第6話
「……増えすぎだろ。」
思わず、呟いた。
箱庭の中は、
もう最初の岩盤とは別物だった。
植物が広がり、
落ち葉が積もり、
土ができている。
「……一次遷移、ほぼ終わったな。」
裸地から始まって、
草本が広がり、
低木が入り、
林に近づく。
「早すぎるけどな。」
苦笑しながら、視線を落とす。
地表。
腐植の層のあたりで、
何かが動く。
「……虫か。」
分解者。
そう呼ぶべき連中が、
いつの間にか増えている。
落ち葉をかじり、
土を崩し、
有機物を細かくしていく。
「ちゃんと分解系も回ってるのか……」
小さく呟く。
そのとき。
ばさっ。
影が落ちた。
鳥が、
地面の虫をくわえて飛び上がる。
「……捕食か。」
一次消費者を、
二次消費者が食う。
当たり前の関係。
だが、
それが“動いている”のは、
妙に現実感があった。
「……完全に食物連鎖できてるな。」
さらに視線を動かす。
草を食む小さな影。
「……ウサギ?」
いつの間にか現れて、
ススキをかじっている。
「生産者がいて、消費者がいて……」
その上空には、
より大型の鳥類が旋回していた。
「でかいやつのも来たな。」
思わず笑う。
「二次、三次も揃ってるってわけか。ピラミッド、もうできてるじゃねぇか。」
個体数のバランス。
エネルギーの流れ。
頭の中で、
勝手に図が組み上がる。
「下が広くて、上が細い……」
「典型的な栄養段階構造だな。」
だが、
異常なのは速度だ。
「……普通、こんな一気にいかねぇぞ。」
遷移には時間がかかる。
本来なら、何年、何十年、何百年。
それが、
数分で進んでいる。
「……まぁ、ゲームだからな。」
無理やり納得して、
椅子に体を預ける。
そのときだった。
ゴロ……。
「……ん?」
空が、暗くなる。
箱庭の上に、
積乱雲のような影が広がっていた。
「おいおい……」
ドンッ。
雷鳴。
直後、
叩きつけるような雨。
「気象イベントかよ……」
風が吹き荒れる。
木が、大きく揺れる。
バキッ。
「……折れた。」
高木が、倒れる。
さらに、
周囲の木を巻き込みながら崩れる。
その直後。
一瞬、光が走った。
ドンッ、と遅れて音が来る。
「……落ちたのか。」
視線の先で、
枝の一部が赤く染まっていた。
小さな炎が、揺れている。
「……マジかよ。」
だが、
激しい雨がすぐにそれを叩き潰す。
「連鎖的にいくのか……」
やがて、雨が落ち着き火災がが消えると。
ところどころぽっかりと木々が空いた空間ができた。
光が差し込む。
「……ギャップ、か。」
林冠が欠けた場所。
「……こういうの、あったな。」
倒木や火災でできた空間。
そこから、
また遷移が進む。
しばらく見ていると、
変化が始まる。
光の当たる地面に、
草本が一気に伸びる。
「……二次遷移か。」
完全な裸地じゃない。
土壌も、
種子も、
微生物も残っている。
だから早い。
「リセットじゃなくて続き、だな。」
さっきよりも速く、
植生が変わっていく。
「……よくできてる。」
食うもの。
食われるもの。
分解するもの。
そして、
また生えるもの。
「……完全に系が回ってるな。」
小さく呟く。
そのとき。
ピシッ。
「……またか。」
倒れた木の根元で、
何かが走る。
一瞬だけ、
あの文字が浮かぶ。
「……」
甲虫の形。
その横の記号。
「……ケペル……?」
なぜか、
そんな音が浮かぶ。
だが、
意味は分からない。
「……まぁいい。」
小さく息を吐く。
「面白いしな。」
画面の中では、
また新しい命が動き始めていた。




