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さん。



 アース君のお話はまだ続く。もう、余のメンタルが悲鳴を上げているけど。



「最終的にバッタまで縄を引っ張ってたと聞いたときはビックリしました」

「ウン、大変ダッタネ」


 余の目は虚ろ。

 もう!もう!聖剣さんがかわいそうだよ!!

 ネズミさんや犬さんや猫さん、お馬さんまでこの粗忽者のお手伝いしてるなんて!

 ゾゾッとしちゃう奴も手伝おうとしたらしいけど、自分の姿を見た人間が叫んで逃げるから、手伝わなかったらしいけど。ーーそんな事はどうでもいい。


「それで聖剣さんは?」



 じろりと、睨み付けたらにっこり笑顔を返された。そこは恐怖に戦いてくれても良いのだよ。



「はい、最終的に台座が壊れちゃって……聖剣にちょっと台座の一部がくっついているのですが、これも一応抜いた事になるのでしょうか?」



「アウトーッ!」



 突然、ドロン爺が声をあげたので、余もアース君もびっくり。

 しかし、余も同意。


「アース君、聖剣さんにまず謝ろう」

「え?」



 アース君がきょとんと余を見返した。



「……あ、あの」

「何」

「吐いたのが良くなかったのですか?」

「酔っぱらった事から悪いんだよ!」



 改めて血の気を引かせたアース君。けど、ずれてる!


 本当は、お祭り気分が悪いと言いたいけれど、人間側のプレッシャーを考えると、余は君臨しちゃってごめんなさいと言わなきゃいけなくなるので、そこはグッと耐えた。



「女神は出てこないアルか?」

「え?」


 アルカちゃんが頭のお団子のリボンを整えながら、アース君に問う。



「聖剣が抜けたなら、女神の奴が祝福してくれる筈アル。出たアルか?」

「あ…」


 どうやら、女神は登場していないらしい。……聖剣が抜けても、女神に祝福されてないなら勇者はまだ誕生していない事になる。


 ……アース君は、あくまでまだ候補なのだろうけど。余ならこんなに聖剣と拗れた勇者、やめる。



「では、まだ勇者は誕生していないアルね。台座直して仕切り直すアルよ」

「台座直して仕切り直しって」



 アルカちゃんの言葉にカエンが爆笑しているけど、根はもっと深い。

 ……カラー国に聖剣さん、置いておいて大丈夫なのだろうか。


 そして、余はどんな顔で聖剣さんと勇者に会えば良いのだろう。

 もし、これで仕切り直してアース君を選んだ聖剣さんに余は跪いてしまうかもしれない。

 きっと聖なる心と海よりも深い愛に余は浄化される。

 いや、場合に寄ってはアース君しか候補がいなかったのだと人間に深い憎しみを向けてしまうかもしれない。


 己、人間!聖剣さんにばかりに負担を!!とー…、



「あー…じゃあ、持って帰らないといけないんですね」




 ガシガシと頭を掻きながらー…アース君、今なんと!?




「持ってきたアルか!」

「オレ達が危ないだろ!?」

「何!ついに儂にも勇者にれるかもしれないフラグが!!」



 ぎょっとした二人はともかくドロン爺。勇者になりたいのか。つまりは余の敵か。

 余がジトーッと冷たい目を送ると、「……憧れだったのじゃ」と気まずそうだ。

 

「ネリネさん」

「はい、話を聞いた限りでは、その……」



 もじもじと言いづらそうなネリネさん。己、美女が困っている表情がとても美味しい。あとで、あの巨乳に埋まってやる。と決意したら、アルカちゃんと目があい頷きあった。

 ……どうやら、同じことを考えていたらしい。さすがマブダチ。

 そんな些細なやりとりの後に意を決したようにネリネさんは口にした。



「聖剣を誰も持ち上げられないので、聖剣を抜いた件に関わった皆で引っ張って来たそうです」




 聖 剣 さ ん !!




 余の心の涙腺が決壊を起こした。

 もう!もうー…っうちの子になろう。

 余が存命なうちは誰からも守ってあげなきゃ。己、人間め!

 己、女神め!聖剣さんを護らないとは何事だ!!



「おおっ、じゃあ聖剣をぶっ壊すチャンスじゃん!」



 ーー余は立ち上がり寝言をほざいたカエンの腹に向かって全力で頭突きした。



「聖剣さんを壊すなどと許さぬ」



 魔王的威圧を放って仁王立ちする。

 アルカちゃんがお腹を押さえて余に怯えているカエンの顔を足蹴にして冷たい目を向け、「聖剣に謝るアルよ」と、

 余とアルカちゃんは無言で抱き合った。




※※※※※




 今すぐ聖剣さんを励ましたくて魔王城の近くにある黒き森という一年中暗い森にテントを張って、アース君の帰りを待つ人間達の中心部にアース君と四天王でワープし、降り立つ。


「アースと巨乳!」



 ネリネさんにゲスイ視線を送っていた事がわかった身なりの良い男をアルカちゃんが氷漬けにした。ーーので、すぐにカエンに解凍させた。

 やめて!人間だと死んじゃう!!魔族スキンシップ、危険!!



「ネリネの巨乳は魔王様とあたしのものアル」

「……旦那様がいるのですが」



 旦那様がいる事は初耳だったが、余にもアルカちゃんにも些細なことだ。



「心配要らない。プライベートは返すアル」



 アルカちゃんが余の意向まで汲んでくれる。さすがマブダチ。



「あの真ん中のちっこいの何…?」

「なんか…アメあげた方がいいのかな?」

「ほら、こいつが作った新しいお菓子、アップルパイでもーー」

「転生者ーーっ!!」



 ドロン爺が甲羅姿で余が紹介されていた男にローリングアタックする。


 ーー何してるの!?


 アース君が唖然とし、余を見るが余、唖然とした。何?ドロン爺、どうしたの?



「ふ、……あぶのうございましたな。魔王様」



 キリッと亀が男前な顔をしている。

 余はどうすれば良いのだろうと混乱していたら、連れてきていない筈なのに居る侍女長がくいっと眼鏡をあげ、


「ドロン様が危険と仰る相手は大概が危険人物です。ーー魔王様がご心配なさらなくても大丈夫ですわ」




 侍女長がそう言うならばと納得する。しかし、「馬鹿な奴は四天王の中でも最弱の筈…っ」とか「なんだ、あのちっこいのは、合法ロリか!?」とか言う輩を次々甲羅アタックしていくドロン爺。


 嬉々として人間を血祭りにしていくドロン爺に余、ちょっと恐怖を感じて、アース君の後ろに隠れる。アース君が驚いた表情で「女の子でした?」と聞くので「なんで?」と聞き返したら友人にロリという単語は幼女という説明されたと。


 ……余、確実にアース君より年上だと思う。



 ドロン爺の甲羅アタックの後でネリネさんが人間が死なないように回復魔法をかけて歩いている。

 ネリネさん、拝まれてるよ!魔族なのに聖女って何!?

 反対にアルカちゃんは、ちょっとドロン爺が殺り損ねた相手にトドメを……やめて!血肉怖いよ!

 魔女はいいけど、「貧乳!」「ツルペタ」「絶壁様!」は、やばい。

 アルカちゃんが無表情になり特大の氷魔法を人間たちに放とうとして、カエンが必死に対抗してる。

 頑張れ、カエン!余は、もの凄く幼なじみとして応援する。

 ……あと、カエンは魔族だから「救世主様」は、やめなさい。人間たちよ。戦いにくくなるから。


 余の四天王が余の為に危険物を取り払うかのようにお仕事してるけど。余、ちょっとこの状況に震える。


 余がこの状況をどうしようと、アース君を見上げたら、何事もないようにすぐににっこりと微笑んだアース君が、


「あ、聖剣、あそこですよ」


 余の手を引いて、何事もないかのようにエスコートしてくれた。……この子、図太い。




※※※※※



 一応、敬意を払ったのか一番大きなテントの中に祀っては……重くて出来かったらしいので「置いてる?で良いのでしょうか?」と疑問符なアース君。ーーこの子、違った意味で勇者だ。ーーで……誰かがシクシクと聖剣に寄り添って泣いていた。

 淡い光を放った金色のゆるふわな髪を伸ばし、顔を覆って泣く女。


 余はこの神々しさに当てられ眉を寄せる。


「まさか、女神か」


「……まさか、魔王?」



 泣き腫らした水色の瞳を余に向け、「……小さいのね」と、呟くな!

 余は、後一世紀たったら大きくなる予定だもん!

 好き嫌いもしないで、……トマトはちょっと苦手でも頑張って食べてるんだぞ!



「女神像にそっくりな人ですね」


 だって、モデルだもん。

 アース君にハンカチを渡しなさいと命じたら、後から来たアルカちゃんが女神に近寄って差し出した。



「はい、雑巾アル。拭くといいよ」



 アルカちゃん!?


「間違ったアルよ。布巾アル。悪意はないアルよ?」



 ……女神がすっかり萎縮した。

 余も雑巾として差し出された後、訂正してもそれで涙は拭けない。

 意外とお腹が真っ黒だったのか天然なのかいまいちわからないアルカちゃんの代わりに美女に弱いカエンが来て、すぐさまハンカチを差し出したが、……鼻をかむな。女神。

 ぐずん、ぐすん…としばらく鼻を啜る音が暗い森で響く。

 アース君が何かに気づいて、


「聖剣を引っ張る旅をしていたら、誰かが泣く声がしたんですけど、この人か……てっきり、聖剣が泣いてるのかな?って耳を寄せてみたりしたんですけど」



 アース君、聖剣さんに泣かれるようなことした自覚があったのか!



「アース君、本当に一回聖剣さんに謝ろうね!余も一緒に頭下げてあげるから!!」

「あ、はい」



 にこにこと余の頭を撫でるアース君。この子、余が自分のお腹くらいしかない背とロリという単語に当てはまると聞いてから子供扱いし始めた。


 確実に余の方が年上なのに。


 いいんだもん。いまだけだもん、いつかお城もぷちっと踏み潰すんだもん!


 すんすん、と女神が漸く落ち着いてきたようだ。


「女神よ、何故この場に?」



 次にテントに来たネリネさんの疑問に女神の目から、また涙がぶわっと



「落ち着いてからでいい。ちゃんと話を聞こう」



 余は、威厳たっぷりに胸を張ると「魔王ちゃん………かわいいのね」とーー、女神よ。余はカッコいいのだ。決して愛玩動物ではないから、アース君と一緒に、あ、やめろ。皆で頭を撫で始めるな!



「で、アニマルセラピーも終えたところでどうしたアル」



 余はアニマルではない!何故、皆満足げな表情でほっこりしているのだ。

 余、憤慨!

 一番、アース君がしつこい。



「……その……」



 ネリネさんには勝てないがそれでもたゆんたゆんのボイン。

 余は思わず自分の胸を見た。……アルカちゃんも見ていたらしく、顔をあげた瞬間、頷きあう。

 あの巨乳も観賞用だ。


「ずっとー…」


 アース君に涙が滲んだ瞳で上目遣いだ。しかし、アース君は、余の頭に夢中でポニーテールにし始めた。

 アース君、神経太すぎるよ。



「聖剣が勇者を照らす光を放つのを」



 儚げな美女の肩を自分に寄せようとしたカエンがアルカちゃんに蹴り飛ばされた。




「ーースタンバッて待ってましたの」



 余は、アース君に女神に対して速攻で頭を下げさせた。




※※※※※



 女神ポインセチアは、平和な間は抜けないようにしていた聖剣さんにかけた封印が解けたのを感じ取り、カラー国の聖剣の横に姿を消しいつでも出れるようにスタンバった瞬間、聖剣が台座に自力で戻る姿を見て唖然としたらしい。

 そして、アース君のお手伝い発言で、いの一番に手伝っていた小鳥は姿を変えた女神らしい。


 ーー余計な事を!



 余が女神を睨みあげたら、よしよしと頭をーー撫でるな!


「……そのせいか聖剣君がわたくしの声すら無視してしまって」


 何度も謝ったのにと泣く美女に余は全然同情できない。


 余は一応上等な絨毯に横たわっている聖剣さんに跪く。……それにびくりと聖剣さんが震えた気がする。


 ちょっと泣きそう。


「聖剣さん」



 優しく声をかける。余は聖剣さんの味方だ。数々の聖剣さんの屈辱と苦労、葛藤を思い、余は本当にいたわりの言葉を込める。



「大変でしたね」



 余の言葉に震えた聖剣さんがいちにもなく、余に突進してきた。


「ま"~お"~う"~っ!!」


 と、声音を震わせながら余の懐に突進するように迫った聖剣さんをびっくりして動けない余の代わりにアース君が容赦なく思いっきり蹴り上げた。




 ーーシィンと静まりかえる室内。


 アース君は「あ、鞘もなしに突進とか危険だなーと思ったら反射的に」。と、笑顔。


 世界の希望を蹴り上げた勇者候補だった相手と聖剣さんとの関係修繕を諦めなければならないと感じた瞬間だった。


 あと、聖剣さんが「私の気持ちに寄り添ってくれたのが魔王に抱き着こうとしただけなのに」といじけていた…。


 可哀想なので、ネリネさんの巨乳に埋まる権利を譲ったらネリネさん本人に「旦那様以外の異性は」と断られていた。


 聖剣さんって性別あるの?



※※※※※




「……どこから間違っているのでしょう」


 疲れ切った表情の年若きカラー国の王子に余はそっと、『魔殺し』という名前の酒を薦めたらやんわりと断られたので、ドロン爺とカエンに横流しにした。……カエンの「ちょっと、きついな」という言葉を漏らしただけで不満だったが、ドロン爺は泡を吹いてネリネさんに「医療班ー!!」と叫ばれている。



 効力を知れて余、ちょっと満足。



「聖剣さんの台座はちゃんと造り直したよ?」

「……魔王城で、ですか?」


 聖剣さんが帰りたくないというなら仕方ないじゃないか。ちゃんと台座も壊れにくいオリハルコン製だよ。


 後、アース君、毎朝聖剣さんへの謝罪をさせるためにお掃除係をさせている。でも、日に日に聖剣さんが殺気立ってる気がする。

 いったい、何をやってるのアース君。


 件の件に関わっている人間は基本的に国に帰りたがらないので、ドロン爺と侍女長に対応を任せたが、クッション役を任せたネリネさん人気が留まることを知らないようだ。


 旦那様、頑張って。


 余はあの巨乳を手に入れていた旦那様に妬みしかないので、相談しに来ない限り放置だ。


 そういえば王子だった。


 何か色々ほかの国に文句を言われているらしい。毎日ねちねちと届く文に聖剣を取り戻そうとわざわざ少数精鋭で魔王城まで来たらしいカラー国の剣の腕に自信があって王位継承権も低いとされた第三王子を招き入れてお茶を出す。

 旅の途中で出会ったアース君の妹と良い仲らしいので余は贔屓する気満々だ。




「それで、何しに来たのかな。余は話を聞くくらいならするよ?」





 余はニコリとほほ笑んだ。









 解決するとは言ってないけどね。







 





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