鳥もも肉の塩焼き大作戦!
「ん、んん……」
埋まった下半身をひっこぬいて五分。二人はやっと目を覚ましてくれた。
ゆっくりと目をあけて、フィブリアさんと視線を合わせて、また気絶。って。
今、すっごい滑らかに倒れたなぁ。
「狸寝入りするなアホう。それとも死んだフリか?」
「(おい、喋るなよ、気付かれたら終わりだぞ)」
「(そっと通りすぎるのを待て、そうすれば助かる)」
「丸聞こえだ貴様らっ!」
こそこそとやり取りをする二人の頭上から、フィブリアさんは叱りつけた。
「俺は熊か何かか! いっとくけど熊に死んだフリはきかないからな!? むしろ本当に死んだかどうか確かめてゴッソゴソにされるんだからな!?」
「え、そうなのか!?」「ばかっ!」
「「あ。」」
二人はがばっと起き上がってから、同時に互いを向き合う。
楽しそうなやり取りだなぁ。
なんて思ってると、フィブリアさんは盛大にため息をつきながらがっくりと肩を落とすどころか、うなだれた。
「アホどもめ。本当なら一撃でぶっ飛ばすところだ……戦場だったら真っ先に命を落とす」
「まぁまぁ。もう戦争なんてしてないですから」
「そういう意味でもないんだが……まぁいい。どうせこいつらも助けるつもりなんだろ? いかにも野盗には向いてないからな」
「ズバズバいうんじゃねぇよ! デシカリーってのがないのか!」
「それをいうならデリカシーだ」
ずい、と詰め寄りながらフィブリアさんは訂正した。
「それと、あっさりと見抜かれるお前らの方が悪い」
「う、うるせぇっ! これから立派な野盗になるんだよ!」
「そうだっ! いつも子供扱いするクソババァを見返してやるんだ!」
顔を真っ赤にさせながら抗議してくる少年二人。
「うわぁ。一から十まで全部フィブリアさんの予想通りですね」
「むしろ引いた。っていうか立派な野盗ってなんだ」
「こう、髭面でイカつくてマッチョな感じ?」
「こいつらの青臭い顔つきでは無理だろう。せいぜいが安っぽいチンピラ風情だ」
「いいたい放題かよ!」
「くそう……っ!」
「っていうかね」
僕は前に出る。
「野盗って犯罪だよ? 誰かを不幸にするんだよ? しかも、間違いなく。悪いことだって分かってるよね? そんなことして本当に気持ちいいの?」
「う、うるせぇな! 楽しいからやってんだよ!」
「こんな痛い目にあったのに?」
即座に切り返すと、二人は声を詰まらせた。
すると、フィブリアさんが隣に立って援護射撃をしてくれる。
「教えておいてやるが、野盗の連中はお前たちなんて大事だと思っていないぞ。もし本気で育てるつもりであれば誰かがサポートにつくだろうからな。そうじゃなく、お前たち二人で野盗させている、というのは、棚ぼた狙いだろうな」
「そ、そんなことっ」
「どうせ簡単なナイフの扱い方だけ教えてもらって、んでもう一人前だから何か一つ成果出してこいと放り出されたんだろう?」
「ど、どど、どうしてそれを……」
「分かりやす過ぎる動揺だな。まったく。いいか? 野盗連中からしても、いきなり転がり込んできたひょろっちい小僧なんて邪魔でしかないんだ。テキトーな理由をつけて追い出されたんだ。それこそ……死んでも構わないからな」
フィブリアさんの直接的な言葉に、二人とも言葉を失う。
実際、フィブリアさんじゃなくて用心棒とかだったら、命を落としていても不思議はない。悪いのは野盗、だからね。
「で、でも! 町で僕らはスカウトされたんだ! だから……!」
「スカウト?」
「そうさ! お前たちなら一流の野盗になれるって!」
一流の野盗ってなんだろう。ちらりとフィブリアさんを見るけど、フィブリアさんは呆れているばかりだ。
でも気になるな。スカウトって。
「……まぁ、分かりやすく身代金を要求するつもりなんだろうな。お前たち、どうせ名前とか住所とか、色々と喋ったんだろう?」
フィブリアさんの確認に、二人は頷く。ってことは、確定かな。
「それは阻止しないといけませんね。全員捕まえて役人に突き出しましょうよ」
「絶対そういうと思った。だからいうの嫌だったんだ」
「でも答えてくれるフィブリアさん好きです」
笑顔でお礼を伝えると、フィブリアさんはそっと視線を逸らした。
ともあれ、野盗の悪だくみは防がないとね!
「どうするんだ? さっさと殴り込みにでもいくのか?」
「それだと、全員捕まえられない可能性あるじゃないですか。見張りとかもいるでしょうし、そういうのって襲撃したら逃げるでしょ」
「否定はできないが……どうするんだ?」
「任せてください」
思いついたこと、あるんだよね。
▲▽▲▽
――昼。
ぱちぱちと、たき火にくべた木の枝が弾けて火花を散らす。
熱と光の傍らで、僕とフィブリアさんは作業していた。近くには物々しい剣を持った監視の野盗が数人。
そう。僕たちは無事、野盗の本拠地へ入り込んでいた。
簡単なことだ。子供たち二人に捕まったということにして、案内してもらった。そこで命乞いして、料理を作れるって話をして、飯当番になったってわけ。フィブリアさんの話術が冴えた結果だ。
「よし、全部さばけたぞ」
「ありがとうございます」
フィブリアさんが捌いた肉を渡してくれる。ニワーク鳥だ。
朝、フィブリアさんが取ってきてくれた卵から、この鳥が大量発生してるって推測してたんだよね。この鳥は仲間が増えすぎると無精卵をよく産むから。
野盗たち全員にいきわたる程度に鳥さんを狩って、今は調理中ってわけ。
この鳥は血合いさえすれば肉の臭みがほとんどない、食べやすい鳥だ。脂と肉のバランスもいいしね。綺麗に捌いてもらって、塩とハーブに揉みこんで、さらに臭みを消しつつ味付けを施す。
後は、バターを表面に軽く塗って、石を組み立てて作った簡易石窯でじっくりとローストするだけ! テーブルビートも手に入ったから、付け合わせ的に焼いておこう。
火加減が命だから注意しないとね。
それと、スープも作っていく。鳥の骨から取った出汁に、塩と砂糖を入れて味を調えて、肉とテーブルビートの若い葉っぱを入れてひと煮立ち。これだけ。簡単で美味しいんだよね。
ただ、野盗は全員で三十人。
全員にいきわたらせるためには、石窯一つじゃ足りないので幾つも作って対応していく。フィブリアさんにも火加減を見てもらって、やっと出来上がり!
「ほおう、うまそうじゃねぇか。どれ、一口」
早速野盗のリーダーに食べさせる(というか、ここではリーダーが先に食べるのがルールみたいだね)。うん、すごく美味しそうな匂い出してるもんね、これ。
リーダーはもも肉のローストをがぶっと齧る。
パリッと皮が割れる音に、柔らかい肉が切れる音。断面からは、とろっと黄色くさえ見える脂がしみだしてきていた。あー、あれ、絶対美味しいやつ。
思わず生唾飲み込んじゃうよね。
「んんっ! これはうめぇな! おい野郎ども、食え食え! これはエールともあうぞ!」
リーダーのツルの一声で、どこからともなく樽が出てくる。豪快に割って、カップですくうだけの荒々しさ。うわぁ、と思わず声に出そうになるけど我慢我慢。
ちなみに僕たちの分はない。さすが野盗って感じだけど、こっちとしては好都合。
「すげぇ、今まで食ってたのと同じ鳥とは思えねぇ!」
「皮はパリパリ、中は肉汁たっぷりジューシー! たまんねぇな!」
「このスープも悪くねぇな。さっぱりしてるのに旨味がヤベぇ」
「ビートもほくほくだ!」
僕とフィブリアさんは給仕として、いろんなところに回る。
見張りの人たちにも食べてもらわないとね。
だって、そうじゃないと――全員眠らせられないから。
食事を始めて、約二十分。みーんな、あっさりと眠りについていた。すやすやと深い眠りについてる。みんながっつり食べてくれたので、よーくきいてるね。ちょっとやそっとじゃ目覚めないくらいだ。
僕とフィブリアさんは、盗賊たちを一つに集めて、ぐるぐる巻きにした。後、目覚めても動けないように痺れ魔法もかけておく。
「しかしまぁ、こうも簡単に騙されてくれるもんなんだな」
フィブリアさんは盗賊たちを睥睨しながらため息をついた。
「美味しいご飯には誰も逆らえないものです」
「そんなものか」
僕が仕込んだのは、眠りハーブ。
知る人ぞ知るハーブでもある。何せ、普段は香辛料として使うハーブだからね。採集したら、さっと乾煎りして、粉末に擦る。こうすると催眠効果はなくなってしまうんだけど、生のまま使うと、鳥の脂と混じった場合にのみ、強力な催眠効果を発揮する。
もちろん、日常生活魔法で《浄化》を施すとあっさり消えるんだけど。
今回は、それをしなかった。
だからみんな爆睡してるってわけ。
ちなみに少年たちも眠りこけている。ちょっと悪いと思ったけど、野盗たちに怪しまれないためだ。さすがにまとめて縛りあげるってことはしないけど。
「これで後は役人たちが引っ立てるのを待つばかりだな」
「通報はもうしてありますからね」
「それじゃあ、この子たちを連れて戻るか」
「そうですね。家族の元へ連れていってあげましょう」
フィブリアさんはこともなげに二人を担ぐと、馬車へ向かった。
僕もその後を追随する。
ぐきゅう、と音がした。
確認するまでもなく、お腹の音だ。
「しかし、腹が減ったな……」
「そうですね。食事作戦は効果的でしたけど、結構動きましたしね」
「あの肉、美味そうだったなぁ」
「そうですね。町にいったら、屋台で買い食いしましょうか」
「そうだな」
じゃあそのためには、まずご家族の元へ帰してあげないとね。
僕らは足取り早く、馬車へ向かった。
もも肉って本当にジューシーですよね。こういうガッツリメシも今後増やしていこうと思います。
次回も更新していきます。
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