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第1話 最強の竜は、ある日突然跪く!?

 ご好評につき、連載化しました。

短編版を読んだ方も楽しめるようにストーリーの細部を肉付けしてありますのでどうぞ楽しんで読んでいただきたいと思います!それではどうぞ!

 王都の最果て、日がな一日陽の当たらない地下に佇む古文書館。


そこが、これといった特技もない平凡な書記官――トア・レンバートの職場だ。

今日も今日とて、カビと埃の匂いが染みついた羊皮紙の山を仕分けるだけの、退屈で平和な一日になるはずだった。


ズシン……、ズシン……


地下の強固な石床を揺らす、地響きのような重々しい足音が近づいてくるまでは。


「ひえっ!? じ、地震、ですか!ひゃんっ!?」


隣のデスクにいた老司書が、情けない短い悲鳴を上げながら瞬時に机の下へと滑り込む。


直後、


ガガガァン!!


樹齢数100年の大木から作られた館の重厚な鉄扉が、まるで紙切れのように勢いよく左右に撥ね退けられた。


「な、なんだ……? あ、扉のヒンジが壊れちゃうな……。はぁ。」


トアがのんきにそんな心配をした瞬間、部屋の空気が一変した。

突然入ってきたのは、一糸乱れぬ漆黒の軍服に身を包んだ、屈強な帝国近衛騎士の集団。


普段は皇帝陛下の御前しか守らないはずの精鋭たちが、血相を変えて一斉に左右に分かれ始める。

そして、命じられたわけでもなく、直立不動のまま、石像のように完璧な敬礼をもって「その人」を迎え入れた。  

 

 プラチナブロンドの美しい髪を高い位置でポニーテールに結い、歩く姿すら絵画のように冷徹で美しい女性。

帝国最強の聖騎士にして、古竜の血を引く半竜(ハーフドラゴン)――アルテリゼ・ヴァルハイト公爵閣下だ。


(うわぁ、本物のアルテリゼ閣下だ。写真や噂通り、すごくかっこいいなぁ……。)

 

トアは感心したように目を丸くした。

だが、周囲の状況はそんな呑気なものではない。

 

彼女が身体から無意識に放つ龍圧(オーラ)――触れれば精神をへし折られるほどの圧倒的な威圧感のせいで、古文書館の空気は完全に氷結していた。

 

隠れていた老司書は恐怖のあまり白目を剥いて完全に気絶し、周囲の近衛騎士たちですら、なぜか額から滝のような冷汗を流し、今にも胃を抑えて倒れそうなほどガタガタと震えている。

 

 そんな絶望的な空間の中、アルテリゼ公爵は軍靴の音をカツン、カツンと響かせ、真っ直ぐにトアのデスクの前へと歩みを進めてきた。


その後ろでは、灰色髪の狼獣人である副官が、まるで「頼むから世界の終わりよ、今すぐ来てくれぇ!」

とでも言いたげな、ものすごく悲痛な顔をして天を仰いでいた。

 

アルテリゼ公爵が、トアの目の前で足を止める。

至近距離で浴びせられる、燃えるような琥珀色の瞳。普通の人間なら恐怖で呼吸を忘れるか、その場に平伏する局面だ。


しかしトアは、

「あ、近すぎてお顔がよく見えないな」などと考えながら、おっとりと小首を傾げた。

もともと人外の脅威や殺気に対して、致命的なほど鈍感な性質なのだ。


「――トア・レンバート殿だな?」

 

アルテリゼの声が静かに響く。

冷徹でありながらも、深く気品に満ちた、ガラスの鐘を叩いたような美しい声。


しかし、トアは気づいていた。

その声が、わずかに、本当にわずかに上擦っていることに。


「はい、そうですが……公爵閣下、俺のような平民の書記官に何か御用でしょうか? あ、椅子、お持ちしましょうか?」


「いや、そのままでいい。……っ、すぅ……」

アルテリゼは小さく深呼吸をした。


その瞬間、彼女の美しい白磁の肌が、耳の裏まで一気に朱に染まる。

彼女はすっと背筋を伸ばし、大真面目な、それでいて今にも泣き出しそうなほど緊張で強張った顔のまま――トアの目の前に、綺麗に片膝を突いた。


「は?」


トアの口から、間の抜けた声が出る。


帝国最高峰の貴族であり、一国を滅ぼせる力を持つ最強の聖騎士が、しがない下級平民のデスクの前で跪いているだ。


後ろに控える近衛騎士団が

「な、何が始まるんだ……!?」と驚愕に目を見開き、副官はついに顔を両手で覆ってブツブツと祈りを捧げ始めた。


 アルテリゼはトアの目をじっと見上げ、白い軍手(グローブ)を嵌めた手で、トアの無骨な手をそっと両手で包み込んだ。



……その手は、まるで生まれたての小鳥のように、ガタガタと激しく震えていた。

龍圧(オーラ)のせいで周囲は怯えているが、彼女自身は今、羞恥と緊張で心臓が破裂しそうなのだ。



「トア殿。……突然の、その、非礼を許してほしい。……だが、どうしても、他の誰でもない、私の口から伝えたかったのだ……!」


「は、はい……?(手、すごく温かいな……)」





「私と、けっ……けっ……、けっ、結婚してほしい……っ!!」

 



「結婚」という単語を口にした瞬間、アルテリゼの頭からポッ、と湯気が出そうなほど顔が真っ赤になった。

彼女は震える手をさらにギュッと握りしめ、必死に言葉を紡ぐ。

 


「わ、我がヴァルハイト公爵家は、全力を、資産を、武力を、そのすべてを尽くして君を幸せにすると誓おう! 毎日美味しいものを食べさせるし、危険な目には絶対に遭わせない! だから――私の、夫になってくれ……!」

 

 

 上目遣いでトアを見つめるアルテリゼの瞳は、潤んでうるうると揺れている。

帝国最強の半竜(ハーフドラゴン)は、トアの前でだけ、完全に余裕を失ったただの恋する乙女になっていた。



「……は……はいぃぃ⁈」


 

 古文書館の静寂の中に、トアの二度目のマヌケな声が響き渡った。

 

 後ろで副官が「ああ、言っちゃったよ……」と言わんばかりに、深いため息をつきながら羊皮紙の山に頭を突っ伏した。

 最後までお読みいただきありがとうございました! 

読者の皆様の応援のおかげで、日々執筆を続けられています。


 もし続きが少しでも気になったり、興味湧いたら下部にある【ブックマーク】や【星(☆☆☆☆☆)】で感想代わりにポチッと応援していただけると本当に嬉しいです!

 短編版にてブクマと評価をしてくださった方は本当にありがとうございます♪感謝感激です!

他長編作品も連載中のため興味ある方はお気軽に読んでいただけたら幸いです!

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