白い聖夜の逆さま密室_①
毛布にくるまったまま体を起こす。曇った窓を袖で拭うと、真っ白な景色が目に入った。雪だ。今年の十二月二十五日はホワイト・クリスマスらしい。
枕元にはプレゼント用の青い袋。開けてみるとベージュのマフラーが入っていた。思わず苦笑がこぼれる。
さすがの碧波も引くかもな。
「雪だね」
セーターを着込んだ幼馴染─深月碧波が部屋に入ってきた。紫色の袋を抱えて、朝からご機嫌だ。
「サンタさん来た?」
「来たよ。私とよく似た思考のサンタが」
碧波が袋から出したのはベージュのスヌード。まさか色まで被るとは。普段通りの反応に胸を撫で下ろす。
「今日から使っちゃおっと」
「外出るの?寒いよ」
「でっかい雪だるまの一個でも作らなきゃ勿体ないでしょ。大紫兄も早く来なよ」
碧波が出て行くのを見送り、毛足の長いカーディガンを羽織る。マフラーを持ったままリビングに下りたところで、タブレットから通知音が響いた。思わず溜め息がこぼれる。こんな日にも依頼は来るらしい。好きか嫌いかで言えば、もちろん好きなことではあるけれど。
マフラーに顔を埋めながら、一面に雪の積もった外へ。雪玉をころころ転がしている碧波の横にしゃがみ、足元の雪を固め始めた。
「その気になった?」
「なった。これ作ったら一旦家入ろうね」
「依頼?クリスマスっぽいのがいいな」
「ばっちりだよ。ここより雪まみれのとこ…ぎゃんッ!」
突如として首に衝撃が走った。これは何だ、寝違えか?コートを着ているにも関わらず、感じるのは寒気。そうか冷たいのだと手をやれば、雪の塊が乗っている。マフラーしてるのになんで?
「何これ!」
「いやぁ、あはッ…ごめん、背中に投げようと思ったんだけど…ふへッ」
振り返ると、両手に小さい雪玉を持った碧波が笑いを堪えていた。
「…あぁおぉばぁぁぁッ!狙うならちゃんと狙えッ!ええい、こうしてやるこうしてやるッ」
「ぎぇー!!」
震えながら両手で雪を掬い、碧波の頬に押しつける。怪鳥のような叫び声が寒空に響き渡った。
「…で、めめいっぱい、ああ遊び倒した結果が、これだとととと」
こたつ布団にくるまった碧波がココアを啜る。二人分の震えが伝わり、膝元でガタガタ鳴る机を押さえつけた。
「たた楽しかったからいいいいじゃない、ねぇ?」
俺の手元で、暖房の温度が一度上がる。結局雪だるま一個じゃ飽き足らず、冬の野ウサギの如く全身真っ白になって遊んだ。これから豪雪地帯へ行くのに、こんなに冷えちゃって大丈夫だろうか。まぁ確実に風邪はひくだろうが。
「依頼人は高城勇人、二十一歳。大学のサークル仲間を家に泊めて、クリスマスパーティーを開いていたらしい」
タブレットを開き、例によって依頼内容を共有する。
「被害者の名前は駒田愛佳。高城より一つ年上の先輩だ。事件の発覚は今朝の九時頃だけど、死亡推定時刻はまだ不明」
「なんで?」
「警察に通報してないから」
ぎゅっと片方の眉を寄せる碧波。深まる疑問に答えるべく、画面をスクロールしてみせる。
「サークル内での駒田の立ち位置が理由らしいよ。あることないこと噂にしたり、言いがかりをつけて被害者面してみせたり…なんて言うんだっけ、ダブルフラッシャー?」
「サークルクラッシャーじゃない?」
「それそれ。そんな奴が死んだとあっちゃ、自分たちに疑いが向くのは必然。なんとしてでも事故であることを証明して欲しい…らしい」
画面をそのまま読み上げる。顔を顰めた碧波が残りのココアをあおった。
「要は、『ほぼ他殺で確定の事件を事故にできるような証拠を探してくれ』?面白そう。でも動機がふざけてるね。断ろ」
「断ってもいいけど、年末に臼と杵で餅つきしたいって言ってたじゃない。資金いるでしょ」
「お餅」
小さく頷く相棒。相槌のつもりらしい。
「あの辺の観光地は調べてあるから。嫌になったら遊びに行こう」
タブレットの画面に温泉街を映し出す。事件の内容によっては、警察を呼んでとっとと引き上げるつもりだ。なんせクリスマスだし。
「温泉まんじゅう」
「俺も食べたい。買って帰ろ」
「温泉たまご」
「それも買おう」
「でっかいチキン」
「照り焼きの甘いやつね」
いくらか体が温まってくる。そうと決まれば、すぐ準備だ。部屋の隅に置いておいた小さな鞄を引き寄せた。
「向かうのは福島。絶対日帰りで終わらせるよ。夜にはここでクリスマスパーティーだ」




