33 帰蝶様は石鹸がお好き
「ほほほほっ」
帰蝶は笑いが止まらなかった
肌が玉のように輝いていたのだから当然である
女としてこれほどの愉悦があろうか
いやあるまい
それゆえ上機嫌であった
事の起こりは信長が石鹸を作ったことであった
ないやら内緒でコソコソやっているようだ
美濃から連れてきた配下の小者が噂を主に教えた
すぐさま帰蝶は動いた
そして判明したわけである
調べたのには訳がある
自分の好奇心からではない
父親である『美濃のマムシ』から尾張の動向を調べるように言われていた
格下で大うつけと名高い信長との婚姻にこんな裏があった
もう一つ裏があり、それは婚姻による尾張の間接支配である
もちろん信長も承知である
いや知った上で逆に利用していた
・・・どっちもどっちだと帰蝶は思った
まあそんな訳で政略の駒として尾張の大うつけに嫁がされた帰蝶であったが、普通の姫のように大人しくはなかった
『美濃のマムシ』と呼ばれた男の血は伊達ではないのである
現代なら大臣か都知事にでもなっていたことだろう
いや初の女総理大臣かもしれない
そんな帰蝶であるから信長が石鹸を作っていると知るとかつあげ、もとい強奪した
そしてまず下働きに試させた訳である
戦国時代、洗うとなれば水に浸して足で踏むが主流である
まあ上流階級になると灰汁やら米のとぎ汁や木の実を使うようになる
この時代、カレーもソースもないので汚れはそんなに酷くないのでこれで十分なのである
もっとも皮脂やら泥汚れを落とすだけでも、すべて人力なので重労働なのであるが
ところが石鹸を使うと簡単に汚れが落ちた
そりゃそうである
化学の力なのだ
落ちない訳が無い
驚いた帰蝶はすぐさま父親に知らせた
実用から贈答まで使える戦略物資になり得るのだから当然である
帰蝶の視る目は正しかった
さあどうしようか?
製法を探って美濃でも作させようか?
それとも作るのは尾張に任せて売る方に専念するか?
迷っている帰蝶にさらなる情報がもたらされた
身体を洗うのにも使えますよ
帰蝶はすぐさま飛び付いた
身体を清潔にするという習慣ができるのは徳川幕府ができた後である
戦が無くなり平和になった後、きれい好きな家康が広めたとされる
時代劇で風呂屋のシーンがあるのは江戸時代以降の場面であることを思えば判り易いだろう
一番有名なのは某時代劇の『美人くの一の入浴シーン』である
つまり戦国時代は結構汚れていた訳である
まあ毎日お風呂に入るなんてことはない
せいぜいが布で身体を拭くだけ
その程度の清潔さ
この世界の人間が全員がホームレスだと言えば判り易いだろう
そこにタライにお湯を入れ石鹸で身体を洗うことを提案した人間がいる
もちろん熊である
熊なのに人間とは面白い、とは帰蝶の談である
もっとも目が笑っていなかった
「美濃の父に仕えないか?」
としっかり勧誘していた
・・・男だったら確実に天下を獲っていたかもしれない
話を戻そう
風邪を引いた時、身体を拭くとサッパリする
だが完治した後風呂に入ると垢が凄いことになっている
それと同じことが帰蝶に起こった
「こんなに汚れていたのか!?」
と帰蝶は驚いた
そして熊を誰にも渡さないと思った
まあ信長の手下なのだ
手放す手放さないの問題ではないのだが




