カスティーヨがあらわれた!
「さて。飯の礼をせねばならんな。そこの森で鹿でもとってきてやろう。」
ヘラクレスは皿を片付け、指をならして森へ出ようとする。
「いいですから!森を荒らさないでください!」
エコーが断固拒否する。そんなもん採ってきて誰が捌くってんだ。俺か?そんなの絶対嫌だ。クゾーはげんなりした。森で見つけた半死半生の少年が今やこんなに元気になるとは。しかもこの人間なのに流儀を使う少年の事はまだ何もわかっていない。
「それよりヘラクレス、お前これからどうするんだ?故郷は人間に襲撃されたんだろ?」
クゾーは尋ねた。このままだと本当に鹿を狩ってきてしまう。
「うむ。あのフィリップスとかいう男今度会ったらタダではすまぬ。人間如きにケンタウロスが負けるとも思えぬが。」
聞き覚えのある単語がヘラクレスの口から出た。
「フィリップスってこの間ここを襲った人間じゃないですか!オーギュスト・フィリップスと名乗っていましたよ!」
エコーが驚いた声をあげた。
「何!この森も人間の襲撃に遭ったのか。」
「ええ。その時はこのクゾーさんが撃退しましたけど。」
なんだか改めていわれるとクゾーはこそばゆかった。
「あんたなかなか強いんだな。それにしてもあの髭面の狸腹めここまで手を伸ばしていたのか。」
髭面に狸腹?オーギュストのビジュアルはそんなではなかった気がする。
「オーギュストは金の長髪でやせ型の男でしたよ。違うフィリップスですかね。」
エコーは細かい事まで本当に良く覚えている。2人のフィリップスに関係があるとすれば、ケンタウロス襲撃も王国の差し金であることに疑いの余地は無い。王国は他種族への襲撃の手を緩めていないのだ。
「東の山にも襲撃をかけたなら、またこの森に人間が襲ってくる事が無い訳ではないんですね…。」
リリアムが不安そうな表情を浮かべる。ここは男として俺が守ってやるという言葉のひとつくらいかけるべきだろう。
「騎士団がこの森を放置しておくとは考え難い。奴らはメンツを重んじるからな。わかった。ここは私が一宿一飯の礼にフィリップスの首を取ろう。」
横からヘラクレスに取られてしまった。ああ物語の主人公っぽいなあ。所詮俺はオークですよ。クゾーは自嘲した。
「一宿一飯て泊まる気まんまんですね…。」
「当然だ。いつ奴らが来るかわからんからな。」
図々しさは既に英雄のそれである。
山に高笑いが響いている。笑い声の主は槍の穂先にケンタウロスの首を刺した髭面の大男である。
「わははは!!!やはり我が侵略の兵法は最強にして至高!戦闘種族であるケンタウロスの軍勢を1人で全滅せしめるとは我ながら驚いた!よもや王より賜わりしこの槍がこれほど我に応えるとな!やはり闘争は我が命!我こそは戦闘の申し子ことカスティーヨ・フィリップス也!!!!」
山には大雨が降っている。しかし男の陶酔は雨音を切り裂いて山中に響きわたった。
「これで我が敬愛する兄者の覇道にまた一歩近づいた!兄者よ!知略を尽くしいずれ王座を手にせよ!我はその道中を均して進む戦車となろうぞ!手始めに兄者の戦歴に土を着けたオークを葬ってくれる!」
現国王の存在など眼中に無いような大胆な物言いである。
「ええ、豪傑・聡明で知られるフィリップス兄弟なら必ずやそれが成し遂げられましょう。この私も微力ながらお手伝いをさて頂きます。」
フードで顔を隠した従者がどこからともなく現れて言った。
「おお!お前そこにおったか!今この槍を試しておった所よ。今回は兄者に習って我も作戦を多少講じる。お前にはその重要な役目があるのだ。期待しておるぞ。」
従者が跪く。
「死力を尽くさせていただきます。しかしこの度はいい拾い物をなされましたね。」
「まさにそうよの。神の力を持つ子供なぞ滅多に手に入るものではない。その子を先にオークと接触させておき、我は隙をついて2人にてオークを討つ。2人で1人に挑むのはいささか気がひけるがこれは狩りだからな。それでお前あいつの調教はすんでいるのだろうな?」
従者はフードの奥から微笑を漏らした。
「ご心配は無用です。もはやあれは私の意のままに操れます。」
カスティーヨは満面に笑みを讃えて一言「よし。」と言った。
「ならオーク討伐は明日だ。お前も準備をしておけ。」
従者ははい。と答えまた何処かに姿を消した。
11話に続く
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