63.王都の社交
12月になって冬の訪れとともに、王都へ行く季節になった。王都は伏魔殿、魑魅魍魎の世界である。貴族の世界は難しい。
最低出席しなければならないのは、王宮でのパーティーだけであるが、それ以外に寄親のシャタイン伯爵家主催のお茶会やパーティー、あとはテー公爵家やトゥール公爵家からも、声がかかれば出席しなければならない。それ以外の高位貴族から声がかかった時にどうするか、憂鬱である。
「昨年は下位貴族の令嬢に言い寄られた」
という話をしたら
「レンも行く」
と言ってくれた。娘のクララも一緒に親子3人、魔道馬車でお出かけである。途中、魔道馬車で1泊して王都の子爵邸に着いた。
それからテー公爵邸に行くと、公爵家の家族も王都に来ていた。妹のレアも学園を卒業して、公爵家でジグムントお義父様の仕事を手伝っているとのこと。
また、妹のリズも来年学院を卒業したら、公爵家の仕事を手伝うそうである。レアもリズも公爵家の最大戦力で騎士団長も魔法師団長もかなわないとのことで、このまま公爵家に留めておきたいとのこと。
「嫡男アール様の側室でもいいか」
と聞かれたので、
「本人がよければいい。元平民なのだから公爵家の嫡男の側室なら大出世である」
そう答えた。
夜、時間を取ってもらって、以前考えた懸念を伝えた。
「最近農業生産が落ちており、ベー王国とユルノギ王国では穀物価格が値上がりしている。幸いわが国は俺の作っている液体肥料の散布によりシャタイン伯爵家とその寄子の農業生産が増えたことから、均衡が保たれている。
来年は液体肥料をアムスム王国中に販売する予定で、すでに多くの注文が入っており、工場はフル操業をしている。
これが広まればアムスム王国は大豊作となり、たとえベー王国とユルノギ王国が不作でもカバーできると予想される。
しかし、それ以外の国々で不作になった場合は、カバーできない。
その場合、食糧をめぐって戦争になるかもしれない。第1に狙われるのは我が国と考えられる。
現在俺は子爵領に300台の魔道馬車を保有している。また、テー公爵家には80台貸し出している。また、王家やそれ以外の貴族家に1000台貸し出している。合計1380台である。
グ7平原会戦では200台の魔道馬車で3000人の侯爵軍に勝てた。単純に考えれば、1380台の魔道馬車で約2万人の敵軍を破ることができる。
それ以外に1~2万人の騎士や歩兵を配備すれば、疲弊したベー王国やユルノギ王国では、それ以上の動員は出来ないと考えられる。
しかし、もし仮に帝国が動いた場合、どうなるかわからない。魔道馬車は増産するが、なにぶん1人で作っているので、1年に400台程度が限度である。
それから、戦争にならなくても、食料価格が値上がりすると飢えた貧民の間に疫病が発生するかもしれない。その場合、難民が我が国に押し寄せる可能性がある。
国境で飢えた難民をせき止めれば、我が国は周りの国々から非難を浴びることになる。そして、難民を受け入れた場合、適切に対応しないと疫病が我が国にも広がるかもしれない。
疫病対策として、俺は病気を媒介するような害虫を弾く魔道具を作って、子爵領内に配布したが、人に感染した場合は感染した人を隔離するしか方法がない。
病気を治せる魔法士はほとんどいない。俺も病気についてはよくわからない。それに、俺は魔道馬車の生産で手が回らない。
以上2点について、アムスム王国として今後の対応を協議してほしい」
これに対して、
「テー公爵領でも今年の農作物の出来は悪かった。また周辺国でも不作だったことは知っている。最近来た商人が『ユルノギ王国では穀物価格が2割上がっている』と言っていた。
しかし、穀物をめぐって戦争になるであろうか。帝国もそこまでしないだろう。
しかし、飢えた難民が押し寄せ、疫病が発生する可能性は十分ある。
明日王宮に行って疫病対策について国王に話してくる。ついでに帝国の動きについても注意するように伝えてくる」
と言われた。
「俺も来るか」と
言われたが、固辞した。
次の日、ジグムントお義父様が王宮から帰ってくると、
「すでに辺境伯領で、流入した難民から疫病が発生し、難民と領民の接触を禁止し、難民の流入にも制限をかけている」
と国王から言われたそうで、公爵家の家令に命じて
「テー公爵領へ流入する難民については一旦国境で留め置き、しばらく様子を見て病気のない者だけ入国を許可するように」
との通知を出していた。
俺も同様の通知を子爵領に出すことにした。
害虫を防ぐ魔道具のことについて聞かれたので、
「小さい家であれは10個ぐらいで、家を囲うように置けば結界のようになるので害虫は家の中に入ってこられなくなる。屋外で虫に刺されれば仕方ないが、屋内に虫がいなくなるので家は清潔になる。工場を作ったので、1個小銀貨5枚、ヤマユリ商会で売っている。
あと1家に1つのトイレを作るように命令し、公の場所や道端で用を足すと罰するようにした。これで街道や公の場所が清潔になった」
と答えた。
公爵様も同様の通知を出すとのことである。
12月の終わりに王宮で、国王主催のパーティーが開催された。ネイメー子爵家としては俺とレン、テー公爵家としては公爵夫妻とレアが参加した。
国王様の挨拶では、
「周辺国は不作で難民が発生し、我が国へ流入していることと疫病が発生しているので対策をとるように」
との話があった。
俺は魔道馬車と液体肥料のことを聞かれた。それからしばらくして俺とレンは壁の花となった。貴族の会話は難しい。
なお、パーティーはレンが睨みを利かせてくれたので、下級貴族の令嬢に言い寄られることはなかった。一部の令嬢がレンの魔力を浴びて気分が悪くなっただけである。レンの能力も進歩したものである。昔は問答無用で気絶させていたが、最近は油汗を流させるぐらいに加減が出来るようになった。
レアは美人なのでかなりもてていたが、ジキムントお義父様に言われているようで適当にあしらっていたが、そのうち俺とレンのそばに来て離れなくなった。
「俺のそばにいるとレンが魔力で威圧して近づく令息を撃退してくれるので楽」
とのこと。
なお、パーティーの間クララは公爵邸で妹のリズに見てもらった。
領内への難民の流入と領地の疫病対策が急務ということで、俺とレンとクララは王都での社交は王宮のパーティーのあと寄親のシャタイン伯爵家のお茶会に出ただけで、1月の半ばに領都へ戻って来た。




