64話 ロギアとアリア、二人の決意と――――
来る時には狭苦しい印象を受けた道も今は既に慣れ殆ど気にならなくなっていた。
ロギアは数歩先を歩く青年の背中を見つつ、少し後ろを歩くアリアへと顔を向けた。
マザーの機転のおかげでアリアの顔色は十分にマシな物に戻っていた。
今は呼吸の乱れも無く、足取りもしっかりしている。
アリアはそんなロギアの視線に気付く様子は無く、前を行く二人のペースに遅れる事が無い様にせかせかと脚を動かしながら自分が摘んだ花へと目を落とす。
「花言葉……」
マザーが語った逸話と花言葉が頭に残り、その時の女性の気持ちを考えると不思議と今の辛く痛い気持ちが若干和らいだ感覚になる。
ふとアリアは受け取った花へと顔を近づけその芳香を嗅ぐ。
マザーが言っていた様に花が持つ芳香が気分を落ち着けたり安らいだりさせると言う事を直に実感していた時、ふと視線を感じ顔を上げるとロギアと目が合った。
「あ――――ロ、ロギ……ど、どうかした?」
自分の行為を見られていたと思うと急に恥ずかしさが出てアリアは焦った様子で問い質す。
「いや、何でも――――――今度も……いや、今度こそ――――」
「?」
首を横に振り小さく呟いたロギアに向かいアリアは小首を傾げた。
“お前――夏夜の時の様なヘマはもうしない。俺は――今の自分に出来る事、贖罪でも何でも理由は今はどうでもいい。今はただ目の前に居るアリアが幸せだと感じられる様な居場所を作ってやる”
「アリア」
「ん――――?」
「――――宜しく頼む」
アリアは最初はきょとんとしていたがその言葉の意味を察したのか微笑み返した。
「――こちらこそ」
形は思っていたのとは若干違うもののやっと手に入れた安らぎにアリアは頬を綻ばせ、ロギアもそんなアリアを見せ自然と笑顔になる。
ロギアが救った命が――ロギアの心も同時に救う結果となった。
「どうしましたか?」
青年が振り返りそう声をかける。
「いや、何でもない」
ロギアとアリアは青年を追いかけマザーの屋敷を後にすると、すでに門の外には一台の黒塗りの車が停車していた。
運転席には二十歳程の男が乗っており門から出て来たロギア達を視界に入れると視線を逸らす。
「こちらで家へと向かいます。町の中でどこか見ていきたい等、要望があれば申し付けて下さい」
アリアは青年のその台詞に少し戸惑った表情を見せたものの、少し頭を悩ませ、「……ひ、人が集まる所を、もう一回見てみたい……」
我儘なのかも、そんな表情を浮かべながら遠慮がちに口に出す。その言葉に青年は微笑み「了解しました」そう優しく返事をした。
三人は車に乗り込み運転手に指示を出すと静かに走り出す。
流れていく街並みを眺めながらロギアとアリアは改めて平穏という物を実感した。
――――――――――――――――――
グリーンエリア マザー管轄地域 午後五時
日が本格的に暮れる前に買い物を済ませたいのか、街の中を歩く大勢の人の流れを目で追う。
「相変わらず、五月蠅い街だな」
金髪の男は毒づくと自身の端末を確認し大きく溜息をついた。
「あーあ……失敗だよ、クライアントにこれ以上迷惑かける訳にもいかないんだけどなぁ……」
端末に入ってくる幾つもの報告を見て眉間に皺が寄る。
「あの運転手め……」
男は自身の腕輪、термит(サーマイト)(白蟻)と刻まれた文字を愛しそうに撫でる。
「ああ、これ以上手段は選んでいられないな。うん、そうだ」
男は口元を歪め不敵に笑う。
「マザーには悪いが、このグリーンエリアで一波乱起こさせてもらうよ、俺とクライアントの為にね」
カフェのテラス席から立ちあがると男は会計を済ませそんな街並みへと紛れ込んでいく。
この度は第64話を読んで下さりありがとうございました。
☆マークから評価・お気に入り登録、感想いただけると励みになるので宜しくお願い致します。




