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Ninfea  作者: 蠍ノ丘
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77話 不幸と――――

 外は雨が降っている。



 空からの冷たい水が顔に当たり、身体に付着した血液、そして瞳から流れ出る物も一緒に流し去っていく。


 あぁ……私は何て酷い決断をしてしまったのだろう……ロギアは常に私の事を優先に考えてくれたのに……その努力や気持ちを裏切ってしまう、これはそんな選択なのかもしれない。


 けど――今はそれでしかロギアを救えない。


 今は少しでも自分に周囲の注目を集め、ロギアがマスコミと自分達を敵視する勢力に見付かる時間を稼がないといけない。


 雨が豪快に降る中でその限りなく小さい希望を信じてアリアは歩を止めずにいた。


 顔は雨と涙でぐっしょりと濡れみっともない事になっている。


 アリア自身の四肢も限界に来ているせいなのか何度も躓き泥だらけで身体のあちこちにかすり傷も見られた。


「私が代わりに怪我をしていれば良かった……」


 自身は決して死ぬ事が無いから、そんな小言が口から洩れた。


 でもそれはロギアが許す筈が無いと言う事も容易に想像出来る。


 感染者の叫び声と、人の悲鳴それらの音が一層大きくなりアリアは一旦足を止め、周囲へと視線を走らせた。


 今の所、死体の一つも見つかってはいない。それが余計に不気味さを増幅させる。


 警戒しながら曲がり角を曲がった時、アリアが予想していた物とは全く違う光景を目にした。




 現場は凄惨な有様だった。


 大勢の感染者が報道陣と軍に襲い掛かり、あちらこちらで悲鳴と銃声がこだましていた。


「感……染者……? それもこんなに……」


 咄嗟に壁に身を隠そうとするも、流れ弾が左肩に命中する。


「あうっ!!」


 そのまま後ろへと倒れ被弾した個所からは血がドクドクと流れ出る。


 傷口を押さえながらも声が出ない様に歯を噛みしめ立ち上がり顔を上げると一体の感染者と目が合った。


 ”不味い――!”


 その感染者は雄たけびを上げ走り出す。


 それと同時にアリアも逃げる様に駆け出すが、走る速度は感染者の方が何倍も速く一気に距離が縮まっていく。


「――――――クッ!」


 直ぐ後ろで地面を蹴る音が聞こえ、アリアは必死に体を捩じり回避しようとする。


 感染者が直ぐ傍を通り過ぎ、停車中の車に激突した。


 何かが潰れる音と共に車が大きく揺れる。


 回避出来た事に安堵するが無理に体を捩じったせいか激痛が走り、更に悪い事にアリアは躓き顔から地面へと倒れ込む。


「うぐぅ」


 小石で頬を切り、水溜りの水が目に入る。


 口の中のじゃりじゃりした感覚に違和感を覚えつつも、急いで起き上がり走り出す。


 出来るだけ距離を離そうと脚を動かすが、視界の先に感染者の集団が現れ咄嗟に脚を止めざる負えなかった。


「はぁ、はぁ……」


 振り返ると先程の感染者も起き上がりもう既に地面を蹴って来ている。


 アリアの疲労も限界を迎えその場で膝を付く。


 それと同時に数十程の感染者の視線が一斉にアリアを捉えた途端まるで雪崩の様にアリアに向かって来るのが見えた。


「う、ああ……ぁ」


 何とか力を振り絞って身体を動かそうとしても、震えて力が全くと言っていい程入らない。


 “神様は何処まで私を苦しませるの? 私が何をしたの ”


 自身の運の無さを憎み目の前の絶望的な光景を呆然と眺める。


 “なんなら私自身はもう何も望まないしどんな事だって受ける。だから――――”


 これは余りにも酷い結末。


 “私はただ――――ロギを救いたいってだけなのに……”


 いつの間にか四方を無数の感染者に囲まれ――アリアの頬に涙が伝う。


 感染者の叫び声が聞こえ――――激痛が身体のあちこちから脳へと伝達される。


 尖った歯が肉に食い込み、


「――――――――――ッ!!」


 声にならない悲鳴を上げた。


  肉が引き裂かれるそれと同時に飛び散る血が雨に混ざり合い地面を真っ赤な物へと変色させていく。


「―――――――――!」


 喉が張り切れそうな程、声を上げた。


 抵抗しようと手足をバタつかせるも無駄な足掻きで一気にのしかかれ身動きが取れない。



 

 ――――この世界は――余りにも理不尽過ぎる――――




 痛みで流れる涙も血と共に雨に流され、悲鳴すらも喉を噛み付かれ上げられない。




 “今思えばこの状況も私が呼び水になった様な物だったし……でも……嬉しかったなぁ、私を一度だけじゃなくて何度も信じてくれて、少なくとも私を一人の人間として扱ってくれてたし……”


 身体の感覚が無い。


 意識すら薄くなっていく状況でアリアはふとそんな光景が頭に流れる。


 その最中も無数の感染者がアリアに群がり、身体を引き裂かれ臓器が飛び出して行く。



 “何だか――眠たくなってきたな……瞼を開けるのも辛いし……死ぬ筈が無い身体なのに。あぁ……”



 何故いつも求めていた物に手を伸ばすとこんなにその光は遠のいていくのだろう。



 “宜しくって言って貰ったばかりなのに――――――私、まだ消えたく――――”



 ――手を幾ら伸ばそうとも追い付けない。


  意識が完全に暗くなる――直前、無数の銃弾が雨の様に降り注ぎ、感染者達が悲鳴を上げ倒れて行く。


 勿論それだけでは死ぬ事は無いが、感染者達が起き上がる前に更に銃弾を浴びる。


 “……え?”


 瞼さえも失っているせいかその光景は雨の水なのか、全てぼやけており何が起きたかなんて判断が出来ずにいた。


 しかし聞き覚えのある声が複数。


 そして大勢の足音と厳しく指示をする田緻本(たちもと) 完爾(かんじ)の声。


 それだけでアリアは判断出来た――――



 “良、カ……った――――――”


 それだけを思うと駆け寄る田緻本 完爾に対し弱々しく来た道の方向に指をさす。


 感覚的に口を動かしたつもりだったが田緻本 完爾は何かを理解したらしく周囲の足音に鋭く指示を飛ばした。


「――――――――!」


 田緻本 完爾は何かを言ったがアリアには既に聞こえず、ただ田緻本 完爾がアリアの目を見て大きく頷く光景が視界に入り、アリアは安心したかの様に自身の意識を手放し瞼を閉じた。




この度は第77話を読んで下さりありがとうございました。


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