39話 термит(サーマイト)(白蟻)
建物の扉が軋みを上げゆっくりと開かれる。
黴臭く、埃まみれの空間、崩れた天井からの日光が降り注ぎ、錆びれたその光景は絵画の様でもあり幻想的な物だった。
「不謹慎かもしれないですが、こう言った廃墟は美しいですね」
水琶が呟くとアリアも辺りを見回す。
「景色は良いだろうが、余り大声は出さない方が良いかもしれんぞ?」
橘は偶に天井から降ってくる砂程の石を視界に捉える。
「最近此処には来ていなかったが、此処まで建築物が劣化しているだなんて思ってなかったな」
ロギアもこの現状を見て表情が硬くなる。
「もう放棄された後じゃないっすか? 防壁も脆い所がありそうですし」
ユズルが周囲を見回しそう漏らす中、一行は警戒しながらも建物内に足を踏み入れていく。
「ああ、その様だな。早く此処から――――」
橘が言葉を止め直ぐ警戒態勢をとる。
ロギアも橘の様子を捉え自身も辺りを警戒しようと身構えた―――――
――唐突に車のエンジン音が聞こえ部下二人とアリアが飛び上がり橘が即座に外を確認する。
白色の防護服に身を包んだ男達が数台の車から降りてくるのが見える。
橘は全員物陰へと身を隠す様指示を出し外の様子を伺う。
「出口を見張れ!」
男の一人が鋭く言い放つ。
「居るのは分かっている両手を上げ今すぐにここからでてこい」
間違いなく自分達が此処に居る事がバレている。
最悪なのは男たちの格好。
白を基調とした防備、報告書から見た覚えがある。
セルゲイ・オルバースと言う男の指示に従う武力部隊『термит(サーマイト)(白蟻)』
実際に見たのは初だが彼らの行いにマシな事は一つもない。まだハンターと呼ばれる連中の方が目的がハッキリしている事もあり、目的がハッキリしていないぶん遥かに不気味である。
「追手だ」
橘のその言葉に場は凍り付き、緊張が走る。
アリアは肩を強張らせ、背筋が凍り指が震えた。視線を地面に落とし鼓動が早くなった時――ロギアの手がアリアの手に重なる。
「大丈夫だ、お前は俺が守るから。安心しろ」
「ロギッ」
その一言で少しばかりの余裕が出来たのかロギアを見た。その様子にロギアは微笑み返し、真剣な面持ちで外の様子を探る。
「さて、お相手さんの、人数は――十人超えるくらいか」
苦笑いを浮かべ橘は自身の装備を確認する。
「いや、キツイかぁ――」
何故『термит(サーマイト)(白蟻)』が自分達の居場所を特定出来たのか橘は頭をフル回転させる。
自分達の無線機に視線を落とし、直ぐにその可能性を排除する。
そしてアリアへ視線を向け、発信機を疑うも、二人が持っていたアタッシュケースに思い当たり、”あれかぁ‥‥”あっけなく答えに辿り着くが流石にあの手がかりは捨てられない。
自分たちにとってもロギア、アリア。あのふたりにとっても。
「じゃあ、どうするかだな‥‥」
橘は相手の戦力とこちらの戦力を比べ、無茶苦茶だが唯一この場から逃げおおせる可能性がある安全を度外視した賭けが頭に浮かぶ。
ただこれには流石にロギアとアリアを巻き込めない。
ロギアはこの世界生き残れてきただけありサバイバル生活に慣れており、判断力、戦力共に申し分ない。
それに橘から見ても自身よりもこの世界で生き残れる生存力が高いと判断出来る。
それに比べて橘は自分の部下へと目を向ける。
水琶、ユズル共に実戦での経験力が足りず、サバイバル能力も上司からの目で見ても殆ど無いと言っていいだろう。
この場に立て籠もるには余りにも障害物が少な過ぎるし、敵の数が多い。自分達の居場所がバレていた以上、相手の戦力が目の前の連中だけと考えるのは余りにも軽薄だ。
固まって行動するよりも今は二手に分かれてでもアリア達を奪還されない様道を選ぶべきだ。
アリアにはロギアがついている、それに此処で応戦すればアリアを追いたくても相手は無視は出来ないし、水琶、ユズルの二人には悪いが危険な賭けを試す事も出来る。
「一旦此処は二手に分かれよう」
「二手って!?」「橘隊長?」
部下二人の瞠目する様子が見える。
「ほ、本当に、大丈夫‥‥?」
不安そうなアリアを安心させる様ロギアは頷く。
「いつもの事だ、それにアンタ等だけの方が上手く連携が取れるって事だろ?」
「まぁ、大体はそんな事だ。ここの正面でさえこの人数だと流石に抑えきれない。少しの足止め、それくらいか? 連中はこれだけとは限らないからな、お互い気にする事無く、いつも通りのやり方での方が足を引っ張る事が無いだろう、まぁそんな考えだ」
部下二人が言い返そうとするが良い案が思い付かないのか言葉が続かない。
「それなら心配するな俺とアリアは死なない、それよりもアンタ達の方が心配だけどな」
自信を持ってそう応えるロギアに橘は苦笑する。
「まぁ、君ならそう応えるだろうと思ったよ、じゃあ合流地点はあのビルだ、本来ならちゃんと護衛したいが、そこで君達を待つ事にするよ」
橘がそう言い終えると同時に銃声が聞こえ、何かが投げ込まれたのか窓ガラスが割れる音が響き渡る。
「不味いな」
橘が毒づくと同時に部屋の真ん中から煙が噴き出てくる。
ロギアはアリアの顔を見る「行くぞ」「う、うん!」この場から立ち去るロギアに慌ててアリアが続く。
二人の足音が離れて行くのを察し橘は「さて、死ぬまで此処で持ち堪える必要はない、少しの足止めだけでいい。気を見て離脱し、多少時間はかかるが奴らが俺達を見失うか諦める迄後退しその後目標地点のビルへと向かう」
そう指示を飛ばし部下二人に合図を送る。
「どうせなら他のтермит(サーマイト)(白蟻)の連中の大半がこっちに引き連れられてくれれば嬉しいんだがな」
「そんなに引き連れられても対応出来ませんけど‥‥」
部下の弱音が聞こえたが橘は苦笑いを浮かべる。
「ああ、そこは心配するな。少しでも耐えればパーティが始まるからな」
橘のその言葉に嫌な物を感じ取り水琶とスグルは顔は青ざめ背筋が凍り付いた。
ロギア達が建物の奥へと進み扉を閉めると「あの人達大丈夫かな?」心配そうに声をかけてくる。
「ああ、あの橘って奴がいる限り心配はしなくても良いだろうな、ただ敵の数が多い事もある。足止めもそこまで持たないだろうな、直ぐに撤退はすると思うが」
「持たないって‥‥生き残れるの?」
「термит(サーマイト)(白蟻)はそこまで橘達を追わないと思うな、あいつ等の目的はアリアとこの荷物だからな」
アリアの目がアタッシュケースを捉える。
「必要以上に追わないと思う。逆に俺達があそこに残ったら橘達も引くに引けない、連中は諦めそうもないからな」
「俺の傍から離れるな、行くぞ」
背後から銃声が聞こえいくつかの悲鳴と共に銃撃音が響き渡った。
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