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ビュ=レメンの舞踏会 ―魔法のとびら―  作者: 滝沢美月
幕間 インターミッション
43/43

第40話  虚像クラッシュ



 がたがたと僅かな振動に揺られ、ティアナは馬車の窓から見える景色を呆然と眺める。その瞳には外の景色ではなく、七十七年前の景色が写る。

 ルードウィヒ……

 七十七年前のホードランド国の第三王子セブランと森の魔法使いルードウィヒは同一人物だった。

 ふわりと目元を和ませて微笑むセブランとルードウィヒが同一人物とはすぐには信じられなかったが、歴史がすべてを物語っている。

 だからこそ――誠実で優しげなルードウィヒが七十七年後には闇を宿した刃物のような鋭利な瞳になってしまったのには何か理由があるんだと、ティアナはそう思わずにはいられなかった。

 あの夜、ホードランドの王城でティルラと永遠の愛を誓い別れた――その後に、ルードウィヒの人生を変えてしまう何か重大な出来事が起きたのだろう。

 ルードウィヒの恋人だったティルラは、ティアナの高祖母にあたる人。それと――この契約の刻印とは、何か関係があるのかもしれない。

 窓の外から視線を自分の胸元に落としたティアナは、ぎゅっと拳を握りしめる。

 ルードウィヒは私がティルラの血縁と知っていて、刻印を刻んだのかもしれない。

 馬車はすでにビュ=レメンを抜け、バノーファの街を通り過ぎようとしている。バノーファの西にある砦の森――かつて、ホードランド国とドルデスハンテ国の国境があり、砦の城があった場所。ホードランド国の最後に、ルードウィヒが戦った場所に――今も彼はいる。

 一度、ちゃんと話をしなければならないかもしれない――

 窓から遠くに見える緑の森を見つめ、ティアナはゆっくりと瞳を閉じた。



  ※



 目覚めたティアナから聞いた、時空石の第二の試練で飛ばされた七十七年前で見た事、起きた出来事――

 その話を思い出していたジークベルトは、揺れる馬車の中、閉じていた瞳をゆっくりと開け横目で向かいに座るティアナを盗み見、ティアナが瞳を閉じているのを見て、またゆっくりと目を瞑る。

 ティアナは、“ティルラ”という名の少女の体に自分の魂が入り、ティルラは自分の高祖母だと言っていた。

 そして亡命したイーザ国で、“メフィストセレス”という名の青年が目の前に現れ契約をもちかけてきたと言った。

 ティルラとメフィストセレス――

 契約の刻印にあった謎の二つの名前がティアナの口から出てきた時のジークベルトはあまりの驚きに言葉では言い表せないほどの動揺をしていた。それでも、それをティアナに気づかれてはいけないという意地でなんとか平静を装って話を聞いた。

 ティルラはティアナの高祖母。メフィストセレスは魔王――

 二人がどのような関係なのかは分からないが、二人がティアナに関係する人物だということは確かだった。

 契約の刻印にあった二つの名前が誰のものなのか分かって、これで刻印の謎はすべて解けたのだろうか――

 ルードウィヒは一体、何が目的で――

 それにしても――魔王が人前に現れることは滅多にない。魔王は一体、ティアナとティルラのどちらに用があったのか――ジークベルトは深く刻まれた眉間の皺をもむように手を当てる。

 そういえば――

 ジークベルトはふっと、チェの北の魔森で会ったフルフルの話を思い出す。

 あの時は気にかけなければいけない事項だと思ったが、ティアナが行方不明になったり、疫病騒ぎでばたばたとして、すっかりそのことを忘れていた。


『魔界は今、混沌と化している。魔界の混乱は、いまに人間界にも影響が出るだろう……』


 フルフルはそう言っていた。


「魔界の混乱――」


 ジークベルトは誰にも聞こえない様な小さな声で呟き、ぎらっと針のように鋭い瞳で窓の外を見つめる。

 青空のその先、東の空に灰色の暗雲が立ち込め、嵐の予感がする――




これにて「ビュ=レメンの舞踏会 ―魔法のとびら―」は完結です!

ここまで読んでくださりありがとうございます。

感想や評価頂けると今後の励みになります。

また、誤字などありましたらお知らせください<m(__)m>


シリーズ第3弾は只今執筆中です。

続きも読んで頂けると嬉しいです(^^)

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