81.疫病の蔓延
俺がラン地方で職員とやりあっていると、王宮からまた通知が来た。どうもアムスム王国の他の領地の港で船員から感染した病気が広まっているらしい。
「前回のトゥール公爵領と辺境伯領での疫病対策も俺は消臭液を配っただけであり、消臭液は王都のチョウチョ商会で売っており、そこで購入して疫病の広まっている領地に届けてもらえればいい。
今俺は、俺のラン地方の港湾で問題を抱えており対応できない。今俺がここを離れるとラン地方でも疫病が広がるかもしれない」
と回答した。
念のため疫病が広がっている領地に監視装置を送ると、患者は高熱が出て発疹や膿疱ができるみたいだ。死んでいる人も多くいるみたいだ。
「これはペストではないな」
あと、中世で起こった病気で有名なものは天然痘だっけ
「たしか牛痘の膿を人間に接種することで人間に免疫ができる」
だっけ。
とにかく、病気が広まっている地域で牛痘にかかっている牛を探し膿を採取した。次に牛を数頭購入し、この牛に採取した膿を接種させた。すると牛が牛痘に感染したみたいで膿が出来た。この膿を鑑定してみると牛痘の膿と出てきた。
これを人間に接種してみればいいのだが、この世界に免疫とか予防接種なんて概念はないし、どうするか。しかし今は時間がないので、これが人間に効くか調べることにした。それで多少危険だが自分に接種してみた。
そして1か月ぐらい様子を見たが特に体に異常はなかった。自分の体に鑑定をかけてみたところ免疫ができていた。
これで天然痘のワクチンが出来たわけだが、さてどうやってこれをこの世界の人間に接種していくか。何かいい方法はないかと思案した結果、
「病気にかかりにくくする魔法陣を体に刻む」
という説明をすることにした。
いかにも魔法陣らしく見えるように、先端に5mmぐらいの魔法陣を刻んだメスを作った。一応メスの魔法陣は体力アップの魔法陣とした。
これなら魔法陣を調べられても言い訳がつく。実際はメスと一緒に牛痘ワクチンを接種させることが目的だが、これは言わないことにした。
まずは家族に接種することにした。
「みんな聞いてくれ、病気にかかりにくくする魔法陣を作ったので、みんなに刻んでいこうと思う。これを腕の上の方にチョンと当てるだけ。ちょっと痛いが我慢してくれ。俺はやってみた」
と言って腕をまくって接種跡を見せてみる。
「へー、これがその魔法陣、よく分からないね。でもハルトのことだから、これ効くのでしょ。いいわよ」
「子供にもするの。痛いと泣くと思うけど、それでもするの」
「いい、病気になるよりましだ」
ということで家族全員にしていった。
その後伯爵家に働く者にしていったが、なかなか時間がかかる。そこで助手を10名ほど指名して手分けして行った。
結局領民すべてに予防接種をするのに1か月以上かかった。その間俺の仕事は止まったままだった。結局フグ町の外港の開港も再び1か月遅れとなった。
どうもこの病気は広まるのが早いようだ。最初、アムスム王国の西側の港町で発生した病気は、初期の感染抑え込みに失敗したため、急速に広がり、すぐに王都にも広まったようだ。
やっと、その段階で患者の隔離を通知したようだ。これにより感染拡大は収まったが、すでに多くの患者が発生しており、死者も相当の数に上ったようだ。
今回も薬師ギルドは感染の拡大防止に失敗したようだ。疫病が発生した時、患者の隔離は必須だと思うのだが、どうも薬師ギルドは薬で何とかできると思っているようである。
俺は領地の境の検問所で、人の動きに制限をかけている。検問所に来た人間はまず予防接種をして、その後3週間留め置いて問題のない者だけ通している。
このため、俺の領内ではまだ患者は発生していない。しかし、俺の領内への流通は大混乱している。なお、シャタイン侯爵領とその寄子の貴族領については俺の領地で患者の感染拡大を止めたため、疫病は広がらなかった。
また、魔法陣という名の予防接種もシャタイン侯爵領とその寄子の貴族領に広まった。
またテー公爵領やトゥール公爵領や辺境伯領など、アムスム王国の東や北に位置する貴族領については、患者の発生が患者の隔離の通知が来た頃であったこともあって被害は少なかった。
アムスム王国で発生した疫病は隣のユルノギ王国やベー王国、さらには帝国にも広がったようである。帝国の場合、食料難で領民に体力がなかったこともあり、病気の罹患者の割合がアムスム王国よりも高かったそうである。
病気が蔓延したことで今年の王宮パーティーは取りやめとなった。ハディー様の婚姻も延期された。




