101.キニアニオ様の受難2
ブセルターン砦に着くと、櫓とそれをつなぐ高い壁その向こうに大きな尖塔が見える。これはちょっとした町じゃないのかと思ってしまう。
確かにここで6000人の兵士が暮らすのだから、これくらいなければいけない。それは分かるのだが、数日前までは何もなかったところにこれだけのものを作るという、ハルト義叔父さんの能力にあきれてしまう。
砦の中に入るとハルト叔父さんは必死に建物を作っていた。
「兵舎と畜舎は側だけ作った」
とのこと、
「中はこれから作る」
という。
朝から一日中魔法を使ってよく魔力がもつと思う。
「何か手伝えることはないか」
と聞くと
「時々帝国の斥候が来るので、その対応をしてほしい」
と言われた。
私は今、クララと一緒に魔道馬車の屋根の上にいる。クララは敵兵を見つけるのがうまい。私は目を凝らしても全然わからないのだけど、
「あの木の向こう」
とか
「あの草むらの中」
とか言って魔道馬車の運転手に行き先を指示している。
「どうして敵兵の位置が分かるのか」
と聞くと
「魔力を感じるの」
と言う。
「よくわからない」
と言うと、
「人間、魔獣それぞれ出している魔力が違う。それを感じるの」
とのこと
「領都で逃げた従士を捕まえた時もそのようにしたのか」
と聞くと
「似ているけど、あの時はたまたま見つけた。それ以上は秘密」
とのこと。
帝国の斥候を見つけた時のクララの対応は実に冷静である。まず周囲を土魔法で囲って中の空気を抜くのだそうだ。
人間は息が出来なくて5分もすると気絶するそうである。5分すると土魔法を解除してまだ帝国兵が生きていると、拘束してヴァルターズ従士に引き渡す。生きていないとそのまま埋めて終わり。なんとも単純である。そして、これを淡々とこなしている。
一度帝国の斥候が、発見されると逃げずに襲ってきたことがあるが、クララは目の前に透明な壁のようなものを出して魔法を防いだ。結界だそうだ。こんな魔法は聖女が使うものだと思っていたが、クララも使えるのだ。
そう言えば以前、メイドを拘束した時、
「治癒魔法も使える」
と言っていたが、クララは聖女だろうか。
とてもそうは見えない。第一に顔が聖女とは程遠い。
「聖女は絶世の美女」
それが定番である。
クララの容姿は貴族としてはずいぶん落ちる。
そのようにしていたら、こちらの歩兵も到着し、戦争準備が整った。
ハルト義叔父さんは歩兵の訓練を行っている。昨年のランドル王国戦争では歩兵が突撃する騎士を止めたというが本当だろうか。これをここでも実践しようとしているのだそうだ。できるかできないかにかかわらず、できなければ死ぬのだそうだ。
確かに帝国軍の騎兵は3000人こちらの騎兵は1000人、まともにやれば負けると思う。この壁の中にいると実感が湧かないが、ここは戦場なのだと思う。
そのようにして過ごしていたら帝国軍が現れた15000人と聞くとさすがにすごい。向こうが見えない。公爵邸を襲った人間が15000人もいると思うと恐怖が湧いてくる。
ハルト義叔父さんもクララも淡々としている。怖くないのだろうか。
そうしたら
「帝国はわが領民を兵士にして突撃をさせようとしているが、攻撃しても構わないか」
と聞かれた。
「攻撃しなければ我々が死ぬ」
と言われれば
「構わない」
と言わざるを得なかった。
尖塔でその情景を見ていたが、前と後ろから攻撃されてうろたえる領民を見るのはつらかった。涙が出てきた。もし我々がここで帝国軍を食い止めなければ、どれだけの領民が目の前の領民と同じ運命をたどるのかわからない。戦争とは悲しいものだと思う。
それから何度か帝国兵の突撃を受けたが、砦はびくともしなかった。ネイメー伯爵軍の兵士は実に冷静である。ハルト義叔父さんからは
「櫓の中は特殊な装置を使っているので見せられない」
と言われたが、確かに櫓から発射される魔法の射程は長い。500mぐらい届くようである。こんな魔法、うちの従士は誰もできない。
そのうち帝国兵の攻撃も散発的になってきた。ハルト義叔父さんに
「いつまで続けるのか」
と聞いたら、
「援軍が来るまで」
と言われた。
「打って出ないのかと聞いたら
「こちらは騎兵の1000人とうちの100人だけ、あとは数合わせの市民兵5000人、向こうは15000人、この砦から出たら瞬殺される。」
と言われた。
そのうち雪が降り始めた。援軍は来ない。私は見捨てられたのだろうか。父と母は何をしているのだろうか、悲しくなってくる。
最近はハルト義叔父さんも
「今日も援軍は来なかった」
としきりに嘆いている。
朝起きてみると雪が少し積もっていて、昨日まで見えた帝国兵の姿が見えない。
ハルト義叔父さんに聞くと
「帝国兵は軍を引いたようだ」
とのこと、
「終わった。帰れる」
そう思った。
その後、領都に戻ってきて父と母に聞くと
「公爵家の主力はあれから魔獣討伐に時間がかかったとのこと。
王宮にも援軍を依頼したが、公爵家の主力も参加しないのに、援軍は出せないと言われたとのこと。
そうしているうちに時間が経ってしまった」
と言われた。
なんとも情けない。
ハルト義叔父さんは怒っているようで、そのまますぐにネイメー伯爵領へ帰っていった。




