61.領地経営
領地に帰ってきてまず、王都の子爵邸に配置する人を選定した。仕事は子爵邸の管理と王都と子爵領の連絡、俺が作るヤマユリ商会の商品の王都への運搬である。
武術に優れる人間を5人選定した。男2人女3人である。5人全員に魔道馬車の運転を覚えてもらった。
男2人には領都と王都を魔道馬車で定期的に行き来してもらい、情報の伝達とマジックバッグに入れた商品の運搬をしてもらった。
女3人には公爵邸の管理と王都での今後の商品開発のための情報収集、そして男2人が領都へ出ているときに緊急の要件が生じた時の連絡要員とした。
ヤマユリ商会についてはアンナさんに任せていたが、エバにも手伝わせることにした。
また、今後領地の衛生問題の解決のために消臭剤(消毒液)は是非とも必要と考え、領都ネイメーにも石鹸と洗髪用液体石鹸の工場を建設した。
王都邸の管理、領都と王都の間の連絡、それにヤマユリ商会の商品の問題が解決したので、本格的に領地経営に着手することにした。
災害危険箇所の対策と街道の整備は一応昨年の秋に対処しているので、今後は農地の生産性の向上に着手することにした。
とにかく食料の備蓄がほとんどないのである。これまでの王家の代官は何をしていたのかと思う。不正こそなかったが長期的視野に立った政策が全然なされていない。天候不順によって不作になった場合を想定し、対策を立てることにした。
仮に農業生産量が3割減少したとする。そしてこの天候不順が3年ほど続くとする。すると、1年分の食料の備蓄が必要になる。領地の税率は4割、農民は物納である。この納入された農産物すべてを、備蓄に回すことも考えたが、そうすると、徴収した農産物の売却にかかわっていた商人をつぶすことになり、問題があると判断した。そこで、農地の生産性を上げて農産物の収穫量を増やすことにした。
農地の生産性を上げるには俺が実家やレンの実家に送っている栄養剤を農地に撒くのが手っ取り早い。そうすると生産量が5割増しになるので増加した分を備蓄に回せば2年で備蓄が完了する。
しかし、材料の薬草や魔獣に限りがあることから、栄養剤はそんなに作れない。そこで栄養剤に鑑定をかけたところ、水99%、その他1%、その他の内訳は、窒素31%、リン31%、カリ31%、マンガン1%、ほう素1%、銅1%、カルシウム1%、マグネシウム1%、硫黄1%、鉄1%、それと包蔵魔力500と出てきた。
なんか魔力入りの液体肥料みたいである。うん、これからは液体肥料と呼ぼう。
液体肥料を大量に生産しようと思うと、窒素、リン、カリが大量に必要になる。それ以外の成分は俺が魔法で集めればよい。
まず、窒素だが、爆裂弾を作るときに硝石を探したらテー公爵領に鉱床があったが、義父とはいえ他家なので大量に採掘できない。
そこで空気中の窒素と反応させて作ることにした。たしか、空気中の窒素と水素を高温高圧の中で反応させてアンモニアを作る方法があったような。ハーバー・ボッシュ法とか言ったと思うけど、よく覚えていない。
空気中の窒素を集めるのは俺の収納魔法でできる。水素は水の電気分解でできる。しかし水素は危険である。この世界の人間に扱わせたらば爆発事故を起こす。
そこで、俺の収納空間ボックスの中で水を電気分解して得られた水素と、空気中から集めた窒素を反応させた。結果から言うと、アンモニアができたのだが、めちゃくちゃ疲れる魔力が空になる。大量には出来ない。
たしか、この方法には触媒が必要だったと思うが俺の記憶にはない。俺の前世は科学者じゃないのだと思う。そこで、大きな容器を作りその中で高温高圧になるような装置を作った。
その装置に反応過程を促す魔法陣を組み込んだ。魔法陣を触媒代わりにするのである。この装置を収納空間ボックスの中に収納して行ったところ、かなりスムーズにアンモニアが生成できた。アンモニアから尿素を作る装置も作って、収納空間ボックスの中で一度に尿素ができるようになった。
つぎに、リンである。これについては俺の領内にリン鉱床があったので、この採掘をすることにした。この鉱山開発は部下に丸投げした。
また、カリについては隣のシャタイン伯爵領で採掘が行なわれていたので、そこから買うことにした。今後の肥料の必要量からすると、かなり大量に必要なことから、鉱山に設備投資をしてもらう必要がある。
そこでシャタイン伯爵家に行って、概ね必要とするカリ鉱石の量を話すと、
「カリ鉱石は最近売れ行きが落ちていたので助かる」
と言われた。
どうも、ヤマユリ商会の石鹸が出回るようになって従来の石鹸の需要が落ちたため、カリ鉱石の需要が少なくなったようである。しかし、量の大きさに驚かれた。
「そして何に使うのか」
聞かれたので、
「農地の収量が5割増しになる肥料作るのだ」
と話したら
「シャタイン伯爵家でも購入する」
とのことで生産計画を上方修正した。
量が多くなったので、
「鉱山の拡張が必要ならお金を出す」
と言ったが、
「勉強会の建物を無料で作ってもらったのでいらない」
と言われた。
窒素、リン、カリの入手にめどが立ったため、領都ネイメーに肥料工場を作った。工場はヤマユリ商会の所有とすることにした。
ネイメー子爵領の農地全体に年2回液体肥料を撒いたとして必要な肥料代の金額を金貨1万枚と想定した。この金額は子爵家もちとした。
もっとも収穫量が5割増しなら、税収も5割増しなので、肥料代の金貨1万枚を出してもお釣りがくるのであるが、これは言わないことにした。そして液体肥料を領内の村落に配って畑に撒くよう指導した。
なお、この年のネイメー子爵領の農産物の収穫量は例年の5割増し、輪作障害対策として農地を4分割したところは、2倍の収量であった。
これにより、農地を4分割する農法は領内で一気に広まった。その後、食料の備蓄は2年で完了することになるのであった。




