友梨奈の決意
「あかね、聴こえる? あかねったら」
頭の中で何度か呼びかけるが、何の反応もない。
清華に能力の使用を悟られないよう、スイッチを切っているのかもしれない。
(あかねがいないと、手の先で何が起こってるかわかんないし……)
意識が抜けた後の身体を守ってくれる麻由も、今はいない。
これからスマホにメッセージを入れれば麻由は飛んで来てくれるとは思うが、あかねが持ってくる案件はいつも“時間がない系”ばかりだ。
それを待っていると、手遅れになる可能性が高い。
『人は自分の死は選べないし、その人の運命なんだから……』
能力否定派の清華とは、元々意見が合う部分もある。
言っていることも、わかりみが深い。
『とにかくやれることだけやってみようよ。昔のわたしみたいに、生命の危機に遭ってる人がいるんでしょ!』
過去の友梨奈が生き霊の子や麻由を助けていなかったら、甘酸っぱい思い出や、親友と呼んでくれる友達もできなかったに違いない。
前回、突然道端で手のビジョンが視えてしまった時は、あれこれ迷っているうちに、幸か不幸かイメージが消失してしまった。
今回も決断する前にそうなってくれれば――と一瞬考えた自分に、友梨奈は少し嫌悪感を覚える。
今まであかねに背中を押されたり、麻由を助けたい一心でのみ能力を使ってきた。
生まれ持ってしまった能力は、もう無しにはできない。
けれど、それを使うかどうかは、友梨奈が自分で決めるべきことだ。
あの手の先では、友梨奈が助けられない人に繋がってしまうかもしれない。
でもそんな結果よりも、きっと助けない決断の方が、心がもやもやする気がする。
きゅっと下唇を噛み、友梨奈は公園の奥のベンチへ足早に向かった。
そこに浮かぶ人の手のビジョンを右手で掴むと、その紅い瞳は焦点を失っていく。
⸻
モニターの電子音。
少し揺れている点滴袋。
一人の救急隊員が淡々と手当をし、もう一人は運転席に状況を伝えている。
簡易ベッドの上で横たわっている人の手を握った状態で、友梨奈の意生身が出現した。
以前、外で間近に見た時と違ってかなり静かだが、ここは救急車の中のようだ。
(もうプロに救出されてたのか……)
そういえば今回、あかねは「時間がない」というセリフを一言も言っていなかった。
通常の手段で救出されるような事件や事故だったに違いない。
あかねはリコの救出のために能力の感度を上げようとしている。
その弊害なのかもしれない。
(視えてたんなら最初に言ってよ……)
それでも、ここに来たこと自体は悪い気分ではなかった。
握っている手に、少し力を込める友梨奈。
(頑張って元気になって)
それに反応するように、握る手が少しだけ力を返してくれた気がした。
(頑張ってください)
救急隊員に向かって聞こえない言葉をかけた後、友梨奈の意生身はかき消えた。
⸻
一瞬意識が遠くなった後、顔にふくよかな柔らかい弾力を感じる。
(! これってまさか?)
友梨奈は、麻由に正面から抱きしめられた状態で立っていた。
慌てて両腕で押し、麻由から身体を離す。
「もう、何やってるのよ、麻由」
「それはこっちのセリフよ! わたしがいる時に能力使えって言ったでしょ!」
それは確かに聞いた。
だが、こんな状態で他人に見られたら、別方向の悪い噂が立ちかねない。
「だって、ああなってる友梨奈を違和感なく守る手段って、あれしか無かったんだもん」
意識を失った友梨奈の“エアー握手”の姿は、端から見れば怪しさ百パーセントだ。
だが、JCが公園で抱き合っている姿も、なかなかリスクが高い。
何より相手が友梨奈では、麻由の評判低下が心配だ。
「わたしは、こうするために梨奈のそばにいるんだから。変な気を遣わずに、今度からちゃんと呼んでね」
麻由の言葉に胸が熱くなり、返す言葉が何も出てこない。
友梨奈は、ただ小さく頷いた。




