67話 楽しみと少しの不安
「市場?」
朝食を口に運びながらアリアにそう聞き返す。
「うん、桐ケ谷尊信さんが言うには昨日から三日間、お昼頃から七時くらい迄の間小規模だけど開催してるんだって。私達さえ良ければ交流が終わった後でなら寄ってくれるみたい」
「市場ねぇ」
人が集まる場所、それには嫌な思いしかなく眉間に皺が出来る。
「美味しい屋台とか此処で暮らしている人の雰囲気も分かるんじゃないかなって思って……行ってみたいな――なんて……ロギは、どうかな……?」
段々声が絞られていく声。
「そうか……」
此処が安全地域のグリーンエリアだった事に気付き、かつてのトラウマを頭から振り払う。
「ま、まぁ、良いんじゃないか? この機会に」
ロギアのその言葉を聞きアリアの顔がパアァと明るくなる。
「うん」
テンションが高くなっているアリアを見て自身の無粋な思考を振り払い、 ロギアは端末を操作し市場の情報に目を通す。
アリアの言った通り三日間だけ開催され、これによるとマザーの管轄地域以外からも様々な物資が取引される予定になっているようだった。
「確かにこれは面白そうだな」
ロギアのその言葉を聞き大きく頷く。
そんなアリアの様子を視界に入れつつ、端末に表示されている時刻が目に入った。
「そういえば、そろそろ桐ケ谷達が来る時間だろ。アリア、支度はもう出きているのか?」
「出来てるよ、後は後片付けくらいかな」
視線を机の上に落とし、食べ終わった食器等を見る。
二人は食べ終わった食器を洗い場に持っていき後片付けをしていると玄関から呼び鈴が聞こえた。
「私、見てくるね」
アリアはタオルで手の水気をとると玄関に駆け出していく。
「お待たせしました、お二人共」
桐ケ谷尊信は軽く挨拶をしアリアと顔を合わせるとそう言って頭を下げた。
アリアもつられて下げる。
「おはようございます、ロギアさん気分はどうですか? 何か異常等ありましたら何でも言って下さい」
リビングに案内された桐ケ谷尊信は丁寧に告げるとロギアとアリア二人の様子を聞きていく。
数分程の質問が続けられ、桐ケ谷尊信は背もたれに身体を預け息を吐く。
「良かった、今の所此処での暮らしに満足して頂けている様で」
「ああ、今の所は。で今日は此処に登録されている人物との交流で間違いなかったか?」
ロギアは手元の端末を操作し連絡先を確認する。
「はい、そうです。二、三件程寄る事になっていますがお昼頃には自由時間が取れます。なのでその時にでも市場でも行きましょうか?」
そう尋ねられたアリアが首を上下させ、「行きたいっです……」
遠慮がちに何かを堪えるかの様に呟く言葉についロギアも笑いが零れた。
「準備も出来ている様ですし、あまり長く石井さんを待たせるのも悪いですからそろそろ出発しますか」
三人は家から出ると、運転手の石井さんに挨拶をする。
「今日一日、宜しくお願いします」
「は、はい宜しくお願い致します」
石井さんは額の汗をハンカチで拭う。アリアは運転手の目をジッと見つめ――――
「な、何ですか……?」
運転手はその視線に焦りそう返事をする。
「あっ……何でもないです、ごめんなさい。顔色が良くない様に見えたけど……体調が悪い時は言って下さい」
咄嗟に誤魔化す様に言葉が出る。アリアが首を傾げ「……気のせいかな」
一瞬鼻に感じた、違和感ついて問い返そうとしたがそれが汗の臭いなのかハッキリとした判断が出来ず失礼になると思い口を紡ぐ。
傍に居るロギアと桐ケ谷尊信もそれは感じていない様で、アリアは自身の勘違いで尚更口にしなくて良かったと胸を撫でおろす。
「それでは行きましょうか?」
三人が乗り込むとすぐさま目的地に向かって車両が走り出した。
「――――話ても、大丈夫な人……?」
これから会いに行く人物の概要を聞きアリアの口からそんな感想が漏れた。
「ええ、大丈夫ですよ。彼には貴方達の事はしっかりと伝えてありますし、お二人はマザーの客人です。そんなに怖がらなくても良いんですよ」
余りのアリアの身体のこわばり具合を見て桐ケ谷尊信は声をかける。
「……っ」
相手の情報を聞いてから、アリアは明らかに緊張して静かになっていた。
ロギアからしたらその人物は性格は合わないだろうが、緊張処か興味と言う感情の方が高い。
【田緻本 完爾】性格は厳格で規律に関しては何処の地域の指揮官よりも何倍も厳しく、主にマザーの管轄地域での兵士の鍛錬をしている人物だ。
端末上に載っている顔写真では、年齢は四十六、スッとした顔立ちで高い鼻。
そしてなにより整った眉毛に立派な顎髭、話通りの鋭い眼光。端末上では短い挨拶を交わしただけだが、冗談が通じそうにない事は把握出来た。
「石井さんも緊張しているんですか?」
アリアが話をふると運転手の石井さんも苦笑いを浮かべる。
「ま、まぁ……あの人ですからねぇ。あの人を前にして普通にするなんて僕じゃあ無理ですからね~到着したら僕は当然ながら車内で待ってますよ」
ハハハと冗談っぽく言うが引き攣った顔から本音が分かりやすく、アリアの表情も一層固くなる。
「そんなに長く話しませんよ、お二人を見て一通りの人物像を把握したいとは言っていましたが」
「余計な事は口にしない方がいいか?」
ロギアは冗談交じりにそう呟くとアリアの肘で軽く小突かれた。
ロギアと桐ケ谷尊信の何処から何処までか冗談か分かりにくいやりとりにアリアは一層不安がつのっていった。
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