95.魔獣の氾濫1
王国歴329年11月、ハルト19歳、領都に戻ってきてたまっていた仕事を片付けていると、各地で魔獣の氾濫の知らせが届いた。
どうも、戦争や疫病、海賊の襲撃で、魔獣を狩ることが疎かになった領地では魔獣が大発生しているとのことである。
勉強会のために積極的に魔獣を狩っていたテー公爵家とその寄子の貴族、シャタイン侯爵家やその寄子の貴族、さらに魔獣討伐に積極的な辺境伯家やその寄子の貴族の領地では魔獣の氾濫は起きていなかったが、それ以外の貴族領ではかなりの被害が生じているようである。
そのため今年は王宮のパーティーは中止となった。
「今年は王都へ行かなくてもいい。ラッキー」
と思っていたら、ユリアーネお義姉様から、
「トゥール公爵領でも魔獣が大発生し、相当な被害が出た。全滅した村もある。夫のフアニート様が魔獣の討伐で負傷した。助けてほしい」
とのことである。
「何をしているのだ」
と思ったが、ユリアーネお義姉様の頼みとあれば、行かないわけにいかない。レンが妊娠中のため、俺はクララを連れていくことにした。
「クララも、もう6歳、いい経験になるだろう」
そう思った。
領軍の兵士100人と一緒に魔道馬車6台に分乗して、トゥール公爵領に向かった。
公爵邸に行くと、ユリアーネお義姉様が出迎えてくれた。まず、フアニート様を見舞った。フアニート様は村を襲った地竜との戦闘であばら骨と腕を骨折したようだ。
フアニート様をかばった部下の騎士は死亡したとのこと。今のところ命に別状はないようだが、動けない状況とのこと。
軍の指揮は部下の従士がとっているとのこと。そこで、この従士から状況の説明を受けるべく、現在魔獣が押し寄せている、ナットー町に行くことにした。
ナットー町に行くと、避難する住民で街はごった返していた。俺たちはそのまま領軍の詰め所に行った。公爵家の領軍の指揮を執っているのはヴァルターズ従士であった。
トゥール公爵家に代々仕える従士の家系とのこと。俺はユリアーネお義姉様より、救援依頼を受けて、ネイメー伯爵家の従士100名とともに魔道馬車6台で来たことを説明した。そして、現在の状況の説明を受けた。
彼の説明では、
「魔獣の軍団がこの町に向かっており、強力な魔獣だけでも数百体ほどいる。弱い魔獣も含めると数は数千に達する。
そして、それらの魔獣が統率が取れた状態で攻めてきていることから、背後にオーガメイジなどの上位種がいる可能性が高い」
とのことである。
俺が
「俺たちネイメー伯爵家の者でオーガや地竜など強力な魔獣を狩っていけばいいか」
と聞くと、
「そうしてもらえれば助かるが、数百ものオーガや地竜を倒せるのか」
「たぶん問題ない。今の魔獣の位置はどこか」
「魔獣は現在、町の西方約20km の地点に迫っており、明日の朝にはこの町に達すると思われる」
「それなら、今から魔道馬車で行って強い魔獣を蹴散らしてくる。弱い魔獣は無視するのでそちらで対応してほしい」
「今からって、もうすぐ日が暮れるぞ」
「大丈夫だ。魔獣の出す魔力に向かって魔法をぶちかますだけなので、昼も夜も関係ない」
ということで、俺たちは魔道馬車で町の外に出た。そして、魔道馬車に爆裂弾の発射装置をセットした。俺は部下に
「魔道馬車からは出ないこと。そうすれば、弱い魔獣に襲われることはなくなる。そして、強い魔力を感知したら目標を伝えるので、それに向かって爆裂弾を発射するように」
との指示を出した。
索敵で魔獣の位置を探ると、確かにここから20km ほど行ったところに多くの魔獣の反応がある。しかし不思議である、これだけの魔獣がいて、共食いもせずに人間の街を襲うのである。
「まるで誰かに操られているみたいだ」
と思った。
そこで、もう一度、今度は魔力の量ではなく、魔力の波長に注意して索敵を行った。そうしたら、ここから30km程行ったところ、魔獣の集団の後ろ10kmぐらいのところに、波長の違う魔力を感じた。
こいつが魔獣を操っているのではないか。そこで、俺はこいつの位置をすぐに把握できるようにマーキングした。そして、この波長の魔獣?をXと呼称して最終目標とした。
そうこうしているうちに最初の弱い魔獣の集団と接敵した。6台の魔道馬車は縦一列で、弱い魔獣を体当たりで蹴散らしながら、突き進んだ。
すると弱い魔物が道をふさぐように押し寄せてくるようになった。囲まれると面倒なので、魔道馬車のスピードを上げて最高速度100kmで走った。
こうなると魔獣はついてこられない。そして、時にはまっすぐに、時にはカーブして、弱い魔獣の集団を突き抜けた。




