奴隷のしつけ方
⋇残酷描写あり
魔獣族による襲撃を無事乗り切った夜が明けて、僕らは晴れやかな朝を迎えた。
でも無事って言っても多少は犠牲が出たらしいよ? 果敢に戦った冒険者の一部とか、逃げ遅れた一般聖人族の一部とかね。まあ全然知らん人が死んだとか言われても、ちっとも心は動かされなかったけどさ。例え知ってる人でも動いた気はしないがな!
とりあえずそんなどうでもいいことは脇に置いておこう。だって今の僕にはもっと重要な差し迫った問題があるから。
「ウウゥゥゥゥッ……!」
「どうしようかなぁ、コイツ……」
それは昨晩ゲットした捕虜の扱い。
別に忘れてたわけじゃないよ? でも昨晩はハニエルに付き合わされて、死んだ奴らのために手作業で墓を掘されて疲れてたんだ。だから眠らせたまま縛り上げて、抱き枕にして朝まで放っておいたってわけ。さすがにそろそろ処遇を決めないといけないからとりあえず叩き起こしたんだけど、牙を剥いてめっちゃ威嚇していらっしゃる……。
「早く私を解放しなさいよ、この薄汚い人間共! あんたたちみたいな屑が私をこんな目に合わせて良いって思ってるわけ!?」
そして罵倒の言葉が出るわ出るわ。自分の立場が分かってるんですかね、コイツは?
あ、そうそう。コイツが襲ってきた時は暗闇だったから何の獣人かよく分かんなかったけど、今は明るいし寝てる時に死ぬほど触り倒したから分かるよ。レオタードと網タイツがとっても似合いそうな、可愛らしい白いお耳がぴょこっと生えたウサ耳っ娘でした。肩口当たりの長さの髪も耳と同じで白くて、目はウサギらしい綺麗な赤。
まあロリだからバニーの格好させたとしても色気には乏しいね。でも僕としてはロリがバニーの格好をすることによって醸し出される、倒錯的な悩ましさと危険な雰囲気が大好きです。あー、女神様にもバニーガールになってもらいたいなぁ……。
「……口の利き方には少々気を付けた方が良いよ。君が生きるも死ぬも、地獄の苦しみを味うも、全てはこの男の気分一つなのだからね」
僕の隣に立つレーンが、やんわりとウサ耳っ娘に助言する。
レーンの他にもこの場にはキラとリアもいて、僕の真の仲間が勢揃いしてるよ。ここは女子用テントの中だから当たり前と言えば当たり前かな?
あ、ハニエルがいないのはアイツがお墓参りに行った隙を狙ってテントに入ったからだよ。昨晩お墓を作ったばっかりなのに、もうお墓参りだなんて本当にマメだなぁ……。
「まあ一応本人に聞いてみようか。君はどうしたい? この場で苦しみにのた打ち回りながら死ぬ? それとも僕の奴隷になって生き長らえる? 僕はどっちでも構わないよ?」
「マジか? じゃあ二人で一緒に殺そうぜ。少しずつ切り刻んで、先に殺しちまった方が負けな?」
「ひっ!?」
せっかく僕が優しく尋ねてあげたのに、殺人鬼がとんでもないことを口走ってウサ耳っ娘を怖がらせる。可愛いウサ耳が縮こまっちゃったじゃないか、全く……でもちょっと楽しそうだって思った自分がいる……。
「もうっ! ご主人様もキラちゃんも、あんまりこの子を苛めちゃ駄目だよ!」
「僕はまだ苛めてない。それと夜襲の時にグースカ寝てたお前に発言の権利はない。隅っこで大人しくしてなさい」
「あうぅ……」
両腕を広げて庇うように割り込んできたリアを、ぽいっとテントの隅に放り捨てる。
何で庇ったのかはよく分かんない。たぶん同じロリだからシンパシーでも感じたんじゃない?
「結局この子はどうするんだい? 可哀そうだが、面倒ならば殺してしまった方が後腐れも無いと思うよ。それに私としても、君の奴隷になるくらいならば今ここで殺してしまった方がこの子のためになると思うんだが……」
「んー、どうしようかな。コイツ、真の仲間にはなれそうにないしなぁ……」
夜襲で殺しに来た時点で、もう真の仲間にはなれそうにないことは分かってた。それでももしかしたらと思って解析で調べてみたけど、結果は聖人族への敵意が【大】で憎悪塗れ。殺意の【極大】よりマシとはいえ、やっぱ真の仲間にはなれないよな、コイツ……。
「よし、じゃあ殺そうぜ?」
「やっ!? い、いやぁっ……!」
とりあえず殺したいキラが鉤爪を右手に装着して、ウサ耳っ娘のウサ耳二つを左手でわしっと掴む。そしてそのまま持ち上げて――っておいおい、耳が引っこ抜けたらどうするよ。そんなカブか何かを収穫するような真似はやめてさしあげろ。
「お、お願い、します……! 何でも、しますから……殺さないで、ください……!」
ん? 今、何でもするって言ったよね?
なんてお約束な反応はさておき、百点満点の命乞いに僕は大変興奮しました。だってついさっきまで強気に罵ってきてた癖に、今は泣きじゃくりながら命乞いをしてるんだよ? これに興奮しないで何に興奮しろって言うのさ?
でも僕はまだ何もしてないのに堕ちちゃったのが残念と言えば残念かな。せっかく素直にさせる方法を色々と考えてたのになぁ。
「まあ本人もこう言ってるし、とりあえず殺すのは止めて僕の奴隷にしよっか。こんな怯えた子を殺すなんて、考えるだけで胸が痛むしね」
「なるほど。それで本当の所はどうなんだい?」
「すっごいゾクゾクして最高に興奮する。あと僕の身の回りの世話をしてくれるメイド的な存在が欲しかったからちょうど良いかなって。真の仲間になれないなら好感度を気にする必要も無いし、遠慮なくアレコレ好き放題できるでしょ?」
リアも正真正銘奴隷とはいえ、分類としては真の仲間だから奴隷として扱ってはいないんだよね。
でもこのウサ耳っ娘は違う。真の仲間にはなれない過激派だから、別段珍しくもなければ価値も無い。極論使い捨てにしたって何の問題も無い。だから口には出せないような事だって平気でできるし、色々と魔法の実験とかもできそう。だからまあ、ここでただ殺すのは勿体ないなって感じだね。どうせ殺すなら極限まで利用して搾り取ってから殺した方が有益でしょ?
「君は以前から好き放題していたような気もするが、まあ私には理解できない線引きや定義が君の中にはあるんだろう。ともかく君の奴隷なら君の好きにしたら良いさ。ただしおかしな真似をする時は私の目と耳に入らないところでやってくれると、精神衛生上助かる」
「はーい、努力します」
諦めたようにため息を零すレーンに、多少前向きな返事を返す。
さすがに僕も人に見られて喜ぶ趣味はないからね。でも好ましい反応をしてくれるならやぶさかではない。
「――というわけで、めでたく今は殺さないことに決定しました。ただし今後の態度や働きによっては、地獄を見せてから殺すのでそこのところよろしく」
「は、はい……ありがとう、ございます……!」
「……チッ」
僕がにっこり微笑んで処遇を伝えると、ウサ耳っ娘は感極まったようにぽろぽろと涙を流し始めたよ。歓喜の涙の割には顔がめっちゃ青いし生まれたての小鹿みたいに震えてる気がするけど、それはたぶんウサ耳離した殺人鬼がすっごい残念そうに舌打ちしたからじゃない?
ていうかコイツ、そんなに殺したかったの? ちょっと欲求溜まりすぎてませんかねぇ……。
そんなわけで心のへし折れたウサ耳っ娘は、特に脅した覚えも無いのに素直に契約魔術を受け入れてくれた。心をへし折る手間が省けて助かったと言うべきか、たっぷり苦しめることができなくて残念と言うべきか……。
それからハニエルには怒られそうだけど、お約束として解析で色々調べてみたよ。まあ特に目を引いたり興味深かったりする情報は無かったね。
名前:ミニス
年齢:14
身長:138
種族:魔獣族(兎人族)
職業:短剣術師
スリーサイズ:65/49/72
交際人数:0
経験人数:0
敵意以外に調べた情報はこんな感じ。
ていうか今気づいたけど、僕の女の子ってロリが多い……多くない? 女神様も入れると現時点ですでに三人いるぞ。さすがにこれ以上ロリが増えると、僕がロリコンだって悪評が広がっちゃうかも。
まあその内ロリコンなんて可愛いもんだと思えるくらいの悪評がつくほど、悪逆非道の限りを尽くすつもりだし、そこまで気にする必要はないな! ロリが最高なのは事実だし!
「はあっ……相変わらず悪趣味な催しだ……」
そんなこんなで、再び馬車に揺られる時間。僕の隣に座るレーンが心底重いため息を零しながら、荷台の後方に視線を向ける。そこから見えるのはどんどん遠ざかっていく美しい自然の光景と――
「はっ! はっ! た、助けっ……! 止ま、って……!」
縛られた両手を荷台から伸びるロープに繋がれて、馬車に併せた全力疾走を強制させられてるウサ耳っ娘――ミニスの姿。
もう完全に息が上がってて、今にも倒れそうなくらい覚束ない足取りなのに、それでも必死に走り続けてる。そりゃ倒れたら地面を引きずられてえらいことになるからね。走るしか選択肢はないわな。
『惨すぎる! お前に人の心は無いのか!?』とか思った人もいるだろうけど、それは前提からして間違ってるよ。だってこれ僕がやってることじゃないし。あと僕にもちゃんと心はあるし。
「夜襲で聖人族も何人か死んだわけだし、多少の報復はあるかなとは思ってたけど……さすがにこの仕打ちは僕でも予想外だね」
そう、これをやってるのは屑さに定評のある聖人族。僕が襲撃者の生き残りを奴隷にしたことを伝えたら、笑顔でこんな拷問染みた仕打ちを提案してきたんだよ。これにはさすがの僕もドン引きしたね。僕やキラみたいな根っからの異常者の提案ならともかく、まともなはずの一般人たちからの提案だったし。
「おらおら、ちんたら走ってんじゃねぇよ! ケモノ風情が!」
「勝負しようぜ! 腹に当たれば十点! 頭に当たれば五十点な!」
「やるやる! 石はいっぱい拾ってきたからな!」
そして泣きながら必死に走るミニスに向けて、荷台から石やら何やらを投げまくるこの民度の低さよ。
最初の頃はミニスも避ける余裕があったよ? 全力で駆ける馬車に併せて走るって言っても、身体能力が獣基準の獣人だからね。それに馬車を引く馬たちだっていつまでも走れるわけじゃないし。
でもね、聖人族の屑冒険者共は馬たちにわざわざ魔法を使って、体力を回復させて無理やり持久力を与えたんだよ。当然ミニスの方にはそういうの無いっていうか、僕に頼んで魔法の使用を禁止させたから、かれこれ一時間近くなけなしの体力で全力疾走させられてるね。
さすがにもう避ける気力も注意を払う気力も無いみたいで、投げられた石で顔やら額やらウサ耳やらがボロボロの血だらけになってるよ。凄い可哀そうで……可愛いなぁ……。
「意外だね。君ならこれくらいは考えつくものだと思っていたよ。馬車の旅では日頃から行われていることだよ? 奴隷に罰を与えるため、奴隷の心をへし折るため、余興として楽しむため、様々な理由でああして馬車にロープで繋げて走らせるのさ」
「聖人族ってクソすぎない? やっぱ滅ぼした方が世界のためになるんじゃない?」
「魔獣族の国でもこのくらいはやっているのではないかな? いや、人間はそこまで頑丈ではないから、死なないように多少はマイルドかもしれないね」
「……やっぱ一旦全部滅ぼしてリセットした方が良い気がしてきた」
女神様が怒るからやらないけど、たぶん平和な世界を実現するには一回全部滅ぼすのが最適だよね、これ。大雨からの大洪水とかで、穢れた者を一切合切洗い流す感じでさ。
ん? どっかで聞いた話だな……?