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アンビリーバーズ  作者: 鈴女亜生


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4-1.転入生

 ミトが怪人組合に入ってから、二日が経過していた。入った直後、スミモリに関する仕事が舞い込み、怪人組合は忙しいものなのかと思っていたミトだったが、そこからは特に呼ばれることもなく、ただ屋敷の中で生活するだけの時間が過ぎていた。


 あれから、特に変わったことはない。ソラは初めて逢った時から変わることなく、ミトにべったりとついて回っていた。ヤクノはどこで逢っても、ミトを無視するばかりだった。

 ただ最初に逢った時のように殴りかかってくることはなくなっていた。それが唯一の変化かもしれない。


 ヒメノも変わらない。どこで逢っても口が悪いままだ。ただ、それらの言葉の奥には、ちゃんと優しさがあることも分かったので、何を言われても大きく怯えることはほとんどなかった。


 恐怖さんは変わらず、変人だった。掴み所がなく、未だにミトはどういう人物なのか分かっていない。サラさんも同じだ。こちらは寡黙で、必要以上の会話がなく、どういう人となりなのか知る機会もなかった。


 屋敷にいるという最後の住人は、この二日の間も逢うことはなかった。もうそろそろではあるだろうと言われたが、どうして逢えないのかという部分については何度聞いても秘密にされた。特に、ヒメノが率先して隠すように言っているらしく、逢ってからのお楽しみという言葉しか返ってこなかった。


 それらの日常に慣れ、次の仕事こそはここにいる理由を作るため、しっかりと活躍してみせるとミトが心に決める中、ついに日常に変化が訪れる日がやってきた。


 早朝のことだ。朝食を終え、自室に戻ったミトを呼ぶように、部屋の扉がノックされた。いつものようにソラだろうと思ったミトが声をかけながら扉を開ける。

 そこには思っていたようにソラと、思っていなかったヒメノが立っていた。


「あ、れ……? ヒメノさん?」

「おはよう、ミトくん! 今からなんか用事ある?」

「いえ、特にはないですけど」

「ほな、ちょっと来て。姉貴が帰ってきたねん」

「え? ヒナコさんが?」


 ヒナコはミトが初仕事を迎える直前、ミトが殺害してしまい、欠けたハヤセの穴を埋めるために、他の怪人組合の怪人に逢いに行ったという話だった。


 そこから特に音沙汰もなく、どうなっているのだろうとは思っていたが、恐怖さんに聞いたら悪い話も平然とされそうで聞けず、ヤクノは最初から口を聞いてくれる気配もなく、ヒメノは悪い話があった場合に聞くことを躊躇われるので、ミトは何も聞けないでいた。


「帰ってきたということは、言っていた他の支部からの応援も来たんですか?」

「ああ、まあ、その辺は逢ってからのお楽しみということで、取り敢えず、行こか」


 屋敷にいるという最後の一人の怪人のことを聞いた時のようにヒメノは笑い、廊下の先を指差す。この態度に抵抗できるだけの度胸を、ミトはまだ持っていなかった。



   ◇   ◆   ◇   ◆



 案内された部屋はミトが初めて訪れる談話室だった。中にはいくつかのボードゲームが置かれ、それらで遊ぶこともできるそうだが、ミトは何故か知らなかったと言うと、あまり使われていないことをソラが教えてくれた。


「ここを使っとるのは、ミトくんには内緒にしとる最後の一人だけやね。あいつがいる時は、皆もこの部屋に来たりするんやけど、今はおらんから廃れてる感じやね」

「その最後の一人って、どんな……」

「ほな、入ろか」


 ミトの質問は途中で遮られ、ヒメノは談話室にずかずかと足を踏み入れていた。それに続くソラを目にし、ミトは質問することを諦めて、談話室の中に入っていく。


 そこには既にヤクノが待っている状態だった。椅子に座り、やや不機嫌そうな視線をこちらに向けてくる。

 逢ったら、基本的に無視されるものの、最近はここまで露骨に不機嫌そうな態度を見せてくることはなかった。何か怒らせたかとミトが緊張しながら思っていると、談話室の奥からミトの名を呼ぶ声が聞こえてきた。


「ミトくん、久し振りやね」


 その声に目線を移動させると、そこには数日振りのヒナコが立っていた。


「ヒナコさん、お久し振りです」

「話は聞いてるで。一応、役に立ったそうやな」


 ヒナコが口元に笑みを浮かべ、まっすぐにこちらを見てくる視線の鋭さに、ミトは緊張感を覚え、思わず背筋が伸びた。

 役立たずはいらない。そう言われた時のことを思い出し、一応とつけられた評価に、ミトは崖っぷちに立った気分を味わう。


「まあ、その話は後でするとして、先に紹介しとこか」


 そこでヒナコの視線が和らぎ、緊張感から解放されたミトは、ようやくヒナコの隣に誰か立っていることに気づいた。

 ミトと同年代くらいに見える少年で、赤と表現しても間違いではない茶髪を、ギトギトになるまでつけたワックスで無理矢理に逆立てている。


「この子が応援として来てくれた馬場(ばば)創凪(きずな)くん」

「どーも、はじめまして! 馬場創凪、言います! 君が三頭晴臣くんやろ? 噂には聞いとるで!」


 談話室の中でありながら、高架下で話していると勘違いしているのではないだろうかという声量で、ババはミトに挨拶してきた。

 そのあまりの五月蝿さに戸惑いながら、ミトは差し出されたババの手を握る。


「よ、よろしく……」

「何や、元気ないな~。もうちょっと元気出しいよ!」

「そ、そう言われても……」


 ババの勢いに押されながら、そこでミトはヤクノが貧乏揺すりを始めたことに気がついた。

 どうやら、さっきから見せていた不機嫌さはミトではなく、このババに向けられたもののようだ。


 そのことに気づいていないのか、ババは更に声を荒げながら、ミトにゆっくりと近づいてくる。


「まあ、俺のことは遠慮せずに好きなように呼んでな。俺はミトくん呼ばせてもらうわ」

「あっ、うん……分かったよ、ババくん……」

「うんうん、それでな……」


 そこで不意にババが握っていたミトの手を引っ張り、ミトの耳元に顔を近づけてきた。


「先言っとくけど、()()()()()()()()()()やんな?」

「えっ……?」

「ないなら、ええんよ。ないならね。ただヒナコさんにもし手ぇ出したら」


 そこでそれまでのババの声からは想像できないほどに、ババの声が一気に低くなり、寒風のようにミトの耳を鋭く痛めつけていく。


「殺すからな」


 その一言にミトは固まり、ババからヒナコに向けられた矢印の存在を知ることになった。ババはゆっくりとミトから離れ、消えていた笑みを浮かべると、さっきまでの自分を取り戻したように元の声量で話し始める。


「これから、よろしく。仲良うしよな」

「う、うん……」


 柔らかな脅しに戸惑いながら、ミトはようやくババの長い握手から解放された。


 そこで不意にヒメノがミトの隣に近づき、こそこそとした様子を見せながらも、ババに聞こえる声で話し始める。


「因みに、ババは同じ支部におる鹿嶋(かしま)って奴と合わせて、西の馬鹿(うましか)コンビって呼ばれとるねん」

「えっ? 馬鹿って、それって……」

「ええ、呼び方やろ!」


 しっかりとヒメノの話を聞いていたババが純粋な笑顔でミトに聞いてくる。その笑顔を見たミトはヒメノが伝えたかったことを悟り、そのどちらにも伝わるように首肯した。満足そうなババを目にし、ヒメノは堪え切れずに吹き出している。


「自己紹介、終わった?」


 ヒナコがミトやババの様子から、そのように聞いてくる。その声にババは素早く反応し、ピシッと背筋を伸ばしている。


「はい! しっかりと仲良くなりました!」

「ほな、良かった。じゃあ、次はヒメノ。話があるんやろ?」


 ヒナコにそう言われ、腹を抱えていたヒメノが笑いながら首肯する。


「そ、そうそう……フフッ……! 話さなあかんことがあるねん……ハハッ……!」


 ヒメノは止まらない笑いに襲われながら、スマホを取り出し、それを見せつけるように掲げた。


「じゃあ、スマホ取り出して……フッ……!」

「スマホ?」

()()()()()()()()()()から……ブフッ……!」

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