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屋台を楽しみましょう。

「ありがとうございます、本当にありがとうございますっ……!」

「いえいえ、無事でよかったです」


 泣きながら頭を下げる恰幅のいいおばさんに、僕は手を振る。

 ここは東の町、中央ストリートから筋を二本くらい外側へ移動したところ。商いを営んでいる人たちの住宅街だ。簡素な住宅が並んでいて、近くには生活用水路が流れている。こういうところで生活水準が分かるんだけど、悪くない。

 というか、公共衛生が凄くしっかりしてる。

 生活用水路は一定距離ごとに浄化されるように札がはってあるし、上水道と下水道が分かれてる。

 これは近くに町の近くに大きい川が走ってるからなせるんだけどね。


「このバカどもにはキツいお灸をすえてやらないと」

「はは、でも本人たちは悪いことって自覚もしてましたし、反省もしてましたし」


 野党たちへ案内する道中、フィブリアさんがこんこんと説教したんだ。

 結果、二人とも泣きながら反省してたんだよね。

 だからもうこんなことはしないと思う。僕とフィブリアさんはそのことを伝えておいた。


「本当に何から何まで……そうだ、お礼をしなきゃ! あんた! あんたぁぁあああ!!」


 びりびり!

 と痺れるくらいの怒号が響いて、家の奥から慌てて誰かが飛び出してくる。姿を見せたのは、痩せたおじさんだった。メガネがすごく似合ってる感じ。

 おじさんは手に何かをくるんだ葉を抱えていた。


「今終わったところだよ」

「うん。だろうと思ってさ。ありがとう」

「そんなことないさ。君のことは何でも分かるから」

「やだっもう」


 キザにいわれて、おばさんは顔を赤くさせた。

 幸せそうだなぁ。いいなぁ。仲良しっていいことだしね。

 フィブリアさんもあてられたのか、顔を微妙に反らしていた。

 おばさんを向き直ると、僕にその何かをくるんだ葉を手渡してくれる。ずっしりと重い。それにこの匂い……お肉だ! しかも結構あるぞ!


「うちは肉屋やってるんだけど、これは自慢の肉なんだ。よかったら食べておくれよ」

「いいんですか? こんないっぱい!」

「ああ。お礼だからね! これでも足りないくらいだよ!」

「そうそう。だから受け取ってくれ。焼くだけでも美味しい一品だよ」


 二人して笑顔でいってくれる。わぁ、ありがたいな。

 なんか、嬉しい。

 誰かを笑顔にするつもりで、今回は助けたんだけど、逆に笑顔にされちゃった。


「うちのモットーは熟成肉なんだ。確かにおろしたての肉も美味しいけど、熟成させた方が旨味がますんだ。それぞれの肉質にあった熟成方法を採用してるから、間違いない美味しさを保障するよ!」

「そんなお肉を……ありがとうございます。美味しくいただきます!」

「おう、そうしておくれ!」


 僕とフィブリアさんはお礼を何回もいって、家を後にした。

 いったん馬車へ戻ったところで、肉の様子を確認する。


「こ、これは……」


 すごい、牛肉だ!

 それもかなりの高品質だ。じっくり熟成されてるのがすごく分かる。お肉の色が濃いし、それだけじゃなくて、サシも綺麗に入ってる。


 うーん、何を作ろう。


 色々とレシピは思い浮かぶけど……これだけのものだと、余計な味付けはかえって邪魔だよね。

 と、なれば、アレかな。

 今日の晩ごはんはこれで決まり!

 必要なものを確認しつつ冷蔵庫に入れて、僕は馬車から出た。


「じゃあ、必要なものを調達するついでに、軽くお昼も済ませちゃいましょ」

「うむ、そうだな」


 目指すべきは屋台だ!

 どんなお店が並んでるんだろうな。卓上旅行じゃ絶対に味わえない醍醐味だ。

 わくわくしながら、僕はメインストリートに出る。昼も過ぎた頃なのに、まだまだ賑わいはある。


 うーん、いい匂いだぁ!


 そこらじゅうから、美味しそうな香りが漂ってくる。フィブリアさんもきょろきょろしながら鼻をかいでいた。

 ラインナップの確認もしなきゃだけど……もうお腹も限界だし、あの店にしよう。


「フィブリアさん」

「そうだな。とりあえず何か食おう」


 意見は完全に一致。

 目指したのは、串焼きのお店。オークバラ肉の串焼きがある! 見るからにジューシーそうだ。これはハズレないはず。


「おじさん、二本!」

「あいよ、280ロットな」

「はい」

「毎度ありぃ! ピリ辛だから気をつけろよ!」


 おじさんは威勢のいい笑顔で串を渡してくれた。あ、焼き立てだこれ。湯気がたってる!

 僕は一本をフィブリアさんに手渡して、早速食べる。少しだけ息を吹きかけて冷ましてから……


 はちゅっ。


 すごく瑞々しい音がした。

 んん~~~~~~っ! すごくジューシー!

 それに柔らかい!

 すぐに噛みきれた! でもこれは脂が多いからじゃなくて、肉そのものが柔らかいんだ。丁寧に下処理されてる証拠だ。


「うまいな、これは」

「ですねぇ」


 ひと口なのに、唇がてかてかするくらいのジューシーな脂。柔らかくて噛みやすいけど、程好い弾力の肉。

 これを際立たせているのは、塩とスパイスだ。

 なんだろうこれ、コショウだけじゃないな。舌の上でピリピリっ! と刺激的!

 ああ、そうだ。トウガラシだ!

 屋台でスパイスを二種類使ってるなんて贅沢だなぁ。確かに東の町は、香辛料の畑があるから、豊富に手に入るんだけど。


「んー、エールが欲しくなる味だ」

「いいですね、近くにありますよ。あ、でも僕はパインジュースがいいです」


 もうお酒飲める年齢でもあるし、飲めないわけじゃないけど、酔ったら味がぼやけちゃうからね。

 目的は、屋台の調査と調味料とかの調達!


「親父、エール一つとパインジュース一つだ」


 フィブリアさんがすぐに注文して、腰にぶら下げていた木製のジョッキを手渡した。

 屋台ではよくある光景だ。

 こういうお店では、自分でコップを用意してくるんだよね。僕もしっかり持ってきてるよ。

 店の人は「あいよぉ!」と元気よく返事をして、まずエールを注ぐ。


 とっとっとっとっ……しゅわぁぁあ。

 

 重みのある黄金色が発泡して、白い泡で蓋をする。こぼれるかこぼれないかの瀬戸際で、発泡のピークが終わる。

 上手な注ぎ方だなぁ。慣れてるからかな。

 なんて思いながら、僕はパインジュースを受け取る。あ、こっちはパインもついてる!


「とりあえず、かんぱい」

「かんぱい、ですね!」


 こつん、と軽くコップをあててから、僕とフィブリアさんは肉をかじってから、きゅっとあおる。

 んんんんっ。

 パインジュースの甘味と酸味が、舌に残った肉の旨味と辛味を美味しくしながら流してくれる。残る果実のさっぱり感はたまらない。

 フィブリアさんも、喉をごっごっご、と鳴らしながらエールを飲んでいる。


「ぷはぁーっ! うまいな、このエールは!」


 唇についた白い泡を拭いながら、フィブリアさんは至福の表情を浮かべた。

 お酒好きなんだなぁ。

 もう少し顔が赤くなってるけど。


「魔界の居酒屋で出される、水っぽくて土くさいエールとは段違いだな」

「ちゃんと加工してますからねぇ」

「だろうな。丁寧だ。もう止まらんよこれは」


 フィブリアさんはそういうと一気に肉にかぶりついて、ぐいっとエールを飲み干す。気持ちいいくらいだ。お腹も空いてただろうからね。

 僕も肉を食べて、次のお店へ向かう。


「ビートの包み焼きだよー!」


 へえ、美味しそう。僕が野盗たちにも出したメニューだ。味はなんとなく想像つくんだけど、自分以外が作る人のって気になるよね。

 僕とフィブリアさんは早速購入する。

 包みを解いて、アツアツのままぱかっと割る。


 あ、レッドビートだ。


 ポピュラーな品種だね。味もシンプルで美味しいんだよねぇ。

 ふわっと香り高いのはバターだ。これは間違いないヤツ。一口食べると、はふはふと口から湯気が漏れる。

 ほくほくしてて、じわーっと甘みがあって、バターの香ばしさとコクがたまらない! うん、上手く臭みを消してる。これは美味しいなぁ。


「これは芋みたいだな。食感がちょっと違うが」

「ですねぇ。ほくほくです」


 ビートは小さいのですぐに完食。口の中が熱いのでパインジュースできゅっと冷やしておいて、次だ次。

 色々あって悩んじゃうなぁ。

 何にしようかな。あ、あれ美味しそう。

 近寄ってみると、鉄板で白身魚が焼かれていた。でも、フツーの焼き魚じゃあない。


「いい香りだ。気になるな」

「面白いですよねこれ。食べてみましょう。すみません、二つください」

「あいよ。美味いぞぉ!」

「期待してます、ありがとう」


 おっちゃんは手際よく準備してくれた。

 手元にやってきたのは、小ぶりだけどちょっと厚めに切ったバケットに、チーズとお魚が乗ってるもの。

 すごく香ばしい。


「これは……?」

「ムニエルですね。お魚に下味をつけて、小麦粉をまぶして焼いたものです。こうすることでお魚の脂と旨味を逃さないんです」

「なるほど。早速いただこうか」


 ざくっ、さくさくっ。

 フィブリアさんが小気味いい音を立てる。僕も口にいれる。

 うん、これはバケットがカリカリに焼かれてるんだ。香ばしい!

 それだけじゃない。バターがしっかり効いたムニエルもサクサクだ。なのに中の白身はほろほろのふわっふわ。んんー。美味しい。

 極めつけは塩気のあるチーズだ。あっさりした白身にパンチを出してる。チーズのコクと風味が、魚の臭みをいい具合に打ち消してる。上手なチョイスだなぁ。


「これは……すごいな。魚だと思ってたら、結構パンチがある」

「バケットを使うのもいいアイデアですよね、食べやすいですし」

「うむ。うまいな」


 他にもベーコンに焼き魚。焼き野菜やスープなんかもあった。

 本当に色とりどりだなぁ。 

 しれっと観察しつつ、情報収集も行っておいた。ここで店を開いてみたいから。人通りもあるし、活気もあるし、みんな好奇心あるし、いっぱい笑顔にできるんじゃないかなぁ。


 ここで店を開くのは、案外簡単だ。


 町にある商会に申請すればいいだけみたい。ややこしい書類作成とかもないみたい。使用料はちょっとかかるみたいだけど、微々たるものみたいだし。

 だからこんなに活気があるんだろうな。


「ふう、お腹が少しマシになったな」

「時間が時間ですし、六割くらいにしておいた方がいいですものね」

「うむ。どうするんだ? 市場にいくのか?」

「はい。晩御飯に必要なものを揃えたくて」


 特に野菜類が足りないし、買っておきたいんだよね。後、お店に出す商品の試作品も。時間的に夕飯前だから、結構品揃えもあるんじゃないかな。

 ちょっと期待しつつ、僕らは屋台エリアを抜けて市場の方へ向かう。


「わぁ、こっちも賑やかですね!」

「本当だな。色々とある。食べ物ばかりじゃないんだな?」

「ええ、色々と日常雑貨とかもあるみたいです」


 屋台じゃなく、テント展開なのも面白いと思う。本当に色々とある感じだなぁ。

 さすがに武器屋はないけど、日常生活に必要なものならここで全部そろいそうだな。

 馬車にもちょっとした小物とか必要だろうし、手に入れてもいいかも!


「……おいおい、また塩の値段が上がってるぞ」

「質も落ちてきてるしなぁ」

「このままじゃ……」


 ……おやおやぁ?


屋台で食べるものって全部美味しく思えちゃいますよね。

たまには出店のものを、ということで。

次回はちょっとしたストーリーを用意します、ぜひぜひ応援お願いします。


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新連載はじめました! 追放ものです! ぜひ読んでお楽しみください!
料亭をクビになったけど、料理人スキルが最強すぎたので傭兵やることになりました。
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