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二十二歳の勇者と天然女神達の異世界創造譚  作者: そらまちたかし
第一章:フリーターと痴女女神
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設定少女は女神か痴女か

 

 

「――で、勇者と女神ってそもそもなんだ?」


 俺は自称女神を引き連れて、近くのファミレスに入った。


 今は昼より少し前。

別に腹が減っているわけではないし、バイトと一人暮らしで金にそこまで余裕はない。


 俺の前にはコーヒー、少女の前にはワッフルの刺さった少し豪華なパフェ。

そんな貴重な生活資金を使ってまで、俺がこの少女に対応する理由は一つ――。


「……へぇ、こっちの世界のお店って変わってて面白いですね」


 本当に何も知らないかのように辺りをキョロキョロと見回す少女。

過去に何があったかは知らないが、常識に生涯せっていがあるらしい。

少女の言葉や言動からして、最低限の言語知識はあるようだ。


 ――が、それが別世界の物であるらしく、何かとこの世界特有の物を見つけては驚いている。


 少女をファミレスに匿った理由――。 

これを大勢の目の前で暴露され続ければ、巻き込まれただけの俺のヒットポイントはゼロになるからだ。


 とりあえず頼んだビターなコーヒーに、俺はたっぷりの砂糖を入れる。

最初から甘い物を頼めば良いかもしれないが、あえて苦いコーヒーを甘くなるまで甘くするのが俺の通。


「――で、勇者と女神ってそもそもなんだ?」

「あ、そう言えば説明がまだでしたね」


 俺は同じ質問を二回。

聞く耳を持たないのか、設定作りに忙しいのか――。


 ようやく話す態勢になった少女は淡々と話し始める。


「まず、信じて欲しいのは貴方が白い羽に選ばれた勇者であること、そして私が女神であること――」

「あぁ、それで」


「この世界の他にエスティリアと呼ばれる別世界があること――」

「あぁ」


「貴方がその、エスティリアの平和を守ることのできる唯一の存在であることです」

「ふーん……」


 俺は淡々と設定話をする少女に淡々と言葉を返す。

いや、これをまともに聞ける人間がいたら国際問題でもいいと思う。


 ただ、コーヒーを美味しく飲むのには丁度良い暇つぶしでもあった。


「――じゃあ、その勇者になった俺は、今から女神さんに連れられて異世界にでも行くわけ?」


 しかし、このまま設定を語られても埒が明かない。

その女神や勇者というのがただの設定うそであるのを証明してやろうと、俺はあえて事を進める。


 少女には悪いが、この後コンビニの仕事バイトがある。

あまり時間をかけてはいられない。


「はい、そうなります。――で、では、早速ですが……」


 俺の隣で熱く設定を語っていた少女が、こちらに唇を向ける。

小さく小ぶりだが、艶が良くて柔らかそう。


 少女が少し震えている――。

女性にそんな健気な瞳で見つめられた俺も興奮で震えてはいる。


 ただ、自分から唇を向けておいて震えだす、痴女か分からない少女の内心が理解できない。


「……少し失礼しますが、ご協力ください……」

「お、おい?ちょっと待てよ――」


 隣の席に座っていた少女は、徐々にその唇を寄せて大胆な体を押し付けてくる。

そんな無防備な少女に俺はストップをかけた。


「……待つ――ですか?……私とキスをすれば向こうの世界へといけるのですよ?――や、やはり……恥ずかしいでしょうか?」


 いや、その設定の方が百倍恥ずかしいと俺は思う。


 しかし、ここは幸いファミレスの隅で周囲からはあまり見えない。

そして、頬を赤く染めながらもキスをして良いと言う美少女を前に断れる男がいるだろうか。


 ただ、キスをした後から金を請求されても困る――。


 けれど、俺がフリーターであるのをこの少女は知っている。

そんな奴から金を巻き上げようとするだろうか。


 俺がこの少女の立場であれば、狸みたいに太った気前の良さそうなおっさんを狙う。


 少女がかねづるの見る目がなかったとしても、フリーターである俺はそもそも選択肢に入らないわけだ。


 だから――これは、冴えない人生を送ってきた俺へのちょっとしたご褒美か何かだ。

俺は戸惑う少女の肩に手を添えて向き合った。


 ワンピースの生地の上から感じる――肩といっても女性の体。

少し骨を感じるが、柔らかく滑らかで心地いい。


「じゃあ、遠慮なく……」


 俺の言葉に少女は小さく頷き、目を閉じる。

その途端に、急に何か緊張がこみ上げる。


 決して慣れた物ではない。

地味でインドア派な俺のファーストキスだ。


 タイミングや息継ぎ、どこまでして良いかも分からない奴なのだ。

たまにR18指定の動画を見るぐらいで、俺の知識は男版の耳年増。


 そんな大切な、初心うぶな瞬間をこの少女の設定の付き合いに消費してしまう。

それは惜しいかもしれないが、美少女に捧げられたのなら文句はないかもしれない。


「……」


 戸惑いながらもその、小さく繊細な少女の唇にガサガサな俺の唇を重ねた。

――とても柔らかくて、良い匂いがする。


 俺は思わず少女の上唇を優しく食む。

上質のマグロのトロ……と言うと誤解を生むかもしれないが、滑らかさや口どけはまさにそれ。

もちろん、生臭さはない。


 あるとすれば、春の花の匂いにも似た、甘く優しい香り。


「ん――」


 少女は妙な声を上げながら、躊躇なく身を俺に預ける。


 やばい――ちょっと興奮してきた。


 押し付けられているその、少女の芸術とも言える餅の様な膨らみ。

それが唇を食む度に小さく反応するように揺れ、触れた二の腕に容赦なく快感を与えてくる。


「……もうやめよう」


 俺の下半身がそれをしっかりと感じる前に、素早く少女から口を離した。

初対面の少女にそんなだらしない物を見せるわけにもいかない。


 もっと感じていたかったが、俺の羞恥心が限界だった。


 しかし、キスを中断された少女の顔はどこか不満げ。

俺から顔を離そうとはせず、むしろ、さっきよりも体を寄せて背中に腕を回してきた。


「――あ、駄目ですよ。……まだ、足りないですから……」

「た、足りないって――」

 

 今度は少女から俺の唇を奪ってきた。

それもいきなり舌を絡ませてディープに。


 最初は俺は戸惑って、少女の舌から逃げた。

だが、狭い口の中。

あっさりと俺は捕まった。


 トロリとしていて実に暖かく、少し雑で上手い――とは言えなかったが気持ちは良かった。


 それについ調子に乗って、今後は俺から彼女の口の中へ攻めてみた。

少女は抵抗もなく向かい入れ、大人しくされるがままになっていた。


 驚いたことに人によって口の温度が違う。

少女に舐められて火照った俺の舌より、少女の口の中の方が冷たかったのだ。


 その少しひんやりとしたのがまた、さっきとは違って――俺は一瞬我を忘れ――夢中になった。


「んっ――!」


 突如、目の前の少女が喘ぐような声を上げ、体をくねらせ腰を少し浮かせた。

それに俺は慌てて口を離す。


「――あ、悪い……!」


 俺の傍らでうっとりとした表情の少女を目前にし、自分のしてしまったことに後悔する。


 見ず知らずの少女をファミレスに連れ込み、性的暴行を加えた――。

そんな恐ろしい見出しが俺の頭を一瞬過る。


 ただ、少女は顔色一つ変えずに満足したように全身の力を抜いていた。

俺は慌てて少女を抱えなおす。


「……キス、お上手ですね……」


 痛い設定の上にかなりの痴女。

泣き出すかと思っていたのだが、笑顔を浮かべている。


「馬鹿野郎……、そういう言葉を知らない男に軽々と使うなよ」


 俺は周囲の様子を窺い、少女の様子も窺う。

周囲は至って平然でこちらなど見てもいない。

少女は変わらずぐったりとしていて、このままほっておいたら寝てしまいそうだった。


「……これですぐにエスティリアにいけると思います……」


 エスティリアじゃなくて別の大人な世界にいってしまいそうだ。

俺は自我を取り戻そうと深呼吸をする。


 仕方ないことに、俺の下半身もさっきので出来上がってしまったのだ。

実に情けなく、少女に悟られないように必死に抑える。



 ――それがしばらく続いて10分後――



「……変、ですね、エスティリアにいけないです……」

「まぁ、いけないだろ」


「どうして分かるのですか?」

「いや、いけてないのが事実だろ?」


「それは……そうですね……」


 傍らに少女を抱え、コーヒーを片手に飲む俺。

ファミレスの大きな窓ガラスに映る自身の姿を見ては、なんて一日になってしまったと思うしかない。


 珍しくもない白い羽を追いかけてたら、知らない少女と出会ってファミレスでディープキスしました。

SNSなどには間違っても書けた内容ではない。


 書いたら最後、変人扱いされて終わる。

それよりも、これを事実だと受け取る輩がいるのかすら怪しい。


 しかし、その元凶が俺の目の前にいるのだから――。

世界にはまだ、とんでもないことが待ち受けている違いないと感じた。


「……ちょっと慌てて出てきましたから、次元の空間が歪んじゃったのかもしれません」


 少女の天然さで世界の時空も崩壊するのではと、想像しただけで恐ろしくなる。


「少し様子を見てきますね……」


 いや、どこにだよ――。


 歪んでるのはお前の頭の中じゃないだろうか。

その言葉を俺は心の底へと押し込む。


 少女は俺から離れると、目を閉じて両手を合わせて、なにやら祈る態勢を取り出した。

神へ祈りでも捧げて時空を調節するとでも言うのだろうか。


「――時空を統べる神々よ、我にその力を今一度授け、栄光の地エスティリアへと導け!」


 掛け声と共に、両手を天井に掲げる少女。

それを余所目にスマホをいじる俺。


「あれ――?女神フレイヤの呼び声に応えよっ!」


 何度もそうやって天井に両手を掲げる少女。

それを余所目にスマホでガチャる俺。


 もちろん、デイリーボーナスを地道に貯めて得たポイントでだ。


「スペシャルボーナス!欲しいレアカードを選択してね!」


 と、何やらスマホの画面に派手な演出が現れる。

なんと1%にも満たないと噂のボーナスを引いたらしい。

三枚のカードの内、どれか一枚を選べる仕様だ。


 超レア級のレジェンドカードが二枚で、一枚だけレアカードという謎の選択肢。

消去法でレジェンドカード二枚から選ぶとなる。


「おかしいです……転移の門が開かないです……」

「……時空の神々に嫌われたんじゃないか?」


「え!?」


 適当に言った俺の発言に、少女は目を丸くした。

俺はそんな少女を余所目に二枚のレジェンドカードを選別する。


「それって……、私は元の世界に戻れないってことですか!?」


「ゆ、揺らすなっ!」


 強引に俺の体を揺らす少女。

その勢いで思わず、ただのレアカードを選択する俺。


「――あ、くそっ!!」


「やったね!レアカードゲット!」というメッセージが俺の視界に映り、脱力する他ない。

無課金でレジェンドカードなんて、半年に一枚あるかわからない代物だ。

それをこの人生で一度会えるかもわからない級の変人に台無しにされた俺の幸運な様で不運。


「どうしましょう!このままじゃエスティリアの未来が崩壊してしまいます!」


「ついでに、俺のレジェンド獲得の未来も崩壊したんだけど……」


「ほ、他の術を試したいので、貴方も協力してくれませんか!?」


「え――」


 そんなことで、俺と自称女神のエスティリア帰還作戦が始まったのだ。

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