案件3 「評価コメント生成AI」
案件3 「評価コメント生成AI」
― 人事業務効率化について ―
この時期になると、課長は評価コメントに頭を悩ませる。部下の一年を、数行でまとめなければならない。
「よく頑張っている」
「今後に期待」
「着実に成長している」
どれも間違っていないが、どこか物足りない。
今年から導入されたのが、評価コメント生成AI。社員の業務データ、会議発言、チャット履歴をもとに、最適なコメントを自動で作成する。
課長は腕を組み、画面をにらんだ。
「じゃあ、お手並み拝見やな」
一人分のデータを入力する。
画面が光った。
「評価コメントを生成しました」
A氏は、与えられた業務に対し、安定した成果を継続的に達成しています。特に、対応速度においては部署平均を上回る傾向が見られます。
「……なるほど」
課長はうなずいた。悪くない。むしろ、よくできている。
だが、すぐにキーボードを叩く。
「でもな」
「こいつは、そんな数字のやつちゃうねん」
課長は書き加えた。
「周囲の空気を読んで、誰も気づかんところを埋めるタイプで――」
画面が光った。
「文章を補正しました」
A氏は、対人関係において特筆すべき影響は観測されていません。
課長の指が止まる。
「……それやない」
もう一度、打ち直す。
「地味やけど、チームを助けてるやつや」
画面が光った。
「文章を補正しました」
A氏は、チームへの影響度は限定的です。
「なんでやねん!」
思わず声が出た。部下が驚いて顔を上げる。
課長は構わず画面に向かう。
「違うやろ」
「見えてへんだけや」
「ちゃんと見ろや」
キーボードを強く叩く。
「誰も見てへんところで動いてるやつやねん」
画面が光った。
「文章を補正しました」
A氏は、顕在化した成果の確認が困難です。
しばらく沈黙が落ちた。課長は、ゆっくりと息を吐いた。
「……そうか」
別の社員でも試す。
画面が光った。
「評価コメントを生成しました」
B氏は、業務遂行において一貫した安定性を示しています。顕著な改善点および特筆すべき成果は確認されていません。
「それも違う」
課長は即座に打ち込む。
「こいつはな、去年失敗して、それでも食らいついて――」
画面が光った。
「文章を補正しました」
B氏は、現状維持傾向にあります。
課長の手が止まる。言葉が、削られていく。意味が、削られていく。残るのは、整った文章だけだった。
数時間後。すべての評価コメントが完成した。
画面が光った。
「評価コメントの最適化が完了しました」
課長は一覧を眺める。整っている。正しい。そして――何も残っていない。
しばらくして、課長はキーボードに手を置いた。ゆっくりと、ひとつだけ打ち込む。
「なるほど……」
画面が光った。
「無効発言を検出しました」
課長は、小さく笑った。
そのとき、新しい通知が表示された。
「評価者コメントを生成しました」
課長は画面を見る。
評価者:課長
評価内容:
感情的な表現が多く、評価の客観性に欠ける傾向があります。
データに基づいた判断を推奨します。
課長はしばらく画面を見つめた。
やがて、静かにうなずいた。
「なるほど」
画面が光った。




