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人身御供とテロリスト 12

 時刻は遡って、数十分ほど前、九條学園学生寮1203号室にて。


 「今日は本当にありがとうございました」


 「いや、どうって事ない···」


 深く頭を下げてお礼を言うアキリアに対して暁良意外の人と接する時の抑揚の無い喋り方で遼が答える。


 今は丁度任務を終えて寮へと帰宅した所であり2人とも見るからに疲れ果てている様子であった。


 それというのは危険が少ない任務は面倒くさい傾向にある為であった。


 神具が使えないアキリアの為、遼達は廃墟に大量発生してしまった危険度Dランクのマガツモノであるコスリアルキという少し耳触りな音を鳴らしながら動いているだけのマガツモノを退治するという任務に着いたのだった。


 がしかし、その数は思った以上に多く同時に廃墟とはいえ建物を破壊するのは好まれない為、一体一体倒すという事をしていたら、朝から始めて、結局夕方近くまでかかってしまったという訳であった。


 「アキリアも手伝ってくれたから早く終わった」


 「そんな···ただ追いかけ回しただけです」


 と、そんな会話をしつつ2人は部屋の中へと入り、遼は自分のベッドに転がり込む。だが、アキリアは遠慮がちに立ったままでいた。


 「暁良のベッドに寝転がればいいよ。昨日も遠慮してたけど別に暁良は気にしないと思うけど」


 「い、いえ悪いですよ」


 当然、暁良の事を女だと思っているアキリアはそれを断りつつ、部屋の隅の勉強机の椅子に腰かける。


 「ふーん、まあいいや。···じゃあ、私はシャワー浴びてくるよ」


 「え、ええ、ど、どうぞ」


 立ち上がった遼に対して、それをマジマジと見つめるアキリア。


 「···一緒に入る?」


 とそんなアキリアの事を見て、すっとぼけたように首を傾げる遼。


 「い、いえ、大丈夫です!」


 「そう···」


 と勿論、遼はアキリアが男であることを知っている為、完全におちょくる目的で言っているのだが、外面ではガッカリした様な表情を浮かべた。


 そうして2人は順番にシャワーで汗を流して、リリネと美波と一緒にお茶するという目的で再び合流する為に寮の食堂へと向かう。


 ♪♪♪


その途中で携帯電話が鳴り響き、携帯電話を取り出す遼。


 「ん?」


 携帯には着信が入っていて、発信者名には暁良の文字が映し出されていた。


 「もしもし?」


 「遼か?無事か?」


 「ん?まあ、あのぐらいの任務余裕···」

 

 「いや、そっちじゃなくて···って、まあその反応が大事って証か」


 「だからなんなんだって···」


 と、遼の口調が僅かに崩れたその時。


 ダダダダダダッ!!という機関銃の発砲音が寮全体に鳴り響いた。


 「あー、なんか無事じゃ無いっぽい」


 「ちっ、くそ!···遼、お前はとにかくアキリアを守れ、いいな」


 「え?、どういうこと?」


 「端的に言えば、裏切り者が居たせいで影武者がバレてて俺の方だけじゃくてそっちにもテロリスト的なヤツらが行っちまってる」


 「なるほどな了解」


 「あともしもの時は、渋らずに神具を使えよ、分かったな」


 「···おう、後で掛け直す」


 そうして、暁良との電話を切った遼はアキリアの手を引く。


 「安全な所まで連れていく、着いてきて」


 そうして遼は食堂とは反対の方向へと走り出した。




 

 数分後、食堂。


 「おい、スピーカーを使って王女にここへ来るように呼び掛けろ!!」


 傭兵の中のリーダーが部下へと命令し、アキリアに向け人質の命が惜しかったら食堂まで来いと言う旨の放送が行われる。


 そこにいる10名近い傭兵たちは全員、作業着を着ていてどうやらなにかの工事と偽ってこの学園に侵入したであろう事が伺えた。


 「なにか、勘違いしてない?ここにいるのは王女様じゃないわ。顔が似てるだけのただの九條学園の生徒よ」


 機関銃を持った傭兵に囲まれ、人質となってしまった数十名の生徒の中から、勇敢にもリリネが声を上げる。


 この時リリネ、美波共にアキリアと暁良が入れ替わっていることは知っていた。


 がしかし、ここはとぼけた方が得策であるという判断をしての言動であった。


 「こっちは調べがついてんだよなぁ。それによ、紛らわしいかったらどっちも攻めればいいだけだろ?」


 とリリネの顎を掴んで邪悪に笑いかけるリーダーの男。


 そして。


 「よし、じゃあこれからゲームでもするか?王女が来なかったら5分ごとに一人づつ殺して行くってゲームだ。楽しそうだろ?んで、最初はお前からだな···」


 「!?···」


 リーダーの男はそう言ってリリネに銃を突き付ける。

 

 それには流石に恐怖を感じたのかリリネは表情を僅かに強ばらせる。


 そして、その事も部下によってスピーカーでアキリアに向けて伝えられた。


 がしかし、それから音沙汰無いまま、3分ほど過ぎる。


 「全く神具使いってのも情けねえよな。こんなんで使い物にならなくなるんだからよ」

 

 リーダーの男は机の上に置いてある中型の返納機を指して言う。


 「くっ···」


 「怖いか?···まあ殺すって言ってんのに来ない王女を恨むんだな」


 それから更に1分経ち、直ぐに30秒が過ぎ、リリネの表情は更に険しくなり、同時に強い恐怖を感じている様であった。


 しかしその時。


 「待ちなさい!」

  

 「アキ···()なんで···それに遼も」


 そこに現れ声を張り上げたアキリアに対し、リリネは呟く。


 そして、アキリアの後ろからは焦った様子で遼が走って追い付いてきたのも確認出来る。

    

 「おう、ようやく来たか王女様よー」


 「ええ、ですので彼女たちは解放しなさい!」


 「勇ましいな。では一緒に来てもらおうか···おいヘリを呼べ、コイツらは王女様をエスコートし終わるまでは人質にしておけ」


 そうして数名の部下をこの場に残すとアキリアを乱暴に引っ張り、侵入する時に自分達が壊したであろう壁から外へ連れ出そうと歩き出す。


 「くっ···神具」


 その現状に苦悶の表情の遼がやむにやまれず神具を発動しようとした。


 その時。


 「神具展開、暴食のアドルス」


 壊れた壁の方からその様な声が聞こえ、皆がそちらを向くと、そこには禍々しい目を持った生き物の様な質感の剣を手にしている20代後半程の女性が立っていた。


 「いやーこの食堂も懐かしな」


 「貴様誰だ!!何故神具を···」


 「ふっ、行けアドルス」


 すると彼女の持っていた剣は蛇のように曲がりくねった動きで、伸びていき、次々に傭兵達の武器を破壊していく。


 そして敵が驚いている拍子にリーダーの男との距離を詰めて、素早い剣さばきで銃を破壊しアキリアを奪い返す。


 「さ、皆逃げて、外のは私の仲間が倒してくれてるからさ」


 そうして女性は人質にされていた生徒達に優しく笑いかけて、それを受けた生徒達はコンマ数秒考えた後、皆一斉に逃げていく。


 「いやー、大星さんと一緒に脱獄した甲斐があったよ。教え子になるかも知れなかった子達を助けられて満足だね」


 「貴様一体何者だ!何故、神具が使える!」

 

 作戦が失敗に終わり、頭に血が登った様子の男が叫ぶ。


 そんなリーダーの男の様子を見た女性は小さく笑い、そして嬉嬉として自分の素性について喋り始めた。


 「私は香月(しるべ)、元九條学園教師で、今はそうだな、しがない活動家って事になるかな?神具が使える理由に関しては、まあ、あの世ででも考えてくれよ」

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