27 信長様の高笑い
「わははははっ」
信長は上機嫌だった
千歯こきの売上がとんでもないことになっていた
早い話ぼろ儲けしたのだ
笑いが止まらないとはこのことだと信長は思った
話を少し戻す
所得倍増のために何をすれば良いのか判らなかった信長は熊に相談した
そうしたら熊は千歯こきなるものを提案した
実際に熊が作った竹製の千歯こきを使ってみた信長
面白いように脱穀できたので手が止まらなかった
・・・この時代、娯楽が少ないから当然のことであった
なにせ籾のついた稲わらをクイッと手前に引くだけでバラバラバラと籾が落ちるのだ
いままで地面に打ちつけて脱穀していた苦労はなんだったんだと言いたいくらいなのだ
楽しくて止まらないのは当然であった
熊はソレを見てあきれ顔をしていた
だが信長は見ない振りをした
さすがに自分でも子供っぽいと思ったからである
まあそれでも手を止めなかったのだから恥ずかしくて熊の方を見れないのも当然であった
でも新しモノ好きの信長としてはここでやらないという選択肢は無かった
・・・史実でも南蛮人のもってきたモノを喜んでいたのだから当然である
熊の作った竹製の千歯こきは耐久度が低かった
そのため実際に村々で使うには鉄で歯を作る必要があった
そこで織田家に出入りしている桔梗屋に作らせることにした
正確には桔梗屋が知り合いの鍛冶屋に作らせた、である
ちなみに熊の助言があったからである
武士は商売が下手
だから桔梗屋に任せるべき
熊は強く主張した
トドメの言葉は
天下を取りたかったら言うことを聞け
であった
なぜだか信長の心を打ったので素直に従ったということは信長だけしか知らない事実である
信長は仕事を丸投げする完全なブラック領主である
ここまではこの時代の領主と同じであった
だが信長は人の意見を聞くという意外な一面があった
だから熊も付き合っているのである
熊曰く
下のモンの愚痴を聞けないヤツはただの無能
もしも信長が人の言うことを聞かなかったら?
と熊が問われたなら
戦国時代に似合わず革新的な考えの信長であっも付き合っていなかった
と答えたであろう
実際に鉄製の千歯こきを信長の直轄領で貸し出した所、評判は上々であった
そしてその噂は近隣の村々に広まった
それはそうである
千歯こきは農作業の革命児
いや異端者の方が正しいのかもしれない
ソレくらい異質な存在なのだ
流行らないわけがないのである
そして他の人間が楽できているとなると自分も楽をしたくなるのが人情である
「織田の殿さまの村では楽できるそうじゃが、なぜうちの村はそうでないんだか?」
元信勝側の家臣達は意外?なことに領民からの突き上げをくらった
家臣達は戦いのことさえ考えていれば良い
だが家に残されている妻や子供、使用人は常に村人たちと接しているのだ
そのため村人からの懇願をはねのけることは難しかった
それゆえ家臣達は自宅に帰ると家族から
「千歯こきを手に入れてください(意訳)」
と四六時中文句を言われることとなった
休むための家でも休まらない
そうするとたまったものではない
自らの平穏のため家臣達は信長に頭を下げてお願いすることとなった
・・・外では威張っていても家の中での階級が低いというのはいつの時代でも良くあるのである
ちなみに信長は上機嫌だったようであるが家臣達は
信長に頭を下げる屈辱
そして信長から会うたびにどや顔され続ける日々
に心中は複雑だった
おまけに道を歩いていると千歯こきを使った農民から
「ありがとうございます」
と感謝されるのだ
そのたびに
「家の中で一番地位が低いから買いました」
とは言えないためどんな顔をしていいのか判らない家臣達であった
まあそんなこともあり売り出した千歯こきは大盛況だった
当然のことながら織田領内での成功を受けて桔梗屋は販路を広げた
今川や斎藤、松平、である
敵に売っていいのか?
桔梗屋は信長に売るように命令された時確認した
「うむ、問題ない」
信長は自信満々で答えた
「そのために桔梗屋に売らせているのだからな」
桔梗屋は全く意味が判らなかったが信長に言われるまま売りまくった
商人は儲けが一番だからである
・・・桔梗屋が本当の意味を知るのはもう少し後のこと
そしてその異質さに恐怖した




