とくぞうはようじょとであった!
クゾーの寝床である馬小屋にヘラクレスが忍び込んで行った。獲物を狩る時と同じ、音を消した歩みである。右手を手刀の形にし、眠っているクゾーの頭の上で構える。
「…ん、ヘラクレスか?」
クゾーがそこで気がついて眼を開けた。
「おう。見張りの交代の時間だぞ。」
「そんなこと決めてなかっただろ。またお前は勝手に…そうそう敵なんて来ないよ。」
しかしヘラクレスはもうパタッとクゾーが寝ていた藁の上に寝転がってしまっている。
「いざ来た時にそんなことでは死ぬだけだぞ。ほれクゾーも見回りに行って参れ。」
しぶしぶクゾーは馬小屋から出て森を歩いてくることにした。どのみちしばらく眠れそうにない。森に出ると、もう夜が明け始めていた。東の空が白みかけている。クゾーはふと、その朝日を背負うように立っている人影に気づいた。髪の長い、女の子である。
「なんだ?また迷子か。おーい君どうしたの?」
クゾーは声をかけた。おおかた迷い込んで来た人間だろうと思った。
(あ、しまった俺は今オークなんだった。)
また怖がられて逃げられるだけだと思ったが、意外にも女の子はこちらを真顔で見据えている。
「貴様がクゾーか?」
女の子らしからぬ口調だなあ。とクゾーは思ったがすぐにそれより重要な問題に思い至った。何故この子は俺の名前を知っている?
「この森の唯一のオークと聞いているからきっとそうだな。いずれにしてもはぐれオークなど。」
女の子は10数メートルあった間合いを一瞬で詰めて素手でクゾーに殴りかかった。
「殺しても問題あるまい。」
クゾーの巨体が吹っ飛ばされる。
「ぐはあああああ!!?」
クゾーは混乱した。何だ今のは。とても人間の女の子の技とは思えない。脚力を全て拳に乗せた重い一撃だった。
「どうしたクゾー!」
ヘラクレスが馬小屋から飛び出して来た。
「襲撃だヘラクレス!!こいつ恐ろしい怪力を持っているぞ!」
クゾーは叫ぶ。その声でエコーやリリアムも起きて出てきた。
「何事ですか!敵襲!?」
エコーが真っ先に飛び出してくる。
「エコーはリリアムさんに付いてて!」
「僕も加勢するぞ!」
ドヴァがクゾーの所へ駆け寄る。
「ドワーフ族に人間族の子供か…やはり警戒すべきなのはこのオークのみだな。」
「スキだらけだこのクソ女!」
ヘラクレスが一瞬にして女の子の首元に手刀を見舞う。やった。獅子を素手で狩るヘラクレスの手刀だ。一撃でも入れば即死だろう。クゾーはそう考えた。
「ほう。大したものだ。並の人間相手なら首を持っていっただろうな。」
予想に反して女の子はなんと無傷だった。
「だが私の肉体は不死。どんな刃でも弾丸でも通さない。」
クゾーは驚愕した。何?不死だって?あの怪力に加えて不死?あれは本当に人間なのか?
「おう。もう始まっておったか。どうやらそちらにも戦える者がもう1人いるらしいな。けっこうけっこう。」
髭を蓄えた大男が森にのっそりと入り込んできた。
「フィリップス…!」
ヘラクレスが声をあげた。
「これはあのケンタウロスの所で育ったというガキではないか。あの山のケンタウロスは我が全滅させたぞ。」
この男がフィリップス…王国の騎士で東の山を襲撃した男なのか!
「ケンタウロスがお前1人に…?おのれ許さねえ!地獄に落ちやがれ!!!」
怒りに燃えるヘラクレスはフィリップスに突っ込んで行く。
「お前の相手は私だ。」
間に女の子が割り込む。
「これで1対1が2組出来上がったな!これこそ我が望む展開。では存分に我が兄者の恨みを晴らさせてもらうとするかな。」
兄者ということはやはりこのフィリップスはオーギュストの弟なのだ。
「我が名はカスティーヨ。カスティーヨ・フィリップス。お前の名はもう知っているから名乗らずともよいぞ。ニート・クゾー。」
カスティーヨは槍を構える。
「僕も頭数に入れてもらっていいかな。森を襲われて困るのはドワーフ族も同じだ。」
ドヴァがそう言い放つ。
「構わん!我はどんな者から挑まれても拒まぬ。手加減もしないがな!」
またも王国騎士団による森の侵略が始まった。しかも今度は相手に情報の利がある。カスティーヨは軍勢を連れていないが、それでも勝つ自信があるということだろう。クゾーは戦いの緊張感に身を震わせた。だが同時にそれはオークの流儀を呼び起こす助けにもなる。
「さあ早く始めよう。返り討ちにしてやるよ。」
クゾーは戦闘となると口調が変わるようになった。流儀という力の性質とその使い方をクゾーは本能でマスターしつつあった。
「我が槍に素手で挑むか?奇妙な盾で防ぐばかりでは傷ひとつつけられんぞ。」
「心配いらない。俺も前回と同じく守るばかりではないさ。ーOrcFang!!!」
クゾーの手から光りの塊が飛び出し、それが槍を形作った。クゾーが密かに考え出した攻撃用流儀である。
「これで対等だな。カスティーヨ。兄貴のように尻尾を巻いて逃げ出すなよ。」
「所詮はオークの申すこと。我とていちいち腹立ちはせんが、一つ訂正しておいてやる。」
カスティーヨは槍を真っ直ぐクゾーに向かって構えた。巨体を思い切り低くしている。
「我と下賤なるオークなどが対等になる事など槍を持とうがあり得ないのだよ。見せてやろう!我が侵略の炎槍を!!!!」
12話へ続く
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