16話 作戦開始
午前八時九分 ショッピングセンター前
「本部、こちらαチーム。ターゲットを目視で確認」
男は物陰に隠れ、二つの人影から目を離さない様にしながらそう報告した。
『こちら本部、ではこれからその人物が間違えなく捜索している人物かどうか確認作業に入る』
直ぐに武装した男達の遥か上空を小型の無人航空機が飛んでいく。その無人機は地上から見上げると鳥の様な形に見える為、大抵の事が無い限り気付かれる様な心配はない。
「ターゲットの位置情報もそちらに送った。画像を確認してくれ」
その情報を元に無人航空機に取り付けられている高性能カメラが地上を歩く人影を捉え、そのデータが本部へと送られる。
ぴっしりとしたスーツ姿の男は数人のボディーガードに囲まれながら電話を耳に当て廊下を歩いてく。
「奴らしき人物が町で見付かったと聞いたが本当か?」
電話越しの相手に問いかけながらも歩くスピードは一向に緩めず早足で指令室へ向かう。
「現在確認中です」
「結果が出そうです」「声紋を照合中」
部屋にいる複数のスタッフが、数台のパソコンを操りながら送られて来た画像の人物について現状の情報を報告していく。
「連中の人数は?」この場を仕切っている男が傍にいるスタッフへと疑問を投げる。
「二人です、うち一人は……優先捕獲ターゲットの“アリア・イェリネック・エンシェント”の特徴と一致しています」
その報告と同時に扉が開くブザーがなり、スーツ姿の男が指令室へと入って来る。
先程仕切っていた男がこれ迄入手した情報を伝えていく。
「こちらが照合結果です」
作業していた男のパソコン画面に照合結果が表示され、スーツ姿の男が覗き込む。その数字は僅か三十パーセント弱だった。
「たった三十パーセントでは本人と一致したとは言いにくい、これでは報告出来ないぞ。もっと確実な物は見つけられなかったのか?」
スーツ姿の男はその場を指揮している男に向けハッキリとそう告げた。
「ですが――」
指揮官はそれに対し発言をしようとするが――
『私達の長期にわたる調査でターゲットの居場所はその地域にいる確率が高いのです。此処で臆してはなりません。貴方がたがどうしても失敗の責任逃れの為に決断を出せない様ならばこのまま私のαチーム(子供達)に任せて頂きます。』
部屋に設置されている別のモニターから発せられた女性の声でスーツ姿の男は口を閉じざるおえなかった。
「ま、マザー……」
そのモニターには複数の年配の男女が会議室らしき所でこちらに向かって確保するようにと抗議している。その中でひそひそと『またαチームか』等の愚痴も聞こえた。
『αチームが失敗したとしても責任は私が負うつもりでいます。それに近くには他の部隊も居ませんし、万が一にもと言う状況が来たとしても貴方がたにはそれ程の被害は無いのではなくて?』
年配の女性の一言に会議室内での愚痴もピタリと止む。
「男の方は武装しており、アタッシュケースが見えます。」
その間にも情報は次から次へと入って来る様でスタッフは上官達に報告して行く。
「あのアタッシュケースだ、間違いない」
指揮官の男はそう呟き視線を向ける。
画面に表示された数字が三十弱から五十弱程まで上がり、それと同時に画面上には危険を犯して迄作戦を実行する事は無いと赤文字で警告が表示される。
「中将、中将のお考えは?」
「むぅ……」
スーツ姿の男は眉間に皺を寄せ画面に映された数字を見ていると視界の端から慌てた様子でスタッフが駆け寄って来るのが見えた。
「中将、元帥からのお電話です」スタッフの一人が駆け寄り連絡端末を渡す。
スーツ姿の男は連絡端末を受け取るとこれまでよりも更に声音が高くなる。
「げ、元帥、女が“アリア・イェリネック・エンシェント”だと言う確率は五十パーセント弱で“ロギア・オルバース”と特徴が一致する男に連れられている様です。ですが作戦中止勧告が出ています、ここに居る者達は止める気が無いようですが……」
スーツ姿の男は部屋中を見回し、最後に会議室が表示されたモニターへと視線を送る。
『中将、君の意見を聞こうか』端末の先から元帥の声が聞こえ、スーツ姿の男は緊張しているのか先程とは全く違う声色へと変化する。
「はい、私は……五十パーセント代では不十分だと思います、あの地域には感染者も多く“蛹”の目撃情報もある為リスクが大き過ぎます」
『そうか。だが、その女が“アリア・イェリネック・エンシェント”だったとしたらどうする? 感染者に殺されてしまったとなれば我々人類にとっては大きな損失だ。いや破滅と言ってもいいだろうな。それに傍にいる男がこの大災害を引き起こしたセルゲイ・オルバースの息子“ロギア・オルバース”と言う可能性が僅かでもあるのならば、私個人としてはどんなにリスクがあり可能性が低くてもやるべきだと、会議室でもマザーの主張が概ね通った様だが……いかがかな?』
「は、はぁ……確かに、そうですが……」
スーツ姿の男は会議室のモニターへと視線を向けそして元帥の声色を伺う。
最初っから結論を決めているならいちいち聞くな、そう言いたいのをグッと堪えスーツ姿の男は答えると『作戦を実行しろ』そう元帥が言い放つ。
「りょ、了解しました」
元帥との通話を終え会議室からの映像が途切れるとスーツ姿の男は一呼吸してから周囲を見回した。
「作戦開始だ! 作戦許可が下りたぞ! αチームにそう伝えろ」
「了解」
スタッフの声と共に部屋中が慌ただしく動き始めた。
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