100. キニアニオ様の受難1
私はキニアニオ・トゥール、公爵家の嫡男である。年は6歳である。婚約者はいない。いずれは、このトゥール公爵家を継ぐ者として一同の期待を集めている。容姿は父と母のいいとこどり、金髪碧眼、文句なしの美男子である。
勉強や魔術、剣術についても家庭教師の先生が非常に優秀と太鼓判を押してくれている。父や母の話では
「領地経営も健全で、何年か前には疫病も流行ったが、近年は落ち着いて疫病が広がることもない」
そうである。
しかし、今年は魔獣の氾濫でいくつかの村が全滅した。討伐に出ていた父が大けがを負って公爵邸に戻ってきた。このままでは、さらに幾つの町や村が全滅するかわからないということで、母は母の義弟を呼び寄せた。
母の義弟は非常に優秀で功績により領地を賜って伯爵になっているという人物である。ハルト義叔父さんは、娘のクララを連れてきた。
美人かなと思ったら期待外れである。ハルト義叔父さんの容姿は優れているのに、この娘は平民ならそこそこだと思うが、貴族では難しいと思う。でも婚約者がいるという。侯爵家の嫡男とのこと、よくわからない。
ハルト義叔父さんとクララは、公爵邸に来て、魔獣の氾濫している場所を聞くと、すぐに出ていった。クララも一緒である。
6歳の私と同じ年の女子が魔獣討伐に行くという。それも父が大けがを負った魔獣を狩りに行くという。
「怖くないのか」と聞くと
「問題ない。魔獣狩りはいつもしている。オーガや地竜の1匹や2匹ぐらいいつでも倒せる」という、
信じられない。うそを言っていると思い母に聞くと
「クララちゃんは強いよ。昨年ネイメー伯爵家に行った時にうちの一番強い従士と模擬戦してもらったのだけど、クララちゃんの勝ち。あれから1年たっているのだもの。たぶんこの国でも有数の魔法士だと思うわ」
その夜、急に母が
「この公爵邸が襲われる」
と言って飛び込んできた。
そして、市内の従士を集め僕たち家族は全員、父の病室に集まった。そして、護衛の従士が何人も部屋に配置された。
「ハルト義叔父さんから連絡があった」とのこと。
考えすぎじゃないのかと思った。公爵邸が襲われるなんてありえない。公爵邸には何人も強い従士が警備についている。
夜半になり、うとうとしていた頃、屋敷の中で物が壊れたり、人が切りあったりする音が聞こえてきた。そしたら窓ガラスが割れて、剣を持った男が飛び込んできた。
そして護衛の従士と斬り合いになった。お母さまが男に魔法を放った。すると男の顔が燃えて、一瞬男がひるんだ。そのすきに別の従士が男に斬りかかり男は倒された。
体が震えている。怖くて動けない。そしたらお母さまが私をそっと抱いてくれた。
「大丈夫よ。キニアニオは私が守るから」
その言葉を聞いて私は体の震えが止まった。そのあと、しばらくして寝たようだ。
朝になって、公爵邸を見たらひどい状況だった。いたるところで物が壊れている。血痕も残っている。死んだ従士も多くいたそうだ。傷ついた従士は別室で手当てを受けているそうだ。
ハルト義叔父さんから連絡がなければ私たち家族は全員死んでいたと思う。
朝食を終えたころ、ハルト義叔父さんとクララが戻ってきた。ハルト義叔父さんは公爵邸の惨状を見てもあまり顔色を変えずに、重大な話があると言って、父と母と病室で話を始めた。
しばらくして私も公爵邸の一室に呼ばれた。そこで今後の方針を決めるそうだ。今公爵領に帝国軍1万から2万が侵攻しているそうだ。
公爵家の領軍は今魔獣討伐で遠くに行っているし、北の帝国軍に対応する軍などいない。どうやって公爵領を守るというのだ。
「逃げた方がいいのではないか」
そう思ってしまう。
しかし、ハルト義叔父さんはやる気のようだ。クララも平然としている。
「この親子、おかしいのじゃないか」
と思ってしまう。
今後の方針といっても慣れていない私や母それに家令はハルト義叔父さんの言うことに従うだけなのだけど、
「私も戦場に行く」
という言葉には驚いてしまう。
「でもそうしないと公爵家が滅ぶ」
と言われれば従うしかない。
私はヴァルターズ従士と1000人の騎士が戻ったら彼らと一緒にブセルターン砦に向かうことになった。
クララはそれまで私の護衛だそうだ。6歳の女の子に守ってもらう。そして一緒に戦場に行くという。クララに
「怖くないのか」
と聞くと
「戦場は初めてだけど。暗殺者はよく伯爵邸に来るから。暗殺者と斬り合ったことはある。男の暗殺者だと父さんが対応するのだけど、女の暗殺者だと、私が対応するの」
「どうして、女の暗殺者だとクララが対応するの」
「以前女の暗殺者が来たことがあるの。その時、父さんが服を1枚ずつ切っていって、裸にしたの。そしたらお母さんが、怒って。
その後、女の暗殺者はお母さんが対応したのだけど、お母さんは暗殺者を一瞬で挽肉にしたの。そしたら後で尋問出来なくて。
それで私がするようになったの」
これを聞いてあきれてしまう。彼女たちにすれば暗殺者が来るのは日常茶飯事ということである。うちの場合1度の襲撃でこのありさまである。
ハルト義叔父さんは砦を作ると言ってすぐに出発した。私は今クララと一緒にいる。戦場に行くということで、鍛えてもらおうと思った。
クララが魔法でゴーレムを作り出した。1度に10体。そして、それぞれが意志をもって別々に動いてくる。器用なものである、魔法は私も優秀だと思っていたが次元が違う。こんな事、私はまだできない。
疲れたので休憩することにした。メイドがお茶を淹れてくれた。
そしたら、クララがメイドの腕をつかんでいる。そして、土魔法で作った縄で全身を縛り上げ宙に浮かしている。そしてメイドに向かって
「このお茶、あなた飲みなさい」
どういうことだ、訳が分からない。
そしたらメイドが
「どうかご容赦を」
と言うとクララは
「大丈夫。私、治癒魔法が使えるから、死ぬまでには助けてあげる」
そしたら、人が集まってきた。
お母様が
「どうしたの、クララちゃん」
と聞くと、クララは
「このメイドがキニアニオ様と私の飲むお茶に毒を入れたの。それで拘束した。これから尋問するの。女の暗殺者の対応は私の仕事。お父さんがすると裸にするし、お母さんがすると挽肉にするから」
「でもクララちゃんはまだ子供だし、後は公爵家でするわ」
とお母様が言うと、クララはメイドを引き渡した。
その後、公爵家の鑑定のできる魔法士に調べてもらうと、お茶には毒が入っていたそうである。その後、メイドは公爵家で尋問されて、公爵家の従士に薬を渡されたことが分かったが、その従士には逃げられて、それ以上のことは分からなかった。
しかし、それを聞くとクララは市内に出て行った。そして1人の男を引きずってきた。問題のメイドに聞くと、この男に指示されたとのこと。
そして市内の商店にいたので、その商店の人間もすべて縛ってあるとのこと。クララの言う場所にいくと、商人が拘束されており、この商店は帝国とつながっていることが判明した。
恐るべきクララの能力、絶対に敵に回してはいけないと思った。
そうしているうちに、ヴァルターズ従士と1000人の騎士が戻ってきた。そして、今日クララと彼らと一緒にブセルターン砦に向かう。
私も馬の練習をしているが、クララに聞くとクララも馬に乗れるそうである。クララが先頭を行くというので付いて行くことになった。
領都を出ると、クララはスピードを上げた。そして時折、魔獣が見えると離れたところにいるにもかかわらず一瞬で倒してしまう。そして、倒れた魔獣が一瞬で消える。
クララに聞くと
「マジックバッグだ」
そうだが、本当だろうか。
ワイバーンが現れた時はどうしようかと思ったが、クララは冷静に空を見上げると魔法を放った。そしたらワイバーンが落ちてきて地上に落ちる前に消えた。
こんな調子なので魔獣が出てもクララはスピードを緩めない。
ヴァルターズ従士に聞くと、
「こんな魔法士は見たことがない」そうだ。
そして、次の日ブセルターン砦に着いた。




