真相は時の中で_①
カラオケ店の前で足を止める。がらがらとけたたましかったキャリーケースが突然静かになり、耳に違和感が残った。一歩後ろにいた朝賀大紫が慌てて立ち止まる。
「追突するかと思った。どしたの?」
「未解決事件の跡地だよ、大紫兄」
石碑には『坂本龍馬中岡慎太郎遭難之地』の文字。あぁ、と幼馴染の顔が綻ぶ。
「近江屋跡地ってここか。今はカラオケ店なんだ…あとで龍馬と小園くんと推理大会だな」
「とっておきの議題だね」
この幼馴染と私、深月碧波とで探偵を始めてから早くも半年が過ぎた。思った以上に依頼もあり、報酬もなかなか貯まってきたと思う。今日はその報酬で観光に来ている。数カ月前の事件でお馴染みの京都だ。といっても、以前写真で見たような金閣寺やら銀閣寺やらの名所は人が多すぎるため断念。比較的人の落ち着いている(それでも多いけど)四条周りに来たわけだ。観光地を巡るというよりは、ゆっくりするのが目的。最近疲れる事件ばかりだったし、なかなか悪くない。
「お前たち置いてくぞ。もう小園に置いて行かれてるんだからな」
声の主は遼山龍馬。大紫兄の高校時代の同級生で、若くして警視を務めるエリート警察官…なんて説明は今更か。数メートル先から呼ばれ、石碑をあとにした。小園くんの背中はもう少し遠くに。真ん丸い背中がうきうきと揺れている。
「小園のやつ、楽しそうだな」
「他人事か。楽しいだろ」
「俺たちはあんな誰でもわかる感情表現しなくなっただろ。元々してたかも怪しいが」
「元からそういうタイプじゃないのは確かだねぇ」
一歩後ろを歩く龍馬くんに同調してみせると、隣から軽く笑い声がした。元々なかったのか欠落したのか、元々ないものがマイナスになったのか。他人には読みづらくても私達からすればお互いの顔は結構わかりやすく見えるし、おかげで人の感情を読み取るのは得意だし、あまり困っていないからいいけど。
「そう言えば、沖縄で起こった強盗殺人事件の容疑者が県外に逃走中と言われてる。どんな奴かは全く特定できていないらしいが。気をつけろよ、探偵や警察の京都旅行と言えば…」
「殺人事件のお膳立てって決まってるね。相場では」
探偵役とは往々にして事件を引き寄せるもの。しかし私達『Deadlock』の場合は、というより職業で探偵してる人は依頼がないと動かないから、今のところ引き寄せてる実感はない。
「あ、やばい」
「ん?」
呟いた大紫兄の顔を覗き込む。遠くを見つめる大紫兄は、何とも絶望的な事実を口にした。
「小園くん見失った」
「………」
「………」
えー、マシとはいえ観光客に溢れかえったこの河原町の中で。
宿泊先への行き方を唯一知っている小園くんを。
見失っただと⁉
「龍馬、小園くんに電話!どこかで落ち合うぞッ」
「駄目だあいつはキャリーケースにスマホを入れている!」
「なんで⁉てか私達誰も宿泊先知らないの?なんて名前の所かも知らないの?ほんとに⁉」
「だって小園が『案内は僕に任せてくださーい!』ってご機嫌だったから!」
「モノマネしてる場合じゃないだろぉ!」
思わぬ波乱に遭った私達は、強盗殺人犯のことなどすぐに忘れ去った。だとしても、『探偵と警察が旅行をしている』事実に少しの危機感は必要だったのかも知れない。
と言っても、気を付けたところで事件が防げるわけもないが。
私達はいつでも、私達の外で起こった事件を解きに行っているだけなのだ。だから、それを防げるほど近くにいるとすれば─
それは私達が、当事者だったときだけだ。




