初任務(仮) 1
エロ本騒動から約一週間後、夜11時。
「今、賞味期限が切れて1秒間経過した食品があるとするだろ?」
「なんだよ急に」
俺が自室の机に頬を貼り付け目線の先にある期限が数日すぎた未開封の惣菜パンを見ながら呟くと、ベットの上で壁にもたれかかった状態の遼がダルそうに返事を返す。
だが、俺は遼の質問に答えることなく自分の主張を続ける。
「この食品は美味しく食べられる基準である賞味期限から1秒しか経っていない、つまり食べれる事が確定している状態から1秒しか経過していないだけであり、この食品はまず食べられるだろうと判断する事ができよな」
「まあそうだな」
「で更にそこから1秒間経過したとするとそこには先程食べられると判断した食品からさらに1秒経過しただけの食品があるだけなので、それもまた食べられるだろうと判断できるな?」
「···まあな」
「そして更に更にそこから、また1秒経ったとしてもそれは2度目の検証で食べられると判断した食品から1秒間経過した食品という事になるのでこれも食べれるであろうと判断できる」
「ん?」
「つまり、この考えを繰り返し行うと何秒経とうが何年経とうがその食品は食べれる状態から1秒経過した食品であると言えてしまい、この食品は永遠に食べれない状態にはならないと結論付ける事が出来るんじゃないか?」
「いや違うと思うぞ。あとそれを食うのは止めとけ」
「え?なんで?」
「シンプルに腹壊すかもしれないだろ」
「まじか〜」
あまりにも静かなゆったりとした時が流れる中で俺と遼のそんなくだらない会話が以降も繰り広げられ、やがて寝静まり、夜が開ける。
そして、早朝。
「うぐぅううああああああ!!」
「ほら言わんこっちゃねー、お前あれ食ったろ」
トイレで唸る俺に遼が半笑いで声をかける。
「どうする?今日初任務だけど休むのか?」
「馬鹿なこと言うんじゃねー、そんなポイントが下がりそうな事出来るかよ。お前俺の能力忘れてねーよな?予めトイレに斬像をスタンバイさせといてやばくなったら、生キ写シでトイレに駆け込めば余裕だろ?ぐうっ····めっちゃ痛え」
「本当に便利な能力な」
ピンポーン。
とそのタイミングで俺達の部屋のベルが鳴る。
「二条院さん達か、多分朝飯の誘いだろう···わりぃ俺は初任務の前だから、精神統一をしてるって言ってくれ」
「はいはい」
と遼のトイレの前から離れていったと思われる足音が鳴り、その後ガチャりとドアが開けられた音が聞こえる。
「おはよう東雲さん、ご飯の誘い?」
「ええ、おはようございます。あれ?吉野宮さんはいないのですか?」
「ああ、暁良なら今、精神統一の真っ最中だよ。ああ見えて初任務に緊張してるっぽい」
あの野郎好き勝手言いやがって、···まあ良い言い訳だけど。
「へえ、ああ、もしかして二条院さんもそう言う事だったんでしょうか···」
「···えっ?二条院さんがどうかしたの?」
「え、ええ、二条院さんも、朝ご飯をパスされて居ましたので」
そうか二条院さんが···。
入学式の時やツヅリコジキの時の反応からやはりマガツモノに対して何らかのトラウマとかがあるのだろうか?
初任務やはり心配だ、俺が守ってやらなくては。···ぐぅっ!!?
「うぐぅうううあああ」
「え?吉野宮さん!?」
「ああ、あれはそういう精神統一の方法だから、神をおろす的な感じ。ほら行こ」
「え、ええ」
遼が珍しく気を利かせて東雲さんを連れ出してくれた様で少し経ってドアが閉まる音が聞こえる。
ふう、助かった。
それにしてもこの調子で二条院さんを守れるのだろうか。
俺は左手で腹を右手で頭を押えた。




