第9話「援護の風 ― 後編」
――ドゥオォォォォンッ!!
ヘリのローターが灼けた空を切り裂く。
熱風が砂を巻き上げ、地平線が歪む。
ノアは機内の床に片膝をついたまま、視線を落とす。
戦場。
ではなく――
“構造”を見ていた。
◆◆◆
『第2班、交戦中。敵増援あり』
ネオンの声。
だが、その情報はすでに“遅い”。
『歩兵約70、車両4、対空機関銃2。制圧率30%』
画面に熱源が重なる。
『風向き南西。視界不良。砂煙濃度高』
一拍。
『――崩れかけてるね、あっち』
◆◆◆
「了解」
ノアの声は低い。
だが、その一言で十分だった。
◆◆◆
機体の隙間から、戦場が見える。
爆煙。
閃光。
弾道。
◆◆◆
それらが“映る”のではなく、
“理解される”。
◆◆◆
「高度100。降下準備!」
ドアが開く。
――ゴォォォォッ!!
熱風。
砂。
音。
すべてが一気に流れ込む。
◆◆◆
ノアは、迷わない。
飛ぶ。
◆◆◆
――ドスッ。
着地。
砂が焼けた匂いを立てる。
◆◆◆
ダダダダダダッ!!
機関銃。
破片。
衝撃。
◆◆◆
だがノアは止まらない。
◆◆◆
視界の先。
ネロとカサンドラ。
瓦礫を使い、位置を固定。
崩されない配置。
だが――
押されている。
◆◆◆
ネロ。
「増援か?」
『違う』
ネオン。
『構造が崩れ始めてる』
◆◆◆
その瞬間。
カサンドラ。
「――頭上!!」
◆◆◆
ドゴォォォォォン!!
爆発。
地面が揺れる。
砂煙が世界を覆う。
◆◆◆
――視界ゼロ。
◆◆◆
だが。
◆◆◆
ノアには見えている。
◆◆◆
空気。
熱。
振動。
呼吸。
◆◆◆
敵の“次の動き”。
◆◆◆
バシュッ。
一発。
◆◆◆
バンッ、バンッ。
二発。
三発。
◆◆◆
砂煙の中。
三人、沈む。
◆◆◆
カサンドラが振り向く。
「……来たのね」
◆◆◆
ノアは答えない。
すでに次を見ている。
◆◆◆
「敵残り五十」
淡々と。
「右高所に四。車両二。狙撃一、二階」
◆◆◆
ネロが笑う。
「早ぇな」
◆◆◆
ノア。
「崩す」
一言。
◆◆◆
カサンドラが理解する。
「展開する」
右へ。
滑るように移動。
◆◆◆
ネロ。
「正面か」
ニヤリと笑う。
「いいね」
◆◆◆
――ドドドドドドッ!!
機銃が止まる。
ネロの弾。
正確。
◆◆◆
爆発。
火柱。
◆◆◆
同時。
カサンドラ。
一閃。
◆◆◆
シュパッ。
血。
沈黙。
◆◆◆
ノアは動く。
地面を滑る。
影へ。
裏へ。
◆◆◆
手榴弾。
ピン。
転がす。
◆◆◆
カチ……
――ボンッ!!
◆◆◆
敵の“密度”が消える。
◆◆◆
ネオン。
『北側圧力消失!』
『侵入成功!』
声に興奮が混じる。
『敵、指揮系統崩壊!』
◆◆◆
ネロ。
「いい流れだ」
◆◆◆
だがノアは違う。
◆◆◆
流れを“作っている”。
◆◆◆
廃墟の上へ跳ぶ。
◆◆◆
見下ろす。
◆◆◆
戦場。
ではない。
◆◆◆
“配置”だった。
◆◆◆
「……終わらせる」
◆◆◆
パンッ。
一発。
◆◆◆
パンッ。
二発。
◆◆◆
パンッ。
三発。
◆◆◆
リーダー格。
消える。
◆◆◆
沈黙。
◆◆◆
風が抜ける。
砂が流れる。
◆◆◆
「第2班、殲滅確認」
カサンドラ。
冷静に報告。
「被害軽微」
◆◆◆
『了解』
ソフィアの声。
静か。
だが、満足している。
『いい連携ね』
◆◆◆
ネロが銃を肩にかける。
「はぁ……終わりか」
煙草を咥える。
◆◆◆
カサンドラが刀を拭う。
「いい仕事だったわね」
一拍。
ノアを見る。
「可愛くて、危険」
◆◆◆
ノアは空を見上げる。
灰色の空。
その隙間。
光。
◆◆◆
風が吹く。
◆◆◆
その風が、
血の匂いを運び、
そして――
消していく。
◆◆◆
ネロが呟く。
「……静かだな」
◆◆◆
ノアは小さく言う。
「整っただけだ」
◆◆◆
カサンドラが反応する。
「整った?」
◆◆◆
ノア。
「乱れを消しただけ」
◆◆◆
沈黙。
◆◆◆
ネロが笑う。
「怖ぇこと言うな」
◆◆◆
だが。
◆◆◆
その言葉は、真実だった。
◆◆◆
この戦場には、
もう何も残っていない。
◆◆◆
音も。
意味も。
◆◆◆
ノアが銃を収める。
「……援護、完了」
◆◆◆
そのまま歩き出す。
◆◆◆
背中を見ながら、
カサンドラが小さく笑う。
「――風、ね」
◆◆◆
ネロ。
「ああ」
煙を吐く。
「全部、流しやがる」
◆◆◆
夕陽が差す。
赤い砂が黄金に変わる。
◆◆◆
その日。
戦場を吹き抜けた風は――
何も残さなかった。
――次回更新:明日17:30公開予定
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『ゼロバレット』続編、第10話「戦場の余白」――
をお楽しみに。




