【カウントダウン】_②
「ごめん、ほんとごめん」
「時間ないって言ってるのに」
「ごめんなさい」
「服買う時間なんて取れないんだからね」
「おっしゃる通りです。すみません」
「めんどくさいんだからね、ニットの網目に入った粉」
「俺が洗います、申し訳ございません」
「なにその格好、気温十一度の春先に半袖とか。わんぱく小僧か」
「好きでわんぱくしてません……」
「私もだよ。寒いよね」
「心よりお詫び申し上げます」
まだ碧波の髪についている小麦粉を払おうと手を伸ばす。じっとりと睨まれて、即座に引っ込めた。まずい、本気で怒ってる。正直言って、大きな猫に威嚇されるよりも怖い。
俺が百パーセント悪いときの碧波は、土下座しようが謝罪文を書こうが、三時間は許してくれないのだ。どうしよう。喧嘩してる場合じゃないのに。
「チャーシュー麵大盛味玉トッピング半チャーハンセット」
「そ、それでいいのッ?」
「今回だけね。それで、いかがですか?石動さん」
一旦部屋をあとにして、ドアの前で立ち話。石動博久というこの男性は、アパートの大家らしい。手元には仏花の花束と、チョコレート菓子の入った袋がある。そういえば、そろそろお彼岸か。
「北条さんの周りで、何か変わったことなぁ……たまに掃除しに来る以外は、ほぼ顔も合わせないから何とも。私はここに住んでいるわけでもないしね」
「お家はここじゃないんですね。そのお花は?」
「近くの墓地に供えに行く途中で、様子がおかしかったから見に来たんだよ。北条さんも困るね。アレルギーと言ったか?だとしても、先に大家に連絡してくれなきゃあ……しかも探偵なんて」
碧波の腕時計を盗み見ながら、控えめに食い下がる。
「それに関しては、北条さんが帰って来てからお話しください。部屋がこのままでは、石動さんも都合が悪いのでは?」
「それはそうだが」
「僕たちも依頼を受けている身ですので、何かしら情報を得ないと帰れません。
最後に会ったのはいつですか?いや、お会いしてなくてもいいです。ご連絡を取ったりはされていませんか?大型家電の取り付けとか、インターネットの契約の許可とか」
ほんの同意から生まれた僅かな隙を、しつこく突き詰める。石動は少し黙ったのち、ひとつ溜め息を吐いた。
「……三日前にエアコンを取り付けたけれど」
「業者はどこです?」
「町の電気屋だよ。私の知り合いが務めていて懇意にしているんだ。品揃えがいいから、うちのエアコン関連は全て任せていてね……島田電気商会っていう店だよ」
あぁ、それだ。
隣を見ると、碧波も怖い顔のまま頷いた。まだ目も合わせては貰えないが、考えは一致しているらしい。
「わかりました、北条さんについては充分です」
「ついては、と言うと?」
「石動さんご自身のことを、ひとつだけ。北条さんに対して、どのような印象をお持ちですか。勝手なイメージで構いません」
碧波の質問に、石動は困ったように眉を下げる。握り込められた手の中で、仏花のラッピングフィルムがくしゃりと皺を寄せた。
「さっきも言ったけど、ほぼ顔を合わせないからね。勝手なイメージ?
……そうだな。賢い人、かな」
「賢い?」
「イメージだよ。さぁ、用が済んだなら帰った帰った。他の居住者が迷惑するだろう」
「あ、ちょっと、まだ用は……」
「今度来たら強制的に契約して貰うよ」
追い出されるように部屋から離れ、車まで見送られる。
タイムリミットまで、あと二十一時間。




