74話 反撃
「い、石井さん……」
アリアは余りにも酷い運転手の最期に目を向けてはいられず視線を別の方向へと背けた。
ロギアは運転手の最期に見せた笑みが気になり周囲へと意識を集中させる。
「さて邪魔者はいなくなった。少し移動しようか、此処ももう少しでショーが始まるからね」
ケビン・コーフィンはアリアに近付くと実験動物を観察する様な目でアリアを見、顎を持ち背けている顔を上げさせる。
「あなた――――」
前と同じ、そんな視線に嫌悪感を抱きアリアがケビン・コーフィンを睨みつけた。
「良い、実に良い……これから先の事がワクワクするね。先生がどんな反応を見せてくれるか、楽しみで――――」
ケビン・コーフィンが言いかけた時、部屋の外から悲鳴が聞こえた。
「ッ!! 何事だ?」
周囲の男達も動揺しケビン・コーフィンは不快感を出し声を上げる。
それと同時に部屋の入口付近に一体のボロボロの人間が現れ、その場の全員の視線が向けられた。
「感染者――――――」
ロギアの口からそんな言葉が漏れ、それを合図かの様に周囲の男達も騒ぎ始める。
感染者は獲物を視界に入れると叫び声を上げ突進していく。
「うわああああ!!」
傍に居た兵士が悲鳴を上げ銃で応戦するが、弾丸は感染者の身体を貫くのみでその動きは全く止まる気配がなく――感染者がその兵士に勢いよく飛びついた。
まさにそれを合図かの様に此の部屋に次から次へと感染者が雪崩れ込んで来る。
周囲の動揺と悲鳴が更に増し、この場が混沌とした場に一瞬で変わった。
「何故感染者共が檻から出ている!! 見張りはどうした?」
ケビン・コーフィンの顔から先程迄の余裕は消え、怒声を飛ばす。
流石にアリア達に銃を向けていた連中も銃口がアリア達から離れ感染者へと向けられた。
その兵士の動作をアリアが捉え、瞬間的に自身の顎を触っていたケビン・コーフィンの手が視界に入る。
「――――ッ!?」
唐突にケビン・コーフィンの顔が苦痛に歪む。
「ッ! どうしまし――」
異変に気が付いた兵士が声をかける。
ケビン・コーフィンが一歩踏み出し部下に指示を出そうとした時――――ケビン・コーフィンが顔を背け、アリアとロギアへの周囲の視線が外れた隙を付きアリアはケビンの小指へと噛み付いていたのだ。
「うがぁああああッ!?」
ケビン・コーフィンはアリアの口から指を放させようと手を引っ張りだしたと同時に、アリアは歯に力を入れ思いっ切り真横へと首を捻った。
ブチッ! 決してしてはいけない音と共にケビンの指から鮮血が迸る。
「があああああああああああッ!!」
小指に走る激痛と、更に部屋へと侵入して来る感染者でその場が一層パニックになった。
周囲の兵士が次々と発生する出来事にあたふたし、ロギアよりも侵入して来る感染者に注意を向ける。
アリアのとった行動には驚いたがロギアはその隙を逃す筈は無い。
ケビン・コーフィンの手から落ちた鍵へと飛びつき解錠すると、その行動に気付いた一人の兵士へと距離を詰めみぞおちへと肘鉄を食らわせ、下がって来た頭に目掛け鋭く蹴りを叩き付けた。
「あがぁ!!」
兵士はそれで意識が沈み膝を地面に付くが他の兵士は部屋に入って来る感染者に対応するのが精一杯で、ロギアの方へと対処しようとする兵士もロギアを止める事が出来ず戦闘不可能になる。
「こ、このぉぉぉぉ女ぁぁッ!!」
ケビン・コーフィンが精一杯の力を込めアリアの頬を殴るがその直後ロギアが飛び出し、兵士から頂戴したナイフをケビン・コーフィンへの腹部へと深々と突き刺した。
「ぐぁッ!」
後退ろうとするケビン・コーフィンにロギアは自身に取り付けられた拘束具を武器にし力の限りケビンの顔を殴りつける。
「んおぉッ!?」
短い悲鳴と共に壁際へと叩き付けられるケビン・コーフィン。
ロギアはその際にアリアの元へと駆け付け拘束を外す。
即座に周囲を見回す。
入り口から侵入して来た感染者に対応出来ず餌食になる兵士、まだギリギリ持ち堪えている様で感染者の意識はロギア達には未だ向けられていない。
「アリア、こっちだ!」
「う、うん!」
ロギアはしっかりとアリアの手を握り感染者と応戦する兵士の脇をすり抜け走り出す。
「ぐぅ、ま、待て!! 糞――――」
ケビン・コーフィン二人を止めれず苦虫を噛み潰した様に顔を歪める。
案の定部屋から出た瞬間の景色は地獄絵図だった。
あちらこちらで聞こえる悲鳴と唸り声。
ロギアは自分達の道を塞ぐように立つ兵士に向け顔面に跳び膝蹴りをくらわし、その兵士は無様に飛んで行く。
「いたぞ!!」
二人を追って来た『термит(サーマイト)(白蟻)』達が二人に向け何十発もの銃弾を放つ。
「ッ! ロギッ!」
アリアは避け切れないと感じロギアを庇う様にロギアを押し退けたが――廃墟のせいかあちらこちらの床が抜けており、無理に銃弾を避けた為に二人は一階に落ちてしまう。
「あぐッ!?」「うぐっ!!」
アリアは落ちた際に手を捻り、ロギアは態勢が悪かった為か受け身を取る事が出来ずバランスを崩したまま地面に叩き付けられた。
「ッ! ロギ!」
「あー、糞ッ」
ロギアが落ちた所には運悪く瓦礫が放置されており、その一つから飛び出した針金がロギアの腹部を貫いていた。
「そんな……ロギ!」
アリアは自身の痛みは忘れロギアの傍へと駆け寄る。
「あぐぅ……!」
ロギアは自らの傷の度合いを確認し歯の間から声が漏れる。
叫び声が聞こえ奥の通路から感染者が二人に向け突進して来るのが見えた。
アリアは傍に落ちている銃を拾い上げると何発も感染者に向け発砲する。
だが狙いが定まらず感染者に命中したのはほんの数発だけだった。
それでも一発が脚に当たりバランスを崩した感染者は大きく転びそのすぐ後ろを走っていた感染者の足止めにも成功する。
「助かった……ありがと……ッ!」
ロギアは腹部に刺さった針金を引き抜くとフラフラと立ち上がる。
「ロギ、肩に掴まって! 早く!」
アリアはロギアを支えると出口がありそうな方向へと走り出す。
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