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勇者物語、その後に  作者: 背水 陣
第二章 水の精霊 編
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第十一話 ~馳走になったもの~

 部屋の隅に置かれた蝋燭の明かりしか光源のない薄暗い部屋の中で。

 しばらく待つと、引き戸を開けて伊綱が入ってきた。両手で湯気の立つ、使い込まれた金属製の鍋を持っている。相当に熱いのか、取っ手に布を挟んでいた。次いで、半円形の粘土を焼き固めて作った皿と、一対になっている細い木の枝のようなものを、伊織が持ってくる。


 「お待たせしました。こちらは山菜の雑炊、という料理です」


 ジルは雑炊を知っていた。ミズホの人々が主食とする白米を、少し多めの水と調味料で炊いたもの。それに、様々な材料を入れる料理と聞いている。

 しかし、伊綱の持ってきたそれは、ジルが紙面上で学んだものと違っていた。色は白くなく、少し色のついた水程度。所々に、白米が見えるけれど鍋の一面を覆うのが精いっぱいな程度。むしろ、主張をしているのは、日中に山で採ってきたキノコや野草の方であるくらい。


 「へー、薄いリゾットみたいなものかしら?」

 「りぞっと……あぁ。いえ、残念ですがそこまで大層なものとは言えません。お恥ずかし限りですが」


 伊綱は申し訳なさそうに、頭を掻いて答える。


 「本来なら、もう少し米が多いのですが……何分、支給される物資が少なくて」


 ということは、普段からこの程度の食事しか取っていないのだろうか。いや、今日はいつもの倍は必要だったのだ。こんな水に近い粥を作らせてしまったのは、他でもないジルとジャンヌなのだ。


 「すみません。僕らのせいで……」

 「いえいえ。こちらこそ、世界平和を勝ち取った方々に、このような粗末なお食事をさせてしまって申し訳ない」


 頭を下げる伊綱に、ジャンヌもジルも罰が悪そうに頭を下げ返す。お世話になる、というつもりになっていたのが、非常にバカらしい。伊綱が、シキ島の人たちは貧困で厳しい生活を送っている話を聞いたばかりだというのに。


 「とはいえ、飢えを満たす程度の量はございます。どうぞ、召し上がってください。伊織、お配りしてさしあげなさい」

 「はい、兄様」


 伊綱の後ろでちょこんと正座をして控えていた伊織が、スプーンのような半球のついた木製の道具を使って、先ほどの椀に注いでいく。

 白米そのものの匂いはほのかだが、山菜類がそれを何とか補い食欲を増進させる。

 椀を受け取り、さあ食べようとするが、ジャンヌが渡された二本の木を見て怪訝な顔をした。


 「……ジル、これは?」

 「お箸かな。片手で掴む、刺す、掬うなど、なんでもできちゃう凄い食器だよ」

 「え、これで掴むの? これを?」


 握るように箸という棒を持つが、ジャンヌにはどう頑張っても片手でそれらの行為を出来るとは思えなかった。

 伊綱が、使い方をレクチャーしてみるもどうもうまくいかない。


 ジャンヌが箸の使い方を奮闘している中で、チラッと伊織はジルを見た。何でも知っていそうな彼ならば、容易に使いこなしているのでは、と。


 「…………」


 だが、それは間違いであった。ジルは珍しく眉間に皺を寄せて、格闘していた。伊綱の動きを見ながら、頑張って動かそうとするが全然、思ったように動いてくれない。

 結局、二人は旅袋に入っていたスプーンを使わせてもらうことで手を打った。料理が冷めてしまうよりは、全然マシだろうという判断だ。


 「ところで伊織、待っている間はどんな話をしていたんだ?」

 「えっと、お二人の魔王討伐の武勇伝を伺っていました」

 「お、そうなのか。それは、是非とも聞きたいな」


 目線だけで、伊綱はこちらに期待を訴える。また同じ話をするのか、と若干げんなりするも、せめてものお礼なのだから当然だろう、と言う気持ちがそれをたやすく払拭した。


 「なるほど。壮絶な旅物語ですね」

 

 伊織とは反応の違いはあれ、同じような感嘆の声を漏らす兄。その様子を見てから、伊織は何かを思い出したように、口を開いた。


 「そうでした。兄様、お聞きして欲しいことがあります」

 「なんだ?」


 伊織は次を続けようと、口を開く。だが、思考が何かを邪魔するのかそれは音にならなかった。しかし、結局は話したいという欲求が勝ったようで、二度の躊躇いの後に声に出した。


 「お二人は、海神(わだつみ)様のことを、信じてくださいました!」

 「!」


 ピタリ、と聞こえてきそうなほど。伊綱は伊織の言葉を耳にすると、静止した。それから、不機嫌そうな表情に顔を変えると、いつもより低い声で返答する。


 「だから、何だ?」

 「え? えっと……ですから、やはり海神様はいらっしゃいます」

 「だから、何だと聞いているのだ」

 「で、ですから……その……渦流(うずる)神社を……」

 「伊織、その話はもうやめよう」


 伊綱は箸を椀に置くと、そのまま立ち上がった。下から照らす蝋の火は、伊綱が怒っているということを教えてくれていた。


 「伊織、食後に御二方へ、湯を馳走して差し上げなさい。私は明日も早いから、もう寝るとするよ」

 「……はい。承知いたしました、兄様」


 状況を良く理解できず、食器を持ったまま停止するジルとジャンヌに礼をしてから伊綱は部屋を出て行った。

 原因を知っており、秘策とも言える思いが通じなかったことに、一人落ち込む伊織。それでも、このままではいけないと、急いで雑炊を平らげた。


 「す、すみません。変なところを見られてしまいましたね」


 気持ちを切り替えたのか、伊織は小さく頭を下げる。それから、今度は楽しげな表情を無理に作って言う。


 「しょ、食後に風呂に入られてはいかがでしょうか? すぐに準備いたしますので」

 「お風呂! 良いわね!」

 「ミズホの国のお風呂は、ジャンヌのイメージするものとは違うとは思うけど……」

 「は、はい。ですので是非とも、入ってください!」


 用意があるから、と伊織は部屋をいそいそと出ていく。ワクワクしながらジャンヌは待つ。ジルは、手持無沙汰から、残った雑炊を鍋を掬い始めた。


 「塩やミソが効いてるね。調味料は充実してるのかな」

 「……ねえ、ジル。どう思う?」


 本人たちが居ないことを好機と、ジャンヌが聞きにくいことをジルへ尋ねてみる。


 「良いじゃないか。身内の事情じゃないか。そんなことを言えば、まだ完全に平時とはいえない状況で、旅に出ているお姫様の問題も、あまり表立って言えることじゃないよ」

 「う……地味にキツイこと言うのね。ま、良いわ。確かに、下手に首を突っ込むことじゃなさそうなのは伝わってくるもの」


 ジャンヌは気を取り直して、残りを平らげることに専念した。ジルも同じく、椀に残った粥を啜りつつも、彼なりに考える。

 何となく、どういう事情が入り組んできているかは、理解しているつもりだ。当主 伊綱の言葉、妹伊織の思い。そしてシキ島の現状。

 そうまでしなければならないことはわかる。けれど、伊織としては心苦しいのだろう。何か、力になれないものか……。


 「ジル! ジル! 凄いじゃないの、ここのお風呂! すっごい気持ち良かったわ!」


 寝室と教えられて入った、二階にある藁を綺麗に編まれた床張り(畳というらしい)の部屋で、窓の縁に肘をかけて悩んでるジルをよそに。ジャンヌは、ほんのり赤くなった頬と、濡れてしっとりと光を反射させる髪で部屋に入ってきた。

 衣服はいつものドレスではなく、伊織と同じようなものになっている。これはこれで似合うのは、ジャンヌの器量の良さであろうか。

 また、ドレスのようにシルエットを大きく見せる構造ではなく、身体に密着するタイプの衣服だ。ジャンヌの起伏の激しいボディラインを、滑らかに描いており魅力が更に増してみえてくる。


 「良かったね。じゃあ、僕も入ろうかな。……あ、それと伊織さん」

 「は、はい!?」


 ジャンヌの後ろで、ビクンと伊織が跳ねる。何かお気に召さないことでもしてしまったのか、と驚いたのだ。


 「部屋って、ここしかないのかな?」 

 「え、えっと、一応、もう二部屋ございますよ。後はわたしと兄様の私室ですが……、な、何か?」

 「うん。どうして、フトンが一つなのか気になってさ」


 ジルはひきつった笑いをして、手のひらを対象へ向けた。そこには、麻で出来た敷布団が一つ置かれており、身体にかけるシーツ――――掛布団も一つなのに、何故か枕だけは二つだった。


 「え、えっと……あれ? そ、その……」


 伊織はもじもじしながら、顔を徐々に赤くしながら慌てている。様子を見ただけで、ジルは大体何を想像してるか察しがついてしまった。


 「し、失礼ですが……その、御二方はご夫婦ではないのですか……?」

 「へっ!?」


 聞いたこともない上ずった声を上げたのはジャンヌだった。伊織に負けないくらい顔を紅くしてしまっている。


 「あはは。残念だけど違うよ。だから、別の部屋の方が……」

 「い、いや。これでいいわ。べ、別にいいでしょ、ジル? 大体、この前フリスタで約束したじゃないのよ」 


 風呂上がりなのか、照れているのかわからないが、紅潮した顔と汗を額から流しつつジャンヌは言う。

 確かに、泊まる場合は互いに戸締り確認してから寝るという約束をしたが……それは、部屋がどうしても同じの場合であって。今みたいに、部屋があるなら分かれて寝るべきだろうに……。


 と思ったジルだが、警戒するに越したことはない。人の良さそうな渦流家だが、敵は彼女らだけではない。もしかしたら、二人の存在を知って監視している存在もいるかもしれないのだ。


 「まぁそれでいいか。じゃあ、僕もお風呂に入ろうかな」

 「あ、は、はい。ご案内いたします」


 我に返った伊織が、ジルの先を案内していく。軋む階段を下り、狭い通路を進んだ先にある小さな部屋。

 風呂場は二段構造になっているようで、まず最初の小さな脱衣所で衣服を脱ぐ。その先の浴場で、湯を堪能するらしい。似たようなものを諸外国で知ってはいるが、一世帯に存在するのは珍しい。

 伊綱の物と思われる、白いつなぎと帯――――伊織曰く『着物』というそのミズホ国特有の衣服が、傍に置かれていた。風呂からあがったら、これを着ればいいそうだ。


 「ま、まずは、桶で湯を掬って身体にかけてください。それから、こちらの手ぬぐいで垢を落としてからゆっくりと湯につかってくださいね」


 浴場への引き戸を開けて、伊織は説明した。戸をあけた途端に湯気が脱衣所に入ってくる。中を見ると、板張りの小スペースと、足を伸ばせば全身が入れるほどの、湯が満たされた風呂桶があった。


 「ゆ、湯に浸かりましたら、わたしが外に居ますので湯加減の調整をいたします。遠慮なく、おっしゃってくださいね」

 「わかりました」


 言われた通りの所作を行い、ジルは風呂に浸かった。オルラン王国でも、垢を落とすための風習はあったが、あちらは暑く蒸した部屋でじっと耐えるだけのもの。入ればすっきりするが、このように全身を湯に入れるようなものは存在しない。


 「伊織さーん」

 「は、はい! いかが成されましたか!? 熱かったですか!?」


 ジルは、格子のついた外からは見えない、細い竹のカーテンがかかった小窓へと呼びかける。慌てるような可愛らしい声が、すぐさま返ってきた。


 「いや、お湯の温度はちょうどいいよ。ありがとう」

 「そ、そうでしたか。それは良かったです」

 「ちょっと聞きたいんだけど、このお風呂って、ミズホの国の人はみんな持ってるのかな?」

 「あ、い、いえ。シキ島は水が豊富ですので、湯を張れるのです。他の島の方々は、銭湯という大衆浴場で済ませているんですよ」

 「へー、そうなんだ。じゃあ、伊織さんの家は凄いんだね」 


 貧しいとは思ったが、こういう娯楽は使えるのだな。水が豊富なのは良いことだ。上手く開発すれば、農耕も順調にいくとは思うが。

 ご神木が多く、きっとそんな自給自足の生活を発展するよりも。それらを、欲しがる人物に売る方がよっぽど経済は良くなるのだろう。しかし、アイデンティティともいえる資材を簡単には手放せないはずだ。

 資源はある。けれど、自分たちが自分たちであるために、他国人には渡せない。

 自分の神社を売ってしまった人たちは、どれほど悩んだことだろうか。心中を察する。


 「ねえ、伊織さん」

 「は、はい」

 「少し聞きたいことがあるんだ。答えられないなら、それでいいよ」

 「え……あ、はい」


 「お兄さんは、どうして神社が嫌いなのかな」

 「!」


 ガタッと壁越しに何かがぶつかる音が聞こえた。何が当たった音なのかはわからないが、核心をついた質問をされて、伊織が動揺してしまった、ということだけは理解できる。


 「な、えっ、な、何で? どうしてわかったんだろう? わ、わたし何も言ってないよね?」


 小声で伊織はボソボソと、早口な独り言を呟いていた。

 冷や汗を垂らしつつも、それでも彼女にとって突かれた核心に違いはない。しばし、無言になった後に、伊織は深呼吸してから返事をする。


 「あ、あの、ジル様」

 「なんでしょう」

 「お、お背中を流しに伺いますので、洗い場で待っててください。お顔を見て、話させてください!」

 「え?」


 パタパタと足音が遠ざかって行った。

 今、伊織は何と言ったのだろう。

 背中を流す。

 多分、自分のこの背中だろう。流すということは、ここに来るのだろうか?

 いや、待って欲しい。ここは衣服を脱いで入る風呂場だ。当然、裸である。


 いくら年下に見えると言っても、伊織は女性だ。入ってこられても困――――


 「し、失礼します。お待たせしました」

 「うわぁ!?」


 積極的でなさそうな性格だと思っていたが、意外と猪突猛進なところもあるようだ。袖を交差掛けした布で結んで、動きやすくした格好で入ってきた。裸で入ってこなかったことにジルは安堵しつつも、やはり恥ずかしさを覚える。


「……?」


 伊織は不思議そうにジルの姿を見た。それもそのはず。風呂だというのに、ジルの右手はびっしりと包帯で巻かれていたから。大きな傷でも負っているのか、聞いてもいいのかわからない目をしている。

 まさか、こんな所にまで来るわけないと思っていたからジルも少し油断をしていた。が、すぐに……それよりも目下の問題を解決すべく疑問を口に出す。


 「あの……僕はどうすれば?」

 「あ! え、えっと……こちらに腰をかけていただければ、と申しあげましたよね? 昔、こうやって兄様のお世話もしていたので、同じようにして差し上げようと思ったのですが……」


 何か間違ったことを言ったか、とでも言いたげなように首をかしげる伊織。異文化の人間ということを忘れているのだろうか。

 湯が既に汲まれている桶を足元に置き、腰を掛ける小さな椅子の傍で待機している。


 「わかったよ。じゃ、ちょっとだけ後ろ向いててもらえないかな……?」

 「……? あ! は、はい! しし失礼しまし、ひゃあ!?」

 「あっ」


 やっと意味に気づいた伊織は、慌てながら後ろを向こうとした。しかし、湿気と潤いを持ってしまった床は思いのほか滑るので、バランスを崩してしまった彼女は、その摩擦力のなさに抗えず転んでしまう。


 しかも、運の悪いことに投げ出された足が桶に当たって、美しく弧を描いて中空に舞った。数秒に満たない間を置いてから、それは回転しながら着地をする。

 もちろんだが、その動きをしている最中、中のお湯は見事に伊織へと注がれてしまっていた。


 「いたた……。はっ! す、すみません!」

 「僕に謝る状態じゃないと思うけど……大丈夫?」

 「は、はい! 失礼しました! ええ、っと、ど、どうしよう!?」

 「んー……あ、そろそろ出ようと思ってたから、先に出て着替えておいでよ。お話も外でしようか」 

 「す、すみません……」


 涙目になりつつ少女は風呂場を出ていく。ジルは安堵の声を漏らして、目に入った出来事を脳裏に投影してしまった。

 お湯がかかり、元々フィットする衣服が更に体に密着する。伊織の、成長途中と思わせる女性特有の部位が、浮かび上がってしまっていたのだ。転んだ際に大きく足を開いたこともあり、細くもほどよく肉のついた太腿の根幹付近にある、少しジャンヌのものと構造が違うが、白い衣類も見えてしまったことを、再認識する。


 それから、煩悩を振り払うようにしてジルは頭を振り、浴場から出ることにした。彼も男だから仕方ないが、不慮の事故を喜ぶほど堕落した人間ではない。


 「あ、じ、ジル様。先ほどは失礼しました」


 脱衣所を出ると、すぐに伊織が出てきて頭を下げた。素早い着替えに驚きつつも、まだ髪はしっとりと濡れて月明かりを反射させている。ジャンヌの金髪も綺麗だが、伊織のような黒髪もまた、見る者を虜にするような別の美しさを持っていた。


 「ううん。大丈夫だよ」

 「で、では、こちらへどうぞ」


 しずしずと、足を大きく開けないようにして先を歩いていく。着物は構造上、大股で歩くとすぐに着崩れてしまうから、このような歩き方になるのだろう。伊綱から借りた着物を纏ったジルは、倣って床を滑るようにした足運びで、ついていく。


 着いたのは、廊下の途中の、縁側と呼ばれる場所であった。普通、廊下は壁で遮られた空間だが、その一部のみ、壁を取っ払って外へ出られる仕組みになっている。庭への玄関、という感じだ。

 伊織は段差になっている場所へ腰をかけ、目くばせで座るように促す。それに従い、ジルも隣へ座った。

 すぐ目の前は、慣らされた土と少しだけ生えた雑草群に、敷居の壁だった。けれど、視線を更に上に流せば、綺麗な月が見える。それだけで十分であった。


 「……さ、先ほどのご質問の答えですが」

 「うん」


 吹き抜ける、涼しげな風を浴びて上がった体温を冷やしていたところ、伊織がゆっくりと口を開いた。

 視線は正面を向いたままである。


 「そ、その前に、わたしもお聞きしたいことが」

 「なにかな?」

 「な、何故ジル様は、兄様が神社をお嫌いだとわかったのですか?」


 この質問をしたということは、推測は間違っていなかったということになる。

 遠まわしな肯定を受け取ったジルは返答をした。


 「先祖から伝わる歴史のある神社を、伊綱さんは『こんなところ』と言ったんだ。それと、食事の時のキミたちの口ぶりからすれば、大体は想像つくよ」

 「……やはり、ジル様は聡明なお方ですね」

 「そんなことないよ」

 「い、いえ、謙遜なさらないでください。そんなお人に、隠し事は通用しないと思います。ですから、出来る限りのことを、お話してもよろしいでしょうか?」


 ふと、ジルが伊織を見る。前を向いていたと思ったが、いつの間にかジルを見つめていた。

 おどおどとした瞳ではなく、そこに何か期待と不安を持って。


 身内間のことに、下手に口出ししたくはないと思ったが……ここまでさせて、知りません、なんてことは出来ない。

 食べたことない料理、一般人では入れない風呂まで馳走になって、お礼をしないわけにもいかないだろう。


 「うん、いいよ」


 ジャンヌの我がままを聞く時のように、ジルは優しく、そして少しだけ困ったように笑って受け入れた。 

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