52話 説明
アリアは今迄の経過で尚更警戒心が高くなっている様だが青年のその動作には余り気を止めている気配は見られない。
ロギアも気にはなったがその微笑みからは悪意の様な物は微塵も感じ取れず、それとは全く逆の優しさと言う物さえ見られた。
水美がロギアに見せていた物と似た様な印象を受けた事もあり、今は深くその事に関しては追及する様な事は無くただ黙って青年に焦点をあてる。
「長い時間、待たせてしまいましたね。僕の名は桐ケ谷尊信と言いましてマザーの御傍付きでございます。」
男の発したマザーと言う言葉に二人は顔を合わせる。
「貴女がたの事情は全て把握しております。まずこの都市の安全性の為とは言え長らく嫌な空間に閉じ込めてしまい、そして失礼な態度をとる者が出てしまい本当に申し訳ありません」
青年は再度頭を下げた。
「今回の検査でお二人がこの都市に入る事に関してはそれ程大きな問題ありませんでした。ですので以前、橘 和倻様がお二人を此の地に招くのに仰っていた約束事項、貴方がたがマザーと交わした条件、それらを早速履行したいと思います。」
「約束を履行……」
青年が発した言葉とまさかの急展開にロギアは驚きを隠せずにいた。
最悪、自分達の提案は聞き入れて貰えないと言う事で、この機に何かしら騒ぎを起こそうとも視野の中に入れていたのだ。
「はい、此処まで散々な扱いと一方的な処置を行ってしまったので疑われて当然な状態に現在あると考えています。ですからその疑いを晴らし此処がどんな場所でどういう風に生活しているのか実際にその目で見て貰いたいとマザーも仰っています。」
「それは助かるが……」
その台詞を訊きホッとしたのか青年は二人の向かい側に座った。
「こちら側が橘 和倻様から伺った事だけでは万が一にも抜けている箇所があると思うので取り敢えず確認も兼ねてざっと口頭で申し訳ないのですが述べさせて頂きます。ではまず――」
身の安全の保障は勿論の事、青年の説明の中には橘とでは無くマザーと端末越しに交わしていたロギアの意向でもある水美夏夜の捜索。
更に一番重要視していたアリアの自由まで等何一つとして欠ける事無く言っている事にはロギアも驚いたが、情報一つも抜け落ちる事無く伝わっていた事に関して一先ずは信用しても良さそうだった。
そしてこういった説明口調が嫌いなロギアは全ての説明を訊き終わると大きく溜息を溢し、アリアもこの現状に驚きつつも青年の目を見てしっかりと応じている。
後は生活風景の確認、そして安全性の確認。
それさえ終われば色々と説明などで面倒にはなるだろうがやっと落ち着ける事が出来そうだった。
そう考えると今迄の張り詰めていた緊張感が解け、疲れがどっと押し寄せてくる。
「――では今をもって貴方がたはマザーの管理土地に居る以上は如何なる物からでも守られるマザーの庇護下になります。つまり貴方がたの安全は間違いなく保証されると言う事です。それもこれも貴方がたの特殊事情のせい――そう捉えると悪い言い方になりますが、貴方がたは非常に運が良――――」
「……言わないで下さい――」
自身が味わって来た苦痛を地獄を思い出してなのか、又は容易く特殊事情、運が良いと表現された事に対しての怒りなのかアリアは微かに震えながら自身の手に爪が突立てる程強く握る。
「私はこんなの望んでも無かったし、運が良い何て言葉……聞きたくありません。だから――容易くそんな言葉言わないで……下さい」
下唇をかみ、雫を目の隅に溜めアリアは強くそう主張した。
ロギアもそうだが直接言われた青年は慌てて頭を下げた。
「失礼しました、余りにも無神経な発言でした」
青年はアリアにお詫びするとロギアにも同じ様に頭を下げた。
「俺は構わんが……」
ロギアはアリアに顔を向けるとその力強い顔つきについ頬が和らぐ、そして青年へと焦点を戻す。
「それで――端末での交渉の際にアンタ等が言っていた事なんだが……」
「アリアさんの事ですね」
青年は顔を上げるとロギアに目を合わせる。
「ああ、定期的にアリアの検査をさせて欲しいってのは?」
「はい、先日マザーが仰っていた通り貴方がたの安全を考えると、そればかりはこちらもやらざる負えないのです。でなければ良く思っていない派閥の方に付け入られてしまいます。なので定期的にこちらの要望に応えて検査を行って頂く事をお願いします。しかしマザーもアリアさんを今迄の様に研究者達が行って来た様な無理矢理モルモット扱いするつもりなど一切ありません。アリアさんの身体と精神の負担にならない様、マザーも上層部へとこれからも直接働き掛けていくつもりです。勿論どんな検査をするのかは事前に貴方がたにもお伝えさせて頂きますし、何処で検査を行うかも事前に知って貰うつもりです」
「……だそうだ。どうするアリア?」
ロギアは青年の説明が終わると同じく真剣に話を訊いていたアリアへと顔を向ける。
アリアは目の焦点を何もない机の上に滑らせ、思考を巡らせてからロギアの様子をチラリと伺ったのち真っ直ぐ青年へと顔を向けた。
「……わ、判りました。」
「いいのか?」
アリアが言い終えてからロギアが再確認の為そう口を挟む。
「う、うん……ホントにそうだとしたら嫌じゃないから……」
「……そう言う事なら――宜しく頼む」
二人の答えを黙って聞いていた青年はそれを聞くと一呼吸おき、その顔つきから緊張が解けたのがアリアから見ても判る程だった。
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