後編
呆れるようなクリミナの視線は無視して、マリアーナを椅子に座らせる。
ただ抜け出すだけでは、すぐにまた呼ばれてしまう。
もちろん、教会の人には「妹とお茶してくる」と伝えているが、念には念を。というやつだ。
「どうせなら、前の店に連れて行ってやればいいのに、わざわざこんな辛気臭い場所に連れてくるなんてな」
辛気臭いって自分で言うのか。
とはいえ、クリミナの言葉にも一理ある。正直なところ、下手な店に連れて行って、嘘がバレる方が怖かったというのはある。
生まれてからずっと一緒にいる妹を騙すというのは、相当緊張感があるのだ。
でも、ここでマリアーナを無視する方が、イザベラとしてありえない。
「いいじゃない。店にまで呼び出しが来たらいやでしょう?」
「アイツに見張りをさせればいい」
「シエルだって、いつも暇じゃないわよ……」
「呼べば来るけどな」
「そ、それはクリミナさんだからな気がしますが……」
マリアーナの言葉に、ついいつものように頷きそうになるが、堪えて、悪戯に笑みを浮かべて「ねー」とマリアーナと共に頷く。
「クリミナさんの研究のお邪魔してはいけませんし、私は教会に戻――」
この魔女のぶっきらぼうな態度のせいで、マリアーナが困ったように帰ろうと扉に手をかけるが、扉の先の空間に、慌てたように扉を閉めた。
「ぇ……? って、ク、クリミナぁ? またあなたは変なことを……!!」
一瞬巣が出そうになってしまったが、何とか取り繕えば、マリアーナも青い顔でクリミナの事を見ていた。
「人の部屋に訪ねてきて、茶のひとつも淹れないからだろ」
「普通、逆じゃないかしら?」
「い、いえ! お茶ですね。お淹れしますよ。姉さまも座っていてください」
止めようとするドッペルを制して、マリアーナは慣れた様子で、棚に茶葉を取りに行っては、ポットにお湯を注いでいた。
慣れてる……?
ドッペルが疑問に思うが、イザベラに悪友と称されていたクリミナの部屋なのだから、マリアーナもよく来たことがあるのかもしれない。
何故、茶葉の場所などに慣れているのかは、見覚えがあるから。ということにしておこう。
下手に口に出してボロが出てもまずい。
「姉さまが旅に出てから、クリミナさんは気に掛けてくれたんですよ。だから、姉さまほどではないですけど、この部屋に来てたんですよ」
マリアーナを見ていたことに気がつかれてしまったのか、少し自慢気に答えられては、何とも曖昧な笑いしか返せなかった。
「それはいいことだけど、クリミナに毒されてるみたいで、心配ね」
「言うじゃないか」
鼻で笑うクリミナに、つい目が細くなりそうだが、楽し気に笑うマリアーナに、毒気が抜かれてしまう。
この反応からして、以前からクリミナとイザベラの関係は、このような形だったのだろう。
「任せてください! シエルさんに、クリミナさんの好みのお茶とお茶菓子、姉さまが置いていた茶葉とお茶菓子の場所は聞いています!」
「我が妹ながら、一生懸命で心配になるわね……」
特に聞いてはいなかったが、イザベラもイザベラで、この部屋をだいぶ自由に使っていたようだ。




