とくぞうはピンチになった!
クゾーの流儀は単に光の壁を作り出すだけのものではない。クゾー自身の生き方を体現するために壁が必要ならオークの肉体がそれに応えて壁を作り出すまでのことである。クゾーの生き方とは即ち正義。どんなに報われなくても不正を恥じ他人を思いやる限りのない善性である。そして武器もまた、正義を体現する道具となり得る。
(侵略の炎槍…?あれはただの槍ではないのか。オーギュストの雷撃剣のように。)
クゾーがカスティーヨの槍をじっと観察していると、突然槍が炎に包まれた。
「見たか。炎を纏うこの槍こそサラマンダー族の術を操ることのできる炎槍よ。」
サラマンダー族。前回のオーギュストは雷神と言っていたが、この槍もどうやら他種族の流儀を操ることができるようになる装備らしい。
「燃える槍がどうした!」
クゾーは自分の光の槍を構えてカスティーヨに突っ込んで行く。
「やはりオークだな!この槍に無警戒で突っ込んで来るとは!」
カスティーヨが槍を突き出すと突然炎が伸びてクゾーの元へ襲いかかって来た。
「うわっ!」
クゾーは思わず飛んで逃げるが腕に炎が掠めた。
「ぐわああああっ!!」
掠っただけと思われたその炎は、クゾーに張り付いたようにいつまでも消えないでクゾーの肌を焼き続ける。
「言うたであろう。これはサラマンダーの術だと。奴らは炎そのものの種族。当然この炎も生きておる。」
つまりこの炎の槍は触れたが最後永遠に燃え続けるのだ。
「創精流儀ー生体加工!!」
ドヴァが躍り出ると、懐の小刀でクゾーの火のついた皮膚をかなりうすく削り取る。
「助かったドヴァ!下がって!ひとまず障壁を貼る!Orc-Cradle!!」
ギリギリで第二撃は避けることができた。
「
壁を貼って安心するな。その壁は全面は覆えん。」
森の木や草についた炎がクゾーの後方から回り込む。
「兵法によれば火の性質は侵略。」
炎がクゾーの周りから迫って来る。
「いくら生きていても死なない訳じゃない!」
クゾーは周りの土に向かって拳を飛ばす。土を被った炎は消える。しかし、カスティーヨの槍から尚も炎が迫る。
「どのみち1度で勝負を決する気は無い。この森を焼き尽くす頃には火は止まらない勢いになっているだろうよ。」
槍の火が森に及ぶ。見る間に火が広がって行った。
「逃げるぞクゾー!」
ドヴァが叫ぶ。2人は森の奥へ走り出した。しかしこれでは結局追い込まれるだけだ。
「どうすんだ!これじゃ森が焼き尽くされてお終いだ!」
「あの炎は触れただけで終わりだ!お前の流儀では対抗できないなら僕がなんとかするしかない。それまでの時間稼ぎだ!」
ドワーフ族であるドヴァの流儀は道具の創造だ。炎に対抗するための道具を作り出せればこの状況を打開できるかもしれない。
「一応心当たりはある。それができるまで森が持つかどうか…。」
森はこうしている間にもどんどん焼けてきて
いる。あと10分も残っていないだろう。
他方ヘラクレスと女の子は素手での殴り合いが続いていた。
「しつこいな。いくら殴っても私の肉体に傷はつかん。」
女の子は涼しい顔でヘラクレスの拳を受けている。
「くっ!何なんだ一体貴様の力は!」
自分も人間とは思えない動きをしているのだが、女の子の方も互角以上の力で攻撃を続けている。
「言っておくが私の力は何かを消費したりする類のものではないぞ。殴り続けても無駄だと言うのに。」
「黙れええ!!」
ヘラクレスは叫びながら女の子の首に腕を回す。そしてそのまま締め上げる。
「お前の肉体がいくら鉄であろうとその身に血は流れているはずだな。これで死なない者はおらん。」
ヘラクレスは満身の力を込めて女の子の首を締める。表情からして効果はあるようだ。
「不覚…!これはまずいな…。」
女の子の顔はみるみる赤黒くなっていく。
「このまま一気に落とす!」
ヘラクレスは勝利を確信して口角を釣り上げる。
「ならば奥の手を使うしかないな。」
女の子は服のポケットから黒い玉を取り出しそれを握りつぶすと、大爆発を起こした。
「ぐあああああああああ!!!!」
ヘラクレスが悲鳴を上げて女の子から引き剥がされる。
「フィリップス様から頂いた兵器だ。肉体が不滅ならこのような手も使える。」
服がほとんど燃え、下に巻いているサラシが露わになる。胸と腹と足に固く巻きつけており、今の爆発からも燃え残っている。
「無茶なことしやがる…。」
ヘラクレスは傷だらけになりながらもなんとか息はある。
「止めだ。生殺しは趣味ではない。」
女の子がヘラクレスに近づく。ヘラクレスの目は未だ力を失わず、女の子を睨み続けていた。
「森が…。」
リリアムは周囲のあまりの惨状に絶句した。エルフ族やフェアリー族にとって森は自身の分身である。
「森の心配なぞしている時ではないのではなくて?」
リリアムの背後にフードを被った人影が現れた。
「光のエルフが陵辱されるところ…私も見せて貰おうかしら。」
12話へ続く
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