59話 果たさなければならない責務
黙る二人を見てマザーはゆっくりと口を開く。
「元々このパンデミックを引き起こした原因となったのはたった一匹の個体なのです。それが貴方達も知っていると思いますが別の生物に寄生し増殖して今の様な状況へと変化したのです……ただ私にはこの状況が人為的に引き起こされた物だと考えています」
「人為的……」
アリアからそう言葉が漏れ、ロギアは息を呑む。
「その一匹を私ではどういった方法で誰がどういった経緯で入手したのか迄は調べる事が出来なかったのですが、その個体に貴方の御父上であるセルゲイ・オルバースが手を加え、人が理性を失う事無く進化し続ける存在にしようとし、その結果何処かでその計画が崩れて寄生虫が世界に溢れかえる異常な事態になってしまった」
想像通りの名前が上がり、アリアは身体を硬直させ、ロギアはただ黙ってマザーの目を見る。
「だが俺にはどうして親父が【人が理性を失う事無く進化し続ける存在】にしようと言う思考に至ったかなんて知りもしないな……」
ロギアは自身の記憶を辿り、その答えが見つけられずにうなだれる。
「そうですか……貴方達は人工知能の発達についてどれだけ知っていますか?」
マザーの更なる問いにアリアは首を傾げ、ロギアは少し思考を巡らせてからマザーを見る。
「さぁ、ある程度ならニュースで見た記憶があるが……それとこのパンデミックを引き起こした原因と何の関係がある?」
「ええ、原因は単純よ。二〇四十年頃かしらね、人工知能が私達人間が想像するよりも何倍も急速に発達して、その事で元々人工知能の発達に関して危惧していた人が反発したの。その組織に加わっていた者の中に有名な政治家や貴方の御父上であるセルゲイ・オルバースが居た事は確認出来ていたわ」
「親父が……」
そんな団体とつるんでいる素振りすら見た事は無かったが、寄生虫の実験すら認識出来なかった自分には当然だとロギアの口からついつい溜息が零れる。
「けれど彼、セルゲイ・オルバースは組織内でも極端な理想を持っていたのが原因ね。自身の掲げた理想、それを叶える為には人工知能よりも人間が数歩先に行く必要がある。けれど人間が人工知能よりも数歩先に行くと言うのは誰もが抱く様に単純な事じゃないって事は彼も十分に承知していた。けれど少しでも進化を早める為彼は研究を続けたが勿論日の目は出る筈も無く彼の資金源であったスポンサーも降りてしまった。でもある日を境に彼の研究は大きく進んだわ、安全にそして誰にも邪魔されずに研究が続けていける場所……彼が目を付けたのが日本……妻の実家って訳だったの。それで元々あった政治家等のサポートを受け、隠れて実験を続けていたって事かしらね……」
ロギアは自身が知らなかった事すら知っているマザーに驚き、アリアに至っては唖然とした顔で止まっている。
「だがそこまで上手く潜り込めるものなのか?」
「ええ、なんたってこの国にはスパイ対策すらロクにされてはいないし、どんな事にも海外と違って性善説を元に作られている法があったりもするから悪意さえあれば悪用何て簡単に出来るし、もし一部の団体に気付かれたとしてもマスコミや政治家は握る物さえ有れば呆れる程全く取り上げないわ」
キッパリと言うマザーにロギアの眉間にしわが寄る。
「民衆の無関心――――セルゲイ・オルバースにとってはそれが一番の隠れ蓑だったみたいね……彼にとっては日本が、家族ですら自身の理想を叶える為には最大限に活かせる居場所だったのかもね」
「とんだ悪人だな……傍に居て判らなかったじゃあ笑い話にもならないな……」
マザーが淡々と説明する内容にロギはア空笑いをする。
「俺は……父親の事を何一つ、理解出来ていなかったんだな……」
分かっていた事なのに、他人から言われその嫌な、苦しい感情がのしかかってくる。
「ロギア……」
アリアが心配そうにロギアの手に触れる。
「……大丈夫だ」
ロギアは目頭を押さえた後、静かに息を吸い込む。
その話を聞き、自身が果たさなければならない責務がロギアの中で明確になる。
セルゲイ・オルバースを捕らえ色々と吐かせなければならない。
「父親――――セルゲイ・オルバースの捜索に可能な限り協力したい」
「貴方ならそう言ってくれると思っていました」
マザーは微笑みそう返すと、ロギアはアリアを見て早々に話題を切り上げ今の自分達に関わる話を切り出した。
「いきなり話が変わって悪いが、アリアに関して……アンタ等はどういう見解を持ってる?」
その問いにマザーはどう答えるべきか言い淀んでいたが「これは、アリアさんにとって簡単に受け止めれる様な事ではないけれど……やはり話しておいた方が、今後の貴女の為になるのかもしれないわね」
声色が変わり、アリアが隣で息を呑むのが判った。
この度は第59話を読んで下さりありがとうございました。
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