第八話 ~小さな事件~
ジルは、周囲の音によって目が覚めた。ここ数日はずっと、朝日と鳥の声によって起こされていたが、今日は違う。
朝早くから商売や買い物に精を出す人々の喧騒によって、彼は夢の世界から引きずり出されたのだった。
寝ころんだ姿勢から、柔らかく反発をしてくれるベッドに腰をかける形で座りなおす。ふと、隣で眠る幼馴染が視界に入った。
野宿をする時はそこまで派手に動かないのだが、文化的な寝具を使うと、彼女はいつもとんでもない寝相になる。身体にかけていたであろうシーツは床に落ちているし、枕は何故か、ジルのベッドを挟んだ向かいの壁にある。寝ながら投げたのだろうか。仕立ての良いネグリジェも、あやうく隠すべき場所を露わにしてしまいそうなほど、はだけていた。
そんな平和な彼女の姿を見て、ジルは笑みがこぼれる。しかし、それはとある違和感によって一瞬にして消え去ってしまった。
「……?」
距離としては、すぐ傍に居る。けれど、それだけでは正確ではない。ジルは、ベッドから立ち上がってジャンヌの下へ歩き出した。
「ん……あれ……ジル……? おはよー……どうしたの?」
寝起きが悪い彼女だが、気配に対してはそれなりに敏感である。積んだ野宿スキルによって、何者かが近づいてきた場合、覚醒をしやすい体質になったのだ。だが、元来の寝覚めの悪いスキルの方が熟練度は上なので、高い確率で発動しないのである。今回は、低い確率が当選してくれたようだ。
「ジャンヌ……」
「んー……んんっ? ちょ、ちょっと!?」
驚くのも無理はなかった。ジルは突然、ジャンヌの頬を優しく触るとそのまま顔を近づけてきたからだ。真剣な眼差しで、じぃっとジャンヌの蒼い瞳を捉えて離さない。
「や……! な、なな何……を……」
真っ赤になり、目も口もギュッと瞑って、ジルの行動になすがままにされるジャンヌ。
寝起きでもなんでも、こういった不意打ちをされては勇者であっても抵抗は出来ない。
「……やっぱり!」
「へ?」
何が来るのかと思いきや、ジルはバッと顔をあげた。接触するほどではないが、かなり近い距離のまま、ジルは見下ろしつつ言う。
「魔術の使用痕跡がある……」
「え?」
言うや否や、ジルは周りを見渡した。脱ぎ散らかしたジャンヌの服もある。聖印に戻していないデュランダルもある。彼ら二人の、旅行用の荷物もしっかりある。
「……な、何? どうしたの?」
顔の紅潮も、鼓動の速さも落ち着かないままジャンヌは問う。一体、何があったのだ?
「……使ったのは多分……反射影光かな。それぐらいしか、考えられないもの」
「ジル!」
「あ、ごめん。何だい、ジャンヌ……って、ん? 顔赤いけど大丈夫?」
「な……! あ、あんた!」
「そういえば、やけに熱かったけど、風邪でも引いた? ダメだよ、ちゃんと汗は拭いてから寝ないと。シーツも枕も投げっぱなしだったし」
「もう……知らない!」
「?」
ぷいっとそっぽを向いて、期待を裏切られたことに腹を立てる。でも、やっぱり気になるので、ジャンヌは質問をした。
「……で、どうしたのよ?」
「あぁ、うん」
ジルは、今起こっている状態を整理して、ジャンヌに伝えることにした。何をそんなに焦っているのだろうか。
「キミの身体に、反射影光が使われた痕跡があるんだ」
「それってあの、相手の姿を真似する魔術のこと?」
「そう。姿だけではなく、身長体重、骨格や声質、着ていた衣服まで完璧にトレースする魔術だよ。それが、キミに使われている可能性があるんだよ。完璧に魔力を感じ取れてるわけじゃないから、絶対とは言えないけど……間違いないと思う」
「ええ!? ど、どうして!?」
「どうしても何も……鍵もかけずに寝ればそうなるよ」
ジルは呆れ顔で、部屋の入り口を見た。ドアは半開きになっていて、誰でもどうぞと言わんばかりに光が漏れている。
こんな状態で、セキュリティも何もあったものではない。誰でも自由に出入り出来てしまうのだ。
「ごめんなさい……」
「いや、勝手に寝ちゃった僕も悪いし。それよりも、不可解なのことがあって……」
「何?」
「部屋に入ったにも関わらず、一切盗みが行われていないんだ。キミの荷物も、特に何かがなくなった形跡もない」
「そう……なの。じゃあ、何がしたかったのかしら……?」
首をかしげるジャンヌに、ジルは考え込むように腕を組んだまま答える。
「多分……目的は、荷物じゃない。ジャンヌ自身だ」
「あたし?」
「何をするかまではわからないけど、キミの姿を投影して、何かしでかすつもりなのは、間違いないよ」
「ええ!? ど、どうすんのよ!?」
「捕まえるしかないよ。パワードさんにも、手伝ってもらおう」
「あたしも手伝う! というか、やらせて! 何か腹立たしいもの!」
ジャンヌは眉をつり上げて怒った。寝ている隙に、勝手なことをされては当然の反応であろう。
本当は、ジルとしてはこの場所に居てくれた方が捕まえやすいのだが……言い出したら、聞かない性格なのは知っている。
やれやれ、と言わんばかりにジルは優しく笑う。そして行動に移った。
日は既に登って久しい。疲労のせいか、いつもより長く眠ってしまったようだ。
街はいつもみたいに賑やかで、店を出している人は、こぞって自らの商品を売ろうと声をあげている。
「ジャンヌはこっち、僕はこっち。良いね?」
「ええ、わかった」
ジルは、決して二人が鉢合わせしないような道を決めて、ジャンヌと別れた。
こうしておけば、街中でジルがジャンヌを見つけた場合、それは間違いなく偽物だから。
パワードには、ジャンヌが戻ってきた場合、まず疑ってかかるように言っておいた。不意に戻ってくる可能性もあるので、注意して欲しい、とも。
中身の詰まった大樽をも軽々持ち上げられる、筋肉隆々な腕を見せながらパワードは快諾してくれた。
「あら、ジル様。こんにちは。良い天気ですね」
「こんにちは。ええ、とっても。……あの、少しお聞きしたいことがあるんですがよろしいですか?」
「はい、何なりと。いかがいたしましたか?」
商店街の青果屋を務める中年女性の前で、ジルは足を止める。そして、今起こっている状況を話した。
すると、驚いた顔した女性は罰が悪そうに言う。まだ、質問をする前だというのに。
「実は、先ほど袋一杯に詰めたリンゴを渡してしまったのです……」
「そうなんですか……。あの、それはジャンヌ……を装った人から要求されたんですか?」
「いえ、その……恥ずかしながら、ジャンヌ様にお会い出来たのが嬉しくて……その……」
「好意で、ということですね」
「はい、そうです」
「ご好意には感謝します。ジャンヌに代わってお礼を言わせてください」
ジルは深々と頭を下げた。伝説の魔術師に、そんなことをされてはただの一商人の女性は慌てないわけがない。
それでも、ジルだって今は大層な肩書があるけれど、一般市民の出だ。何を気にすることがあるのだ。
「もし、再びこの通りを見かけたら間違いなく偽物です。絶対に捕まえてください」
「わかりました」
女性にそう伝えるとジルは再び歩き出す。その後に得た情報も似たようなものであった。
青果店の他に、魚市にも、武器屋や防具屋にも足を運んだ。
見かけた、見かけていないの違いはあっても、やっていることは同じだった。
声をかけられ、適当に雑談をする。人の良いこの街の方々は、好意で様々な品物をプレゼントしてくれるので、それをいただく。それだけだった。
(脅迫まがいのことはなし……か。なるほどね、大体わかってきたよ)
一通りの街路を歩き終え、ジルは広場へ到着した。フリスタに張り巡らされている道は、全てここを集約する。よって、旅人商人住人あらゆる人が歩いていて非常に賑やかであった。
大きな円形の噴水が中央にあり、その四方には水瓶を持つ女神像が設置されていて、絶えず水を流し続けている。映写魔術の効果で、常にその小さな水流の傍には虹が出ていた。
少し疲れた、と噴水の桟に腰をかけて休憩をするジル。ジャンヌは、今どこにいるのだろう。歩き続ければ、ここで出会うのだろうけれども。
ふと、雑踏の中を歩く女性を見つけた。肩まで伸びている金髪を、後ろで結んだ青い瞳の人。庶民の中に混じっても、仕立ての良さが溢れだしている丈の短い改造ドレス。ヒールが低く動きやすい皮のロングブーツも履いている。
そう、その出で立ちは、間違いなく勇者ジャンヌ・ド・アークだった。
なんだ、ジャンヌも着いたんだ。
そう思い、ジルは情報の共有をするために立ち上がり、人込みをかき分けて歩いていく。
「ジャンヌ」
「あら、ジルじゃない」
ジルの声に反応し、髪をきらきらと反射させながら振り返るジャンヌ。巻き込んだ風と共に、野宿を重ねても衰えない香りがジルの鼻に入ってきた。
女性にしては少し低いが、とても澄んだ声でジャンヌは返事をする。
その何気ない、いつも通りの彼女を見て、ジルはある行動を取った。
反射にすら思える速さで、ジャンヌの手首を掴んだのだ。
「? いきなり、どうしたのよ?」
不可解な行動に疑問符を出すジャンヌ。
ジャンヌから、こういう強引な行動に出ることはあっても、ジルからするのは滅多にないことであった。
「見つけたよ。偽物さん」
「? な、何言ってるのよ? 偽物って……あたしが? ふざけないでよ。偽物を探してるのはあたしも一緒でしょ? 何でよ?」
「うん。話は後で聞くよ、一旦酒場まで来てもらおうか」
「ちょ、ちょっと!」
有無を言わさずジルは、ぐいぐいと偽物と断言したジャンヌの手を引いて、流れる人の波の中を歩いて行った。
ジャンヌが、偽物を捜索している事実も知っている。姿も会話も、大きく齟齬はない。それでも、ジルは間違いないと断言していた。
「パワードさん、ただいま」
「おぉ、ジル坊か! おかえり! そして、お疲れ様だ。もう出歩かなくていいぞ!」
酒場の扉を開けて、勢いよく入ってきた二人を歓迎するパワード。肌の色と相反して、真っ白な歯を見せながら、嬉しそうに笑っている。一体、どうしたのか。
「ほれ、嬢ちゃんの偽物を見つけたんだよ。間抜けなことに、うちの酒場に寄ってきやがったんだ。飛んで火に入る夏の虫とはこのことだな! ハッハッハッ!」
太い両腕を組んで、大きく笑うパワードの隣には、後ろでを縄で結ばれた女性が座って居た。
今、ジルが引き連れてきた人と姿も服もまったく同じ。間違いなくジャンヌ、そのものである。
「……何してるの?」
自分の中で真偽の確証があるジルは、縄で捕まってしまっている方のジャンヌに呆れたような表情で質問をした。
「うるさい。どこ言っても『あら、ジャンヌちゃん。さっきも通らなかった?』 って言われるから、嫌気がさして一旦戻ってきたのよ。自分が自分じゃないのって、気分悪いわ」
「……それで、パワードさんに勘違いされてしまった、と」
「良くしてくれた人たちに、下手なこと出来ないでしょ? だから、あんたを待ってたの! 助けてよ、ジル! パワードさん、聞く耳もたないんだもの!」
頬を紅くし、涙目になりながら懇願するジャンヌ。ジルは、既にこの目の前で捕まっている女性こそが本物であると理解していた。
「縄くらい、自分で解きなよ。君なら出来るでしょ」
「何言ってるのよ。こんなガッチガチに縛られちゃ、無理に決まって……」
そう言いかけて、ジャンヌは何かに気づく。ジルはその表情の変化を読み取り、小さく笑って言った。
「本人確認のついでだよ。呼んでみたら? 出しっぱなしだったじゃないか」
「……そうね。じゃ、パワードさん。ちょっとぐらいの乱暴、許してよね?」
「あん? なんだ、いきなり……」
眉をひそめる店主をよそに、ジャンヌはゆっくりと立ち上がり、後ろで縛られている手をそのまま伸ばした。
そして、目を閉じ意識を集中してから、叫ぶ。
「デュランダル!」
突如、光を纏った何かが天井を突き破って降り立った。木材の砕けるけたたましい音と共に、地面に刃物が突き刺さる鋭い音が鳴った。
そして、それは寸分違わず。ジャンヌの拘束されている両手首の縄を断ち切るようにして、君臨していたのだ。
「な、なんだぁ!?」
「まったく、失礼しちゃうわね」
手に引っかかった縄を払いつつ、頬を膨らませながらジャンヌは振り返る。そして、身の丈ほどもある落下物……聖剣デュランダルを引き抜いてから、パワードを睨んだ。
「パワードさん、これ持ってみて」
「お、おぉ……なんだよ、いきなり、ってうおっ!?」
刃を下に向けたまま、デュランダルを受け取ったパワードは腰を抜かした。重力に逆らわず、デュランダルは再び床に突き刺さる。
腕力に自身のあるはずのパワードは、ジャンヌが軽々と持っていた聖剣の、想像も出来ないほど強烈な重さに驚きを隠せなかった。
「デュランダルは、選ばれし者しか使えない神聖剣です。使用者以外には、まるで鋼鉄の塊のように重く変質します。でも、ジャンヌだけは別でして。どこにいても、呼びかけに反応してくれますし、本人曰く長いナイフを持っている程度の重量だそうですよ」
「ほー……いや、凄いもんだなぁオイ!」
ビリビリと痺れる手を振って感心するパワード。ジャンヌは証明が出来たことに満足すると、聖剣を右手の刻印の中に戻し、そしてツカツカとジル――――いや、ジルの後ろで、先ほどからおいてけぼりを食らっている偽物の所へ向かった。
「一つ聞くわ。悪いこととかはしてないでしょうね?」
「は、はい! はい! 何もしてないです! 本当に!」
完全に、パワードですらジルが連れてきた方が偽物、と理解できたこの場において。何故だか、偽物ジャンヌは、嬉しそうに頬を赤らめて返事をした。どうみても、喜んでいる。
「じゃ、なんであたしの姿なんか投影したのよ? 何がしたかったの?」
「別に、何がしたかったわけじゃないと思うよ」
質問にはジルが答えた。街を歩き、状況を整理した上での結論を述べる。
「ジャンヌとして外に出てみたかっただけじゃないかな。ほら、どこ歩いても、みんなジャンヌを見かけると、拝んだり何かくれたり……そうだね、チヤホヤされるでしょう? それをされたかっただけなんだと思う」
「そ、そうなんです。やましい気持ちとかは、本当になかったんです! その、すっごくジャンヌ様が羨ましくて……もし、ジャンヌ様になれたら……気分良いだろうなぁって、本当にそれだけなんです!」
偽物はすっかり自分を隠す気はないようだ。それに気づき、短い魔術を呟くと、淡い光と共にその正体が明らかになった。
それは何の変哲もない、どこにでも居る年の若い女性であった。ジャンヌより幾分か器量は劣るし、髪の色も茶色で、衣服も所々仕事で汚れたロングスカートだ。
なるほど、変装するにも少し難しいだろう。だから、彼女は変装ではなく変身して、勇者の威光をあやかりたかったのだ。
「……はぁ。怒る気にもならないわ。ジル、後は任せるわ」
「うん。じゃ、とりあえず頂いたものは全部返してきてね。ちゃんと謝罪も述べること。いいね?」
「はい! 本当にすみませんでした!」
物まで貰うつもりはなかったが、本物になりきろうとした結果らしい。深々と頭を下げた女性は、半日かけて街を巡り、事態の火消しに回ったそうだ。
有名になり、英雄と崇められることも悪くはない。悪くはないが、こういった弊害が出てきてしまうのは当然のことであった。今後、可能な限りは注意しなければならない。とはいえ、彼女たちの英雄譚は既に世界中に広まっている。予防は容易ではないことだけは確かだった。
この小さな事件には、ちょっとだけ後日談がある。
疑心暗鬼になってしまった街の人は簡単に、ジャンヌを信じてくれなかったのだ。ジルと一緒に居るか、いちいちデュランダルを見せなければならない状況になってしまったのだった。
また、一度偽物から返された品物の数々も、結局はジャンヌ本人に全て戻ってきた。好意であげたのだから、せっかくだしもらってくれ、と。
支援を頼んで数日、その支援物資が届くころには、二人の荷物は既に長旅の準備が整ってしまっていた。衣服も、食料も、すべて無料で揃えられてしまったのだ。
また、今回の小さな事件を経て、ジルとジャンヌの間には『部屋で寝る前は、必ず鍵をかけること』『両者が施錠確認してから寝ること』という二つの約束が結ばれた。別々の部屋で寝る場合は、ジルが確認をすることになっている。
それと、パワードの店は器物破損をされたのにも関わらず、更に盛況した。勇者ジャンヌが魔王を打ち破った聖剣で開けた大穴、という触れ込みで、宣伝に回ったからである。物を壊して感謝されるとは、勇者様々であろう。ジルもジャンヌも、それを聞いて複雑な表情をしたのは、想像に難くない。
――――。
「せっかく支援依頼したのに、意味なくなっちゃったわね」
ジルは、停泊しているミズホ行きの帆船に乗りながらジャンヌに言う。この乗車料も、船長のはからいで無料だった。断りを入れても、好意で押し切られるのには、嬉しさはあっても慣れはしない。
ほとんど金銭を持たずに来たのに、出るころにはすっかり潤沢になってしまったことがおかしくて、ジルは笑っていた。
「そういえば、ごたごたして聞いてなかったんだけど」
「ん?」
「何で、あの子が偽物ってわかったの? 状況的に、あたしだと信じても仕方ないと思うけど」
反射影光は、対象のあらゆるものを投影させる魔術だ。被投影者には、痕跡が残るものの、使用者自体には魔術使用の感覚はほぼ皆無。
全盛期のジルなら問題ないが、封印された今の状態では気づける要因にはならないはず。
「反射影光はね、使用者でも模倣できないものがあるんだ。今後使われたら覚えておくといいよ」
「そうなんだ。何がダメなの?」
「匂いさ」
「え? 匂い?」
「うん。体臭……って言った方が良いのかな。魔族の場合は、血なまぐささや獣臭さですぐわかるんだけどね。人間の場合は、ちょっと判別難しいんだ」
「ふーん……じゃ、つまりジルはあたしの匂いってのがわかるんだー。へー。ほー……」
「な……! ジャ、ジャンヌだって僕の匂いとかわかるでしょ? 当然だよ!」
「え? わかんないけど、あんたの匂いなんて」
「うそ? だ、だってこの前……」
「……えへへ。ま、何にせよ無事に済んで良かったわ。さ、行きましょ」
「あ、う、うん」
恥ずかしさで錯乱しかけているジルを、ジャンヌが手を引き、船に乗る。
いつもより、彼女の笑顔は嬉しそうであったことを、ジルは気づいていない。
これから数日の航海を終えれば、目的地ミズホに到着だ。
すんなり、水の精霊と出会えれば良いのだが…………果たして。