白い羽に選ばれし勇者
そらまちたかしです。
以前の作品を個人の独断で修正してます。
どうぞよろしくです。
空から白い羽が落ちてきた――。
それは隕石やロケットが青く晴れた空から降ってくるよりは、案外普通なことなのかもしれない。
しかし、その真っ白な羽は何気なく自転車を漕いでいた俺の視線を釘付けにし、自然と躊躇なく自転車に乗ったままそれを追いかけさせた。
鳥はどこにもいなかった。
気づけば羽だけが頭上を飛んでいる。
形も色も、何の変哲もない白い羽が。
それは、世界に広がるネットワークを通して得られる情報の中では、平凡で有り触れた情報の一つ。
――そんな物に、俺の情報に肥えた目が引き寄せられていた――
「あ――」
唐突に吹いた風。
白い羽は風に乗り、少し手前の方角へと飛んでいく。
それを躊躇なく追いかける。
――気づけばかなり遠くまで来てしまった。
周囲はあまり見たことのない景色。
ただ、四角いコンクリートでできたビル街――というのは変わらない。
分からない――。
なぜ、こんなただの羽に目を引かれてしまうのか。
それもこの羽を追いかけ続ければ分かる。
その考えだけを頼り、道行く雑踏を避けながらその羽を必死に追った。
今日は春真っ盛りの晴天の日。
街路樹から漏れる木漏れ日が、羽を追いかける俺の顔に度々降り注ぐ。
こういうのは好きだ――。
芽吹いたばかりの葉の香りに、優しい日の暖かさ。
そして、春をまとう道行く若い女性の姿――。
ワンピースやブラウス、早い者は肩だしのトップスに身を包む。
その春に似たふんわりとしていて、どこか暖かそうで、心地よさそうで――。
ただ、22年間彼女無し、童貞、引きこもりの俺には縁がない快感であった。
「――危なっ!」
そんな浮き事をしていた俺の前に、一人の少女が立ち塞がった。
思わず急ブレーキを踏み込み、それでも間に合わずに自転車共々歩道に横転する。
痛い――。
世界は横に傾き、意識のはっきりしてきた俺の全神経が痛感を感じ始める。
それなりの速度で走っていたのだ。
体側面の擦り傷で済んだのが幸いだったかもしれない。
何より、目の前の少女を一切、傷付けなかった事が救いだった。
もし引いていたら――。
そんな恐ろしい考えが過った俺に、その少女は音もなく歩み寄った。
白く輝く純白の腰まで伸びたポニーテールに、白いワンピース。
そんな春を代表する可憐な少女。
「あ……」
俺の追いかけていたあの白い羽が、その少女の手に止まっていた。
「……なんでしょうか?」
羽を指さして口をポカンと開ける俺に、少女は答えを尋ねる。
「その羽は――なんだ?」
何故かは分からない。
たまたま俺が目を追っていた白い羽を手にした少女にそう聞いてしまった。
その彼女を取り巻く雰囲気と、その羽の白さが驚くほどに共通性を感じさせているのが問題かもしれない。
「なにって……白い羽ですよ?」
あぁ、白い羽だ。
そんなのは分かっている。
そうじゃない。
俺が聞きたいのは、有り触れた白い羽であるはずの物にここまで目を奪われる理由についてだ――。
「……ホントの事、知りたいですか?」
白い羽を手に取り、お淑やかな見た目とは裏腹の妖艶さを秘める金色の瞳が俺の脳裏を突き刺した。
気づけばその、謎を秘めた眼差しと言葉に自然と首が頷いていた。
「じゃあ教えてあげますね……」
――近い。
気づけば目と鼻の先に少女がいて、甘い香水の香りと柔らかい胸の感触を感じさせる。
童貞の俺にはあまりよろしくはない状況だ。
ただ、初めて触れた――いや、触れられた女性の温もりに俺の心が動揺しだす。
詳しく言えば、コンビニなどの釣り銭を貰うときに手先が触れ合った程度はあったのだが……。
そんな俺を余所目に、甘い吐息を耳に吹きかけながら俺にこう言った。
「……女神フレイヤは、勇者である貴方を迎えに来ました……」
少女は俺の頬に指を添わせ、小さな唇を俺の耳に当てる。
は――?
少女が何を言っているのかよく分からない。
女神や勇者という単語はもちろん分かる。
そうじゃない――。
異世界転生や天変地異がこの世に起こったわけでもないのに、女神や勇者という単語が存在してくる時点で問題がある。
いや、これからその異世界転生や天変地異が起こるとでも言うのか――。
「……も、もう少し分かりやすく――」
現状を理解しようと、俺は少女に答えを尋ねようとした。
強い――。
その途端、硬いコンクリートの床に強く押し倒された。
今の状況を簡素に言えば、俺が下で少女が上。
その俺の体を押さえつける力が少女のそれとは思えないほどに強いのだ。
「……貴方は白い羽に選ばれた勇者です。で、私は勇者を迎えに来た女神なんです……」
勇者と女神――。
そんな非現実的な言葉を淡々と語る自称女神。
これは異世界転生の余興とでも言うのだろうか。
冴えない男に美少女が一人。
よくあると言えばよくある展開。
ただ、俺が気になるのは彼女が妙に大胆であることだ――。
小柄な割に大きくソフトな胸を俺の胸板に押し付け、股を広げてはその柔らかい部位を硬い俺の太ももに躊躇なく当てている。
――薬物に侵されたか、酔っているのか?
春先の花見ならば昼間であってもそういう輩は出没するが、まだ早い。
街路樹に立ち並ぶ桜並木もようやく蕾を付け始めた季節だ。
それとも、援助交際でも求めに来たのだろうか。
生憎、援助してやるほど俺には余裕はない。
「……悪いが、援助交際なら他を当たってくれ。俺はバイト暮らしのフリーターだ」
その言葉にきっと、期待外れという顔をしてどこかにいく――。
この状況下に野次馬達が現れ始めたのだ、早く俺を解放して欲しい。
「援助交際?バイト?フリーター?……すみませんが、こっちの言葉あまり分からなくて……」
少女は割と普通にそう言う。
――嘘をついている様には見えない。
そして何やら俺の首の臭いを嗅いでいる。
自転車で少し汗をかいた俺の首を……。
「……この臭い、好きですよ。……理由は良く分かりませんが、落ち着きます……」
ただの痴女か――?
何が目的だ――。
「と、とにかく。……ここは少し目立ち過ぎる……」
「あ……」
無防備な少女を抱えて立ち上がり、俺はその手を引いた。




