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3年間、聖女を偽ることになりました。ドッペルゲンガーです。  作者: 廿楽 亜久
第12話 奇跡の取り扱い

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前編


「ところで、さっきの話だが」

「この流れで、聖杯を盗んできてることについて、何のコメントもなしか」


 あのフラスコの底に沈んでいるのは、十中八九、ドッペルの奇跡が付与された聖杯となったグラスだ。


 だから、先程、クリミナは『奇跡の実験』だと口にしたのだ。

 確かに、フラスコの中に入っているのが、グラスであるなら、奇跡の実験に違いない。


「救済の聖女を偽ってる時点で、聖杯の窃盗なんて些事だろ。そもそも、最初に拾ったのが私なら、本来の所有者は私だ」


 実際、救済の聖女の偽って、偽聖女なんてしてる時点で、聖杯の窃盗どころの話ではない。

 それに、残り一回になってしまった奇跡を誤魔化す為にも、奇跡の研究が必要なことではあることに違いはない。


 ただ、この魔女のヘリクツばかりの言葉のせいで、どうに擁護しにくい。

 というか、したくなくなる。


「拾ったのはシエルだろ。お前じゃない」


 自分でも、些細な抵抗だとは思うが、ヘリクツを返してやれば、シエルの耳がツンと立ち上がる。


「む? 問題ない! 私の持ちえる全てのものは、魂も含め、全て灰被りの君に捧げている! 故に、聖杯は灰被りの君の物に違いない!!」


 やたらとテンション高く、クリミナをたたえるシエルに、ドッペルも慣れてきたとはいえ、呆れる他ない。


 こいつのクリミナに対する溺愛っぷりは、本当に何なんだ。

 確かに、頭は良いし、機転も効くが、それでも余りあるほどの性格の悪さじゃないか。


「……それ、聖騎士的にはいいのか」

「…………それを言われると、正直、少し困る」


 ケットシーにしては珍しく、このセント・バルシャナ聖国で、信仰に厚い聖騎士であるシエルは、ドッペルの言葉に、少しだけ眉を下げた。

 だが、すぐに真剣な表情になると、言葉を続ける。


「聖杯の存在は、教会にとって重要なものだ。それに、水を浄化する聖杯は、未だ、瘴気に喘ぐ多く者たちを救う。本来であれば、個が管理するべきものではない」


 その聖騎士としての真面目な意見に、少し鬱憤を晴らしていたドッペルも言葉に詰まる。


 世界が救済されたとはいえ、瘴気は、未だに各地に残っており、生きている生物たちを苦しめている。

 現在、教会や聖国騎士団などを中心に、救援を進めているが、全員を救えるわけではない。


 かつて、イザベラが飲み水すらなかった村を救ったように、このグラスによって救われる命は、決して少なくないはずだ。

 シエルの言う通り、個人が管理するのではなく、組織として運用するべき代物だ。


「しかし、私は、神や精霊、聖女より、灰被りの君に全てを捧げている!」


 この一言だけが、本当に、全く理解できない。


「安心したまえ。今回ばかりは、灰被りの君に預けるのが得策だと思ったのも、また事実だ」


 ドッペルが呆れていれば、またすぐに、真面目な表情で言葉を続けるシエルに、ドッペルも頭痛が痛くなるような気がした。


 残念なことに、ドッペルも、それはなんとなく理解できるのだ。

 教会に、このグラスを預けたところで、おそらく教会の奥に大切に保管されるだけだ。


 この魔女の、敬意も何もない貸し出しの頼みでなくても、何かしらの理由をつけて、外に持ち出されることない。

 教会は、あの救いを、幸福を分け与えることはしない。


「だいたい、教会が許可を出せば、返却する意思があった」


 いけしゃあしゃあ何か言っているクリミナに、ドッペルもさすがに確信できる。


「絶対、やっぱやーめたっていうやつだろ」

「…………」


 小さく嗤うクリミナに、やっぱりと呆れるドッペルと、引きつった表情で、そっと目を逸らしたシエルだった。

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