逆にこの場に残ってたのは、僕とレーン、リア、そしてキラ。世界を平和にするために活動する予定の英雄たちだね。

 いや、ていうかこれ、もしかして転移魔法に置いてけぼり食らった感じ? そういや残ってるのは僕が防御魔法かけた奴だけじゃん。やっべ、まさか転移魔法なんて使ってくれるとは思ってなかったから、解除するの完全に忘れてたぞ。どうしよ、これ?



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