魔女、研究をする
私は魔女だ。
普段は私に来る依頼をこなしながら生計を立てており、時間があるときはとあることをやっている。
いつものように元気に朝を起き、時計に視線を送る。
ふむ、昼の十二時か。
ちょっと寝すぎたかもな。
そんなことを考えながら洗面所で顔を洗い、ダイニングでジャムをたっぷりと塗ったパンを食べる。
日によってはこの後、自分に来た依頼をこなすために外出をするのだが、今日は外出しない。
私はダイニングの椅子から立ち上がると、軽く着替えなどの準備を済ませて別の部屋に移動した。
目的の部屋の扉を開ける。
床には本やら紙やらが散らばっているが、その合間をぬうようにして部屋の中に入っていき、中央に置かれている椅子に腰掛け、机の上をあさり始める。
ミアは一冊の本を手に取り、パラパラとページをめくっていくと、本には魔法に関する記述がたくさん載っていた。
「ふっ、ふふふっ」
おっといけない。
興奮しすぎて変な声が出てしまった。
落ち着かなければ。
机に散らばっている資料から必要なものを集めていく。
勘のいい人はもしかしたら私が何をやるか気づいたかもしれない。
そう、これから魔法の研究をするのだ。
魔法はとても歴史が深く、まだ謎が多く残っており、様々な場所で研究が行われている。
とある国には魔法学園と呼ばれる研究機関兼魔法使い育成所があるくらいだ。
かくいう私もその魔法の魅力に取り憑かれた一人という訳だが。
「ふむ」
スチャッと机に置かれていたメガネをかけて本を読み始める。
ちなみに別に目が悪い訳では無いが、なんかテンションが上がるのでメガネをかけている。
しばらく本を読んだあと、ミアは頭を抱えた。
「うーん、どういうこと?」
この本には精神がどうしただの、よく分からない記述がよくある。
多分、人によって魔法の解釈が異なるからだろう。
決して私が馬鹿なわけではない。
むしろ私は天才なのだ。
こんな訳の分からん書き方をした著者が悪い。
「ふう、」
疲れたな。
なにか違うことをやろう。
そう思い、別の本をパラパラと見始める。
「今日はこれにしようかな」
そう言い、今眺めている本を手に持って部屋を出る。
向かう先は家の庭だ。
なぜかって?
そりゃ当然、魔法の実験をするためさ。
庭に出る前に魔法の杖も忘れずに持っていく。
家の庭にたどり着き、せっせと準備を始める。
普段は魔法で地面の土を盛り上げて簡単な的を作るのだが、今日は必要ない。
代わりに今日使うのは木材だ。
「風よ、運べ」
魔法で事前に用意していた木材を庭の中央まで運ぶ。
これで準備完了だ。
今日は自動人形の実験だ。
これが成功すれば、面倒な家事を全てこいつに任せることができる。
「木材よ、形作れ」
杖をかざしてそう唱えると、木材が変形して人の形に変化していく。
ここまでは大丈夫で、問題はここからだ。
この人の形をした木材を、私の指示通りに動く人形にする必要がある。
最初に試すことは決まっている。
「意志の宿らぬ魂よ、我の呼びかけに答えよ」
杖をかざしながら言う。
「その体に魂を宿し、今一度顕現せよ」
次第にかざした杖が淡い光で包まれていく。
「我が名は魔女、ミア・クルス!」
杖を包む光は最高潮まで明るくなり、次第に光は消えていった。
……何も起こらない。
「やっぱり、か」
失敗だ。
本に書いてあるとおりに詠唱を行ったが、駄目なようだ。
単純に私が言葉の意味を正確に理解していないからかもしれない。
いや、私が馬鹿ってことではないからな?
だって、意志の宿らぬ魂とか、意味分かんないじゃん。
そもそも魂なんてあるのって話だし。
「人形よ、動け!!」
そう言って杖をぶんぶん振り回す。
魔法はイメージが大事だから!
詠唱なんて関係ないから!!
「動けっ、動けっ、動けぇ~~!!!!」
「おやおや、魔女さん。今日も精が出るのぉ~」
ミアは突然の声に驚きながら声の発生源に視線を向けると、庭の外の道路にいる男の老人が見えた。
その老人は満面の笑みで懸命に頑張るミアを見つめていた。
「あ……は……はい……」
恥ずかしい。
絶対馬鹿なやつだって思われた。
恥ずかしすぎて死にたい。
「ぜひそのまま頑張っておくれ」
「ありがとう……ございます……」
絶対暇で散歩してたじいさんだ。
この時間帯はたいてい仕事とかで人通りは少ないのに。
油断した。
「じゃあのぉ~」
そのままおじいさんはどこかへと歩いていった。
……もう今日は終わりにしようかな。
ふとミアは視線を人形に送ると、その人形に違和感を覚える。
あれ?
この人形ってこんな姿勢をとってたっけ?
なんか右腕が上がっているような……
やっぱりもうちょっと続けようかな。
その後もミアは実験を続けた。
ちなみに、その実験の間に老人が二人ほどニコニコしながら声をかけてきた。
ミアはとても恥ずかしかったが、これも魔法のためだと思って頑張り続けた。
結局、人形が動くことはなかった。




