26 熊の家族
「これは凄いな!」
権六が楽しそうに千歯こきを使っている
それを父である権佐とその息子の権一、権二はどういう顔をしていいのか判らなかった
自分達が捨て、そして同時に捨てられた権三が作ったものだからだ
権三は昔から変わっていた
畑仕事を嫌がらない
それどころか進んで草取りをする始末
それだけなら孝行息子で済んでいただろう
二歳の子供でなければ、である
二歳になると言葉を話せるようになったころである
また一人で歩けるようになった頃でもある
目を話すと川に落ちるかもしれないと親が四六時中目を離せない時期である
それなのに自分から
「いい?」
と片言で聞いてくるのだ
一番最初は微笑ましかった
二度目は天才だと夫婦そろって喜んだ
三度目になると慣れた
10回を過ぎると流石に気が付いた
おかしい
2歳の子供なので朝から身体を動かせば当然昼くらいには身体が限界になる
当然コックリしてくる訳だ
「ちょっと休ませて」
自己申告してきた
・・・もはやどこに突っ込めばよいのか判らない
大きくなると織田信長様の手下になって一緒に無法者を殴り倒していた
・・・何を言えば良いのやら
我が子ながら出来すぎだ
トンビがタカを産んだ
そう言われても納得だ
まあわたしたちは家族だからまだガマンできた
ガマンできなかったのは他の村人だ
異質なものをはじき出すのが普通だからだ
表立っては言わずに陰でコソコソイヤミを言った
なにせ権三には信長様がバックについているのだ
下手するとバッサリ切られるからだ
そのおかげで権三は村を棄てた
村人たちは喜んだ
ところが権三が千歯こきを作って殿さまが売り出して儲けていると知ると手のひらを返した
なんで追い出したんだ
自分達で追い出しておきながら責任を人に擦り付けにきた
そして我が家に千歯こきが権三から送られてきたとすると
「使わせろ!」
と押し掛けてきた
「良い息子を持ったな」
とはどの口が言うのかと言いたい
千歯こきを使う前の脱穀は
刈り取った稲を天日で乾かした後、ゴザの上で叩きつける
だった
そしてとりきれない籾を手で獲っていた
以外に人手がかかるため村の未亡人のいいアルバイトであった
ところが千歯こきで脱穀が簡単にできると未亡人の仕事が減った
夫が戦争や病で亡くなると田んぼの収穫がガクッと減る
その分を他の家の手伝いをして得ていたのが無くなるとどうなるか?
生活が厳しくなるのだ
シングルマザーが大変なのはどこでも同じである
ましては戦国時代は子供の5人や6人は当り前
悲惨の一文字であった
そのせいで千歯こきを作った権三に非難が集まった
見事な手のひら返し返しであった
大うつけども!
権三の家族が村人を罵るのも当然であった